第114話 雷撃

114 雷撃


潜望鏡には、払暁にもかかわらず濛々たる黒煙が見えている。

ついに、開戦したのである。

小松は、逆楔型に潜水艦隊を並べていた。

至近距離であれば、海中通信が可能であった。

全てが、テスラ通信の技術を使っている。


その逆楔型の陣形を敷いた部隊が、120度にわたり真珠湾の出口に向かって展開していた。

本当に、潜水艦が作られていたのだ。

既に、海軍の所有する数よりも上回っていることは確実だった。

個人が所有する戦力であるなどと誰も信じないだろう。

信じたくもない。だが、それは真実だった。


駆逐艦は逃げるだけで精一杯のようで、対潜哨戒を行っていない。

戦艦を守る数がすくなすぎるのであり、しかも時間がなかったのだ。


「全艦、一斉射撃、発射!」小松司令官が全艦に命令を下す。

「1番から6番まで全弾発射」次々と魚雷を発射する小松艦隊。


航跡の見えない酸素魚雷が200発以上、一斉に発射される。

漆黒の暗殺者のように、航跡を見せずに疾走する魚雷。

この飽和攻撃を回避することなどどうやっても無理であった。




突如として、前方の駆逐艦が水柱に包まれる。

まさに轟沈である。

「どうしたというのだ!」キッド少将が、口走った瞬間に、ネバダにも複数の魚雷が直撃した。猛烈な衝撃に吹き飛ばされるキッド少将。

それが彼の最後の意識になった。

彼は鋼鉄の壁にたたきつけられ意識失ったのである。


戦艦ネバダは、前進する推進力を魚雷の爆発により押しとどめられるような形で衝撃を受け停止させられた。

その力の作用により中央部が折り曲げられるような形で破壊され、次の瞬間に轟沈したのである。

後続のテネシーも雷撃が次々と命中していく。

ダメージコントロールなどとても不可能であった。

左舷に次々と命中弾を浴び、大浸水を興し、あっという間に転覆してしまったのである。

こうして、真珠湾口は、戦艦2隻が轟沈し、入り口をふさぐという最悪の結果におわるのであった。


「やった!」聴音手が叫んだ。

「「「「おおおお~」」」」」

艦内には喜びの歓声があがった。

飽和攻撃が2隻の戦艦と複数の駆逐艦を一掃したのである。

まさに快挙であった。


「各艦に下令、第2作戦域へと向かえ!」小松指令官が潜水艦隊に命じる。

第2作戦域とは、サンディエゴ、ハワイ間の航路である。

ここで、空母サラトガの艦隊の迎え撃つためである。


小松は思う。

何故、空母サラトガがサンディエゴにいることを知っているのだと。

だが、言われた通りにしただけで大戦果であった。

本当に、神の子という訳ではないだろうが・・・。


35隻の潜水艦隊は、東に向けて移動していく。

人知れずに潜航したままで。


オアフ島の戦闘は昼過ぎにはすでに終局を迎えていた。

あらゆるものが破壊されていた。

迎撃に舞い上がってくる戦闘機もない。


民間機が迫ってきたことはあったが、容赦ない第7艦隊の戦闘機は一瞬で撃墜した。


地上を動く者はことごとく銃撃の洗礼を浴びた。

陸軍の官舎も爆撃されていた。

圧倒的な機数の航空機で第2次第3次と攻撃が行なわれたのである。


陸軍のショート中将も名誉の戦死を遂げていた。

完全に米軍は頭を潰された蛇のような状態になっていたのだ。


各自の判断で機銃座に飛び込むが、ロケット弾がそれを破壊した。

機銃弾なら土嚢で防げるが、ロケット弾は防げなかったのだ。

そして、夜の闇が訪れたころのことである。

何とか生き延びた人々は、ようやく吐息を吐き出した。

だが、それが悪かったのだろうか。


ヒュ~~~~ン、ドドド~~~ン。

巨大な砲弾があちこちに落下し始めたのである。

連合艦隊、第7艦隊の戦闘艦は、オアフ島を包囲し、艦砲射撃を開始したのである。

暗闇の中に、発砲炎で浮かび上がる巨大戦艦が残酷で美しいシルエットを浮かびあがらせる。


真珠湾基地は、まさに徹底的に破壊されることになる。

航空爆弾などくらべものにならないような巨大な爆発が辺りを引きちぎっていく。


第7艦隊の戦艦が発射する火災榴弾は爆発すると辺り一帯に激しく燃える金属をまき散らす、周囲一面を激しい火災に巻き込んだ。

そして、水偵から得た情報をもとに正確に被弾していない場所に、その砲弾を撃ち込んでいく。

それは、精密な機械の様だった。


砲撃が終わる頃、真珠湾基地には何も残っていなかった。


まさに、灰燼しか残らないような稠密な砲撃を経験したのである。

生き残った兵士たちは、恐怖で気も狂わんばかりになっていた。

今でいうPTSDである。


水偵たちは射撃管制の任務を終えると、ハワイの街にビラをばら撒いてさった。

「来るべきハワイ王国復活の日に備えよう!」

「日本はかつての友誼を忘れない、立ち上がれハワイ民族よ」

「我々は再び帰ってくる(ウィーシャルリターン)」

明らかに再攻撃とハワイの独立(占領)を目指しているようなビラであった。

そして、明らかに誰かの科白をパクっていたのである。


そもそもハワイは、独立国であった。

歴とした王が存在したのである。

しかし、米国海兵隊が、武力で制圧し米国領としたのである。

米国は、決して、人の侵略行為を誹ることができないようなことをしてきたのである。


ハワイ島の住民たちも砲撃こそ受けなかったが、壮絶な衝撃を受けて居た。

圧倒的な艦砲射撃の余波は充分に感じることはできたのである。

そして、今や、駐屯している陸軍も重大な被害を被っていた。


さらに、活動家も島にすでに入り込んでいた。

もともと日系移民の多い島である。

英語のできる日本人は目立たないのだ。

宣教師として入島した人間である。

そう、彼らは日月神教の宣教師である。

そして、特殊部隊の隊員であった。


人気のない場所に、パラシュートがいくつか開いていた。

そして、パラシュートの先には、武器を満載した木箱くくりつけられている。


それらは一旦近くの洞窟に隠されたのである。


それらの武器は、ハワイ王国復活の日に向けて一旦、眠りにつくのであった。





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