第115話 作戦会議(回想)

115 作戦会議(回想)


第一段作戦は成功裡に終わり、艦隊は第二段作戦へと突入していく。

真珠湾から出港している敵空母を捜索撃滅しなければならないのである。


時は遡る。

そもそも、作戦計画は真珠湾内に3隻の空母が存在するのではないかという前提で建てられていた。しかし、ある男がこう言い放ったのだ。

「12月8日時点で空母は存在しません。」

「何を言っているのですか、中将」参謀が止めに入る。

「私は、12月8日の真珠湾を見てきたのです。一種の透視です。」と言い放つ海軍中将。

「中将、ここはオカルトを語る場所ではありません」と静止する参謀。

「まあ、良いではないか、いれば同時に撃滅でき儲けものだ、ないことを前提としたほうが、より柔軟な作戦を用意せねばならないのだから、咲夜のいうことは一理ある」なんと山本大将が、助け船を出したのである。


確かに、いれば同時に作戦上で叩きつぶすことができるので、そのままでよいのだ。

しかし、いない場合は別の作戦を用意する必要があるということになるのは尤もなことであった。


作戦会議でオカルトをもみてきたと言わんばかりに言い出す、咲夜中将はやはりいかれている。参謀は苦虫を噛み潰したような苦い顔をしている。

しかも、長官まで味方するなどとは、これでは海軍の未来はどうなってしまうのだ。

参謀の胸に不安がよぎったのは当然のことであったろう。


「2隻は、ミッドウェー島、ウェーク島へと航空機の輸送任務に就いていました。そして最後の一隻は、サンディエゴで修理を受けて居たのでした」

「閣下、少し静かにしていただけませんか」参謀の松田大佐が止めに入る。

参謀長の宇垣は何も言わない。目で辞めるように合図を送っているが、松田には届いていない。


「君は、なんだね!」男が居丈高に糾す。

この男は、皇族にすら命令する男なのだ。

「参謀の松田です」

「ふ~ん、で何を黙れと言っているのだ、誰に向かって言っているのだ」すでに、スキル『死のオーラ』の放射が始まっている。武闘派というよりは、過激派であり、テロリストである。

「まあ、待て、咲夜。松田も黙れ、空母は湾内におらず、航空機輸送を行っているのは至極当たり前の状況だ、この条件で兵棋をしても何も問題にはならん」と慌てて山本長官が止めに入る。このオーラを浴び続けると、意識を失ったり、正気を失ったりするという悪影響が出るのだ。


松田大佐は、かなり後に兵学校に入学していたので、この男の暴挙の数々を詳しく知らなかったのである。松田大佐が参謀になっているのは、本来、黒島大佐がなるところだったのだが、彼は、柳条湖事件の被害者となっていたからである。

帝国の優秀な頭脳が失われた影響がここでも出ていたのである。


結局、その条件で兵棋演習が行なわれる。

日本軍側は、強襲を選択し、開戦。

しかし、島内の防空戦闘機の為に上手くいかず、不利な展開になっていく。

そして負ける。


「ハハハ、これでは真珠湾攻撃は出来ませんな」笑い出す男がいた。

この時点でも、第7艦隊(月光の艦隊)の存在は伏せられていた。

「咲夜ちょっとこい」山本が咲夜を作戦室から引っ張り出した。

そして、昨夜は二度と帰ってこなかった。


兵棋演習は2度3度と行われ、ようやく日本軍が勝って終了したのである。

勝たないと作戦を実施できないため、何とか判定者が少しずつ軟化していって、ようやくよい結果を出せたのである。


それは、占いで吉がでるまで占いを続けることに似ていた。


「さあ、次の作戦は、いなかった空母をどうするかだが、私に案があるのでこれから説明する」第2段作戦は、山本長官自らが人数を絞ったうえで、説明したという。


・・・・・・・・・


夜のうちにオアフを離れた艦隊は西へと向かう。

オアフの打撃艦隊を完全に壊滅したため、後顧の憂いなく戦える。

この照和の世界の南雲中将は、好戦的であった。

彼は、ある結社に捕まり、長らくシベリアで抑留され徹底的に教育を施されていたのである。

彼は、航空主兵思想の人間に生まれ代わり、咲夜中将の忠実な僕と化していた。


敵空母の通信で、2隻は合流し、ひそかにサンフランシスコへと脱出を試みるようだった。

通信が傍受されていたので、三角測量である程度の場所もわかっていた。

そして、その前後には、第7艦隊隷下の第75潜水艦隊、第76潜水艦隊の潜水艦が後続をつけていた。


潜水艦から離れた場所のデコイから通信が発信される。

敵空母2隻の位置は明確になっていく。


発信を確認した敵駆逐艦が、爆雷をばら撒き始めるがデコイを使っているために、そこに本体は勿論いなかった。


潜水艦らしきものの存在は、苦渋の選択を迫らされる。

高速により離脱するしかなかった。ジグザク航法では時間がかかる、ここは一気に逃げ切るしか生き残る術はないように思えた。


だが、それは燃料の大量消費を意味する。

駆逐艦はおそらくついてくることは燃料の問題で無理であった。


「できる限り護衛をさせろ!燃料が尽きる前にマウイ島に迎え、あそこはまだ無事だ」

ハルゼーが命令を下す。

彼は怒りに満ちていた。

オアフ島が完全に沈黙してしまっていたからだ。

一体何が起きたのだ!


艦隊司令部はロケット弾の直撃で破壊されたのである。


空母エンタープライズと空母レキシントンは合流を目指していた。

当時、ハルゼー率いる空母エンタープライズの第8任務部隊は、ハワイ島のすぐそこまで帰ってきていた。

そして、ニュートン少将率いる空母レキシントンの第12任務部隊は、ミッド―ウェーへと移動中だった。

攻撃が開始されたため、輸送を中止し、オアフ島を目指して回頭してきた。


エンタープライズには、18機ばかりのドーントレスしか残っていなかった。

レキシントンには、60機の編隊が残っていた。

兎に角合流し、オアフ島を目指すことにしたのである。


だが、その動きはすでに読まれていた。

ある男は、そのように見えるなどと妄言を言い放ったが、それは事実を知っていたからに過ぎない。


ハワイ、ウェーク間、ハワイ、ミッドウェー間には、潜水艦が伏せられ敵艦が通るのを監視していたのである。

そして、艦隊を発見した潜水艦隊はゆっくりと後方を尾行していくことになる。


この時点で、二人の米国司令官は、日本軍の攻撃の規模を全く把握できていなかった。

開戦時の日本軍の所有している空母は8隻程度で、今回の攻撃では、多くとも6隻程度が来ているのではないかと推測していただけである。


少なければ、合流して攻撃するチャンスも訪れるかもしれないと考えていたのである。






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