第111話 『理力の手』

111 『理力の手』


キンメル大将が全ての兵員を叩き起こし、真珠湾基地が活気づく。

そもそも、艦船は、ボイラーの火を焚いて蒸気を発生させねば動けないのだ。

休みの日に何をとち狂っているんだ!

多くの水兵はそう思っていた。

参謀たちもそれは同様であった。

そもそも、これらの危機は充分に考えられており、司令部ではまずはフィリピン方面で戦闘が行われるという結論に達していた。

キンメル自身もそういっていたのである。


PBYカタリナの乗員もその迷惑をこうむっていた。

ジャップが海を渡ってハワイに来るなどとは何の寝言を言っているのだ。

夜闇の中を慎重に離水するのは非常に神経を使うのだ。


宣戦布告は確かにあったようだが、まさかハワイに来るなどとは誰も考えていなかったのである。


日本とはであって、多少強い敵であるといっているに過ぎないのだ。

本当は弱い「」である。そういわないと軍備に金を掛けられないからそういっているに過ぎないのだ。


その考えは一部で間違っていなかった。

敵の中には確かに存在していたのである。


時速200Kmほどで暗い空をくらい海を見下ろしながら飛んでいる。

全く馬鹿な連中め!俺の休みをどうしてくれるんだ。

機長は、こころの中で毒づいた。


その時、遠くで光り輝く火の玉が空へ向かって飛んでいく。

それも次々と!

なんだ!あれは。

圧巻の光景だった。ものすごく光り輝く玉が、空を急速に駆け上っていくのだった。


「通信!何か光の玉を発見した、現場に向かう」

「了解」通信手が交信を行う。

明らかに、異常事態であった。

空から、隕石が降ることはあることだが、下から上に上がっていくなどあってはならないものである。物理法則に反している。


それにしても、このカタリナは遅い。

たくさんの光の玉はすべてが上がったのか、すでにもう上に上がってくる物体は確認できない。

しかし、オアフの400Kmでこの異常現象を発見していた。

「ヤバいかもしれん!」

「敵艦隊がいるのかもしれないですね」通信手。

「よし、とりあえず、連絡を入れろ」


その時であった。

カタリナは猛然と機銃を受けてしまったのである。

夜間戦闘機こそないが、水上機であれば夜間飛行は可能であった。

『強風』水上戦闘機であった。

川西航空機では、某兎企業群との資本提携を経て大きく業容を拡大させていた。

紫電改を開発する以前にこの強風を開発していたのである。

ブローニング兎12.7mm機銃2丁、20mm機関砲2丁を装備した強力な水上戦闘機となっていた。

カタリナはすでに艦隊の150Kmまで迫っており、第7艦隊の航空レーダーに発見されていた。

艦隊は、今や真珠湾強襲作戦のために、攻撃態勢を整備している真っただ中であった。


カタリナからの通信が途切れた基地には、嫌な予感が満ち始めた。

光る玉とはなんだ。

「警戒態勢を一段階挙げろ、防空戦闘を陸軍に要請するんだ!」

キンメルは怒鳴った。

宣戦布告は陸軍のショート中将にも入っていた。

しかし、こちらは極めて平穏だった。

その後再び就寝していた。


東洋のサルがハワイ島に来れるはずがないのである。

人の眠りを妨げやがって!

ショートは再び眠っていたのである。

またしても、電話が鳴り響く。


「海軍から防衛出動を要請されております」

「何を馬鹿な事を言ってやがる」

「しかし、キンメル閣下直々の命令だそうです」

「キンメルだと」


陸海軍の仲は悪かったが、二人はともにゴルフをする仲であったのだ。

「何を焦ってやがる、よし、とりあえずパイロットたちに招集をかけろ」

「わかりました」


今度のゴルフでは嫌味の一つも言ってやらねばなるまい。

それに、うまいワインでもおごらせてやる。


彼は起き上がってシャツに手を通す。

パイロットたちの休暇を潰したのである。自分も出勤せねばならない。


・・・・・・・・・


テスラ級戦艦艦橋。

「では艦長、私は少し瞑想してくる」

「は!お任せください司令」


まるでどこかの軍の参謀の言いようである。

しかし、照和の海軍には、瞑想する参謀はいなかった。

その代わり、瞑想する司令官がいたのである。

瞑想参謀はどうしたのか?


彼は非常に優秀な人間であったのだ。

そしてあの時、あの列車に乗っていたのである。

そして東北軍閥の兵により射殺されてしまったのである。

そのにっくき、軍閥も熱河事変により壊滅している。


ロケット砲艦と化した旧型戦艦群であったが、その後部に積まれたロケット弾は、『』ロケットと呼ばれている兵器である。

このような奇妙な命名はたまにあることなのである。

先ずもってV1が存在しないのである。

いきなりV2であった。

この命名法は紫電改の時も同様であった。

紫電もないのに、紫電改であった。

だが、誰も文句は言わない。いっても無駄であるし、多くの信者は彼の言うことに疑問など感じないのだ。


因みにV2のVはの意味らしい。

そう、誰もそれを疑わない。


ロケット自体は、ドイツの科学者たちが、南の島で打ち上げるために、満州で製作しているものをそのまま、転用している。

科学者の中に混じっている人間は当然、信者である。


そのロケットが複数、今撃ちあがっていく。

夜の海には、眩しすぎる閃光をのこして登っていく。

遠くからでもよく見えるであろう。


V2の弱点は、その制御技術である。

簡単にいうと大まかにしか当たらない。

精密爆撃など夢の夢である。

ペイロード1トンの爆薬も何百mも離れれば威力を発揮できない。

そのために大量に発射しているのである。


司令官室に入った男はベッドに腰を掛け、眼を閉じた。

近ごろはめっきり人間離れしてきた男であった。

その眼は、はっきりとそのロケット群を見ていた。

そして、恐るべき機能が動き出す。

各ロケットの落下時点が赤い線で見えてくるのである。


何せ400kmも遠くのものを狙っているので誤差は必ずあるのだ。

男は気軽に、落下地点の修正を始めたのである。

理力の手で少し突いてやると落下場所が変わってくる。

何せ400kmも先なのだ。

理力の手とは何か?それは、ある映画でのことである。


『フォースを信じるのだ!』

その恐るべきフォース(きっと悪魔の力ではないだろうか)は数十発の着弾地点を修正して見せたのである。


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