第110話 神業

110 神業


時は少し遡る。

ハワイ強襲の為に、北洋を進行し、一気に南下していく艦隊だが、流石に駆逐艦などには給油が必要になってくる。


荒れる北洋での給油は非常に難しい問題である。

給油をしなくては、駆逐艦などを置いていくしかないのだ。


山本五十六大将もその幕僚たちもそれを非常に気にかけていた。

幸いにも今まではうまくいったが、今回が最後の給油である。

後は、攻撃あるのみ。


海上は荒れ模様だった。

給油は時間を延ばすしかない。


だが恐るべきことに、艦内電話がなる。

小電力の電波を飛ばし、敵に悟られることなく通話可能なものである。

「長官、給油しましょう」それは、秘密結社の仲間である、ロシア伯爵であった。

「咲夜、しかし海が荒れている」

「長官、すぐに波はやみます」


気象観測の結果ではそのようにはなっていない。

低気圧が接近し気圧が下がっているのだ。


「気圧が下がってきている、もっとあれるぞ」

「長官、我が術に不可能はありません」

男は自身満々だった。


こいつは何を言ってやがる!心の中ではそうは思いつつ、はっきりと言わないのが上司という者である。


「長官、ポイント・ラックです」航海士がそう声をかける。

「うむ」

それは最後の給油ポイントである。

何故、ポイント・ラックなのか。それは、例の男がそう決めたからである。

男が、米国のスプルーアンスの真似をしていると知っている者はいない。

「潜水艦浮上してきます」

海中から巨大な潜水艦が浮上してくる。

最期の給油はこの潜水艦から重油を貰うことになる。

大型潜水輸送艦(潜輸)イ6000である。


その派手な浮上の仕方は、帝国海軍の兵ではないことを物語っている。

明らかに、艦長は八咫烏の手の者である。


だが、その浮上に見惚れていた時、気づく。

波が治まっている。

数隻のイ6000が海中を切り裂いて浮上してくる。


「波が凪いでいるだと!」山本は戦慄した。

本当にそんな術が存在するのか!


それはまさに神術である。

そして、それは本当に神業である。


何故そのような事が起こるのか?

説明するとこうなる。

ある神が遊び半分で、ある人間?に怪物を嗾けて遊んでいたが、その怪物が逃げる際に、呪いも持ち帰り、ある神は不治の呪いを受ける。

あまりの激痛で、その神は、その人間に呪いを解くように枕元に立ったのである。

しかし、男は悪魔のように狡猾な存在なのであった。

「タダで呪いとけって、なくね~」

「ないわ~」

呪いを解く報酬として、『海を凪ぎにする術』を手に入れたのである。

但し、面積や時間、回数に制限が設けられたのは、やはり人間?のためだったのだろうか。

こうして、ある男は、ある種の条件下ならば海を凪ぎにすることが可能になったのである。


大型潜油イ6000は大型の潜水艦である。

物資輸送に特化した潜水艦である。

そして、今日は、重油を大量に抱えて、この海域に浮上してきたのである。

イ6000の6000は6000トンの物資を輸送できるという意味である。


次々と、給油用のホースが船に延ばされていく。

この給油が完了すれば、いよいよ、『布哇島はわい作戦』が始まるのである。


この潜水艦は形をみれば新ロシア側が造船したものであることがわかる。

このころの潜水艦は、皆Uボートのように先がとがっているのだが、これはまるいのである。


そして潜水艦の主武装は、砲であった。

しかし、これには、砲は存在しなかった。

スクリューも径が大きく一つしかない。

セールが艦橋につけられているなど明らかに、時代の常識からかけ離れた形を保っているのである。


これらの差は、この時代の潜水艦が海上を進むために、通常の船に似せた形をとっているためである。

だが、この潜水艦はほとんどを海中で移動するために、このような形になっているのである。


日本の潜水艦といえばイ400が有名である。

偉大な仕事をやってのけた日本であるが、ドイツに到着した潜水艦にドイツ人は驚いたという。とにかくやかましい、これでよくドイツ(この場合は現在のフランス)たどり着けたなと。(ドイツまで行ったのは、イ400ではない)


だが、この潜水艦は極めて静粛性を保持している。

ディーゼル社のディーゼルエンジンと制振ゴムなどの技術がそれを可能にしていた。

技術革新により、海中を20Knノットで走破することが可能になっていたのである。

その秘密を知る者は少ないが。


この潜水艦の差は何れ大きな問題へと発展する。

海軍軍人の日本艦乗艦拒否事件へと発展していくのである。


数多くの日本兵は、このロシア産潜水艦にも乗艦する機会がある。

八咫烏師団でもさすがに潜水艦乗り(サブマリナー)を養成することはできなかった。

それゆえに、海軍の仕官達に訓練をお願いするしかなかった。


兎に角金があるため、潜水艦の建造数もとりあえず100隻みたいな乗りで作ってしまったが、乗り手不足はあきらかだった。


急遽、帝国海軍の潜水艦乗り小松輝久に訓練依頼が発せられた。

小松は海兵37期で例の男と同期である。

気安く「貴様と俺の仲だからな」と元皇族に向かって平然と言ってのけるのであった。

そして、小松もそれを断るほどの蛮勇を持ち合わせていなかったのだ。


海軍の潜水艦乗りが大挙して教えに来てくれたわけだが、何と、自分達が乗っていたものが実はの潜水艦であることに気づいてしまうという悲劇が起こってしまうのだった。


斯くして、軍人たちの労働争議が勃発する。

潜水艦を更新しろ!俺たちの命を無駄に消費させてはならじ!今こそ団結!潜水艦乗り魂を見せる時だ!


海軍はこうして、この水中で異常に速い潜水艦を購入させられる羽目に陥ってしまったのである。


「欲しいだけお売りしましょう、あれは案外簡単に作れるので」

満洲やウラジオストクの港には、まだ潜水艦用のブロックが積まれていた。

途中で乗員確保に問題があることが発覚したため、作り過ぎたものが余剰在庫となって雨風に晒されていたのであった。


「今ならお高いあの酸素魚雷もつけて驚きのプライス!大変お買い得ですよ~」

「安~い、社長~買って~」どこかで見たようなコマーシャルが流れてくるような気がしたのである。

海軍の予算担当者は、がっくりと肩を落としたという。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る