第109話 ユニコーン
109 ユニコーン
作戦の第一段階は、真珠湾基地およびオアフ島内の航空基地への航空攻撃による強襲作戦である。
昭和の時代には、外務省の怠慢が宣戦布告文書を遅れさせ、卑怯な奇襲などと批判された。
今回はそのようなことが無いように、外務省には、八咫烏師団の武官が送り込まれ見張っている。
文書交付と同時に記者会見を開き、天皇の戦線布告文書を報道する段取りである。
作戦の第二段階は、真珠湾への砲撃である。
真珠湾には、おそらく敵空母群は存在しないため、艦砲射撃を実施する。
作戦の第三段階は、敵空母群の追跡撃沈である。
航空機輸送任務で、ジョンストン島、ミッドウェー島へと出撃しているはずの空母を発見追跡撃沈する。
作戦の第四段階は、ミッドウェー島、ウェーキ島、ジョンストン島の占領である。
そのための海兵師団が、別で向かっている。
占領に向けた基地破壊を航空機と艦砲により実施する。
占領後は直ちに、味方航空機を移動させる。
作戦計画はこのようにまとめられていた。
大量の艦載機を動員しているのは、強襲作戦であるためだ。
「宣戦の詔書」が現地時間1941年12月7日午前9時(日本時間昭和16年12月7日午前23時)に特命全権大使の来栖三郎と大使の野村吉三郎より、国務省において国務長官のコーデル・ハルに手交された。真珠湾攻撃の約4時間前だった。
ワシントンDCのホテルで、来栖と野村が記者会見を行う。
『天佑を保有し万世一系の皇祚を践める大日本帝国天皇は昭に忠誠勇武なる汝有衆に示す
朕茲に米国及英国に対して戦を宣す
朕が陸海将兵は全力を奮て交戦に従事し朕が百僚有司は励精職務を奉行し朕が衆庶は各々其の本分を尽し億兆一心国家の総力を挙げて征戦の目的を達成するに遺算なからんことを期せよ・・・・・・・・』
米国人には意味のよくわからない言葉を連ねる日本人が米国のラジオ放送で流される。
米国側は、この会見を余裕で見ていた。
大統領側近のホプキンズ
「われわれが最初の攻撃を加えていかなる種類の奇襲をも阻止することができないのは残念なことだ」
ローズベルト大統領
「いや、われわれにはそれができないんだよ。われわれは民主主義国で平和愛好国民だ。しかし、警戒しておいた方がよいのは確かだ、敵はおそらくフィリピンを攻撃してくるだろう」
「フィリピンには警報を出しています」
「一応、ハワイのキンメルにも警戒させろ」
「はい、大統領」
これらの文書は暗号文で外務省に流されていたが、その暗号はとっくに破られており、駐米大使が発表する前から、中身を知っていたのである。
太平洋艦隊司令長官ハルバート・キンメル大将は、夢を見ていた。
「正しき神の子よ、敵が迫っている」
キンメルは宙に浮いていた。
そして、海上を進む大艦隊を見たのである。
直感的にそれが、ハワイを目指していることを知る。
視線がズームされて、一隻の戦艦が映される。
巨大な戦艦だった。
日本人が見ればそれが大和であることは分からないかもしれない。
長大な船、巨砲を積んでいるのは同じだが、その舳先には、一角のような巨大な角が生えていたのである。
「ユニコーンガ〇〇〇!」
キンメルは異形の戦艦を見たのだ。
「神の子よ、悪魔を倒せ!あの船に悪魔が潜んでいるのだ!」
世界が暗転する。
ジリリリン、ジリリリン。
電話が鳴っている。
じっとりと冷や汗をかいていた。
そして、何とか起き上がり、受話器を取る。
「閣下、日本が我が国に宣戦布告しました。これは一大事です」
電話の向こうは、基地司令部の当直士官であった。
「念のため、大統領からも警戒をするように、命令がありました」
「わかった、すぐに行く、皆を集めておけ」
「は!」
しかしあの角はなんだ!
戦艦に角が本当に生えているのか?
キンメルは先ほどの夢を思い出していた。
悪魔があの船にいる、そして、ハワイを狙っている。
「いかん!これはすぐさま、行かねば」
キンメルは夢からようやく醒めて、動き出した。
作戦室に主だった幹部が集まりつつあった。
今日は日曜日で、皆は休暇であった。
「ジャップが宣戦布告した。我が基地を襲うことが十分予想される。すぐに船を動かせるように準備をしろ」
キンメルの顔は緊張しており、それは部下たちにもわかった。
流石に、休みなのでクルーを呼べませんとも言えない。
「早くしろ!」キンメルはその空気を呼んで怒鳴った。
一刻も猶予はない、一角の戦艦がこの真珠湾を狙っているのだ。
この時、キンメルの頭の中には、艦対艦決戦を想定していた。
「航空隊に、哨戒させろ、全方位だ。」
敵が来る方向はおそらく東西ではない。
西には、島があり発見できる、そして東は本国である。
しかし、念のため全方位に索敵をさせる。
いつもと違うキンメルの状態に、副官たちもどうしたのかとものといたげである。
夢で見たとはさすがに、常識が邪魔をして言えなかった。
しかし、尋常でないことは確かに感じられたのである。
神が敵の攻撃を察知して、私に教えてくれたに違いないのだ!
しかし、キンメルは肝心な部分を忘れていた。
神は言った。
敵は悪魔であると・・・・・・。
因みに、キンメルが叫んだのは、ユニコーンガッデム。
ユニコーンだと、くそったれ!という意味であったという。
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