第32話 実験部隊

032 実験部隊


一仕事を終えると、われわれ101実験小隊は、到着した第三軍の第一師団と合流する。

「私は、乃木少尉です」またして、乃木が現れた。この世は乃木にあふれているのだ。


実は死にかかっていた乃木少尉の弟である。


「兄を救っていただいたと伺いました」

「ははは、そうです、もう聞かれましたか、神の力が彼を救い給うたのです」

「はあ」

「あなたも、どうですか我等日月神教に入信されては」

「いえ、結構です」


「ははは、冗談です、よろしく乃木少尉」

「よろしくお願いする」握手する。


「私が、この実験部隊に随伴します」

「私が、実験部隊、101の咲夜特務少尉です。随伴感謝する」体格だけなら乃木少尉を上回っているので、中学生とは気づいていない。


「ところで、どのような兵器の実験なのでしょう」

「ああ、銃ですな、新型の機関銃と、狙撃用の銃などです」

「そうですか、しかし、旅順要塞の攻略中に実験されるのですか」

「無論です」


旅順要塞は、旅順の比較的高い山々にロシアが構築した要塞である。

それらが、峰々に繋がって陣地を構築している。

そして、ロシア軍は、重要な場所に機関銃を配置して、下から攻撃する日本軍を狙い撃つという構図である。


「攻略は各部隊が配置につき次第開始されます。もうすぐ開始されるとおもいます」

「作戦の詳細ではなくてもよろしいので、概略を教えてもらいたいので、貴君の父上にお会いしたい。」

「伝えておきます」

「よろしく」


・・・・・

乃木軍団長の天幕。

軍団長乃木中将と実験部隊の隊長が地図を睨んでいた。


「しかし、なぜ28糎をもってくる羽目になったのやら」

「あれで、敵を攻撃するのです。機銃の前に突撃するなど頭のおかしい奴のすることです」

「なんだと!」

「それに、閣下、我々実験小隊は、203高地を攻略し、陣地を構築しますので、それに必要な工兵をお願いしたい。」

「なぜかね」


「勿論、203高地から観測して、敵艦隊を撃滅するためです、そのための28糎砲ですから、

故に、港湾まで射程の届く場所にも砲台を築く必要があるでしょう。」

「お前は一体なにをいっているのだ」使い方は知らない、お守りと言っていたではないか!


「閣下、無駄に死人をだす必要はありません」

「・・・」

「それに、我々は実験部隊ですので、勝手に何かをしていても問題ありません、適当な理由をつけて正当化すれば問題ありません」


目の前の少年は只者ではなかった。

それは、遥か彼方を見つめているのだ。


「しかし、本当にそんなことが可能なのか」

「可能かどうかより、私の言っている作戦は、時間が限られているので、最大の効果を発揮するために今すぐ開始すべきです。敵もすぐに203高地の重要性を認識するでしょう。

それからでは、奪取は不可能になります。


あなたたちの攻勢計画は、我々のための陽動になりますので、存分にどうぞ。そうやっている間に我々は、たまたま実験兵器で203高地を奪取し陣地を構築する。するとそこから敵艦隊を望見できるため、たまたまもっていた28糎砲で敵艦を砲撃できるという次第です。


実に、自然でしょう。我々には陣地構築の人材はおりませんのでその援護と構築をお願いしているだけなのです。要塞攻略にすべての工兵がでるわけではないでしょう」


話を聞けば至極最もな話であるが、部外者であるはずのこの子供がなぜここまで考えることが可能なのだろうか。


「そんなことが可能なのか」

乃木中将は懐疑的だった。

「信用していただく必要はありません。失敗すれば、実験隊が実験に失敗しただけです。何の問題もありません」

そう、何の損失も存在しない。多少の兵士が死傷するくらいの話で全く影響のない範囲の話であった。


この時点で203高地には、それほどのロシア軍は存在しなかった。

敵の太平洋艦隊を撃滅すれば、要塞に籠城する意味はそれほどない。

艦隊の撃滅は、要塞守備兵の戦意を著しく低下させるはずである。


第1回総攻撃は、8月19日に決定される。

その総攻撃を隠れ蓑にし、急遽編成された203高地急襲部隊が高地を奪取し、その後工兵が陣地構築する手はずが整えられた。


「これは、私がなぜこのようなものを!」

乃木少尉の顔に、迷彩塗料が塗られ、目立つ部分が潰されていく。

陸軍の制服ははぎ取られ、ジャングル迷彩の戦闘服、ブーツ、ザックを背負わされる。

ヘルメットは、鋼鉄製のアーミーグリーンである。


「乃木少尉、この隊の指揮権は私にある、全て服するように」

銃だけは、日ごろの物でなければならないため、有坂銃である。

我々の突撃銃は、そうではない。

兎印のブローニング製の突撃銃である。

形状的には、AK47を丸パクリしたものである。

7.62mmは日本人には、反動が厳しいので、5.56mm弾を使用する。

これらは、すべてブローニング氏の指導により完成し、実現したものである。


腰には.35インチの自動拳銃、ナイフ。

後は、分解して持っている新型機関銃と狙撃銃。

対物狙撃ライフル。突撃ライフルの銃剣は、炭で黒く塗られている。


「点呼!」

「1」「2」・・・・・「20」全20名の点呼を終える。

「よし、すでにブリーフィングで説明したが、我々は、世闇の中、迷彩スーツを被り203高地の山頂を目指す。

確認されてはいないが、機関銃陣地が存在するかもしれない。注意するように。なお牽制、および攪乱のための砲撃があるはずだ、その時から、射撃を開始してよい。浸透戦術で前進する。強固な堡塁は、避けて回り込めよ!」

「「「「はっ!」」」」」

「では、出撃する」


ゆっくりと、小山を登っていく。

流石に、照明などはない。明りをつければそこに撃ち込まれるだろう。


何故か、夜目が効くことを初めて知る。

はっきりと、見える。

数百メートル先に、機銃陣地を確認、隊を止める。

砲撃と同時に狙撃を行うことにして待機。

腕時計がないことに気づく。


今何時だよ!月は雲に姿を隠している。


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