第33話 203高地

033 203高地


道なき道を征く。

暗闇の奇襲。日本軍の最も得意の戦法である。

たぎる戦闘精神しかこの国民にはないのだろうか?

命を簡単に捨てるような精神風土があるのだろうか。


我々の部隊では、最後の最後まであきらめるな。と徹底されている。


機銃陣地は、すでに3つ発見されている。

砲撃まで、まだ時間があるのだろうか。

此方は、ブローニング重機関銃の組み立てを終了。

砲撃に紛れて、攻撃占領する。

部隊員は山野での渉猟を訓練されているため何の問題もない。

狙撃に関しても何ら問題ない。

充分な訓練を積んでいるためだ。


主攻部隊が、砲撃を開始する。

遠く、大砲の音が聞こえ始める。

要塞は、強固なべトンでできており、その前には、堀や有刺鉄線で防備され、出島のように機銃陣地が点在する。

日本軍は突撃を敢行するも苦戦は必死である。


大口径対物狙撃ライフル。ブローニング重機関銃を狙撃用に改良したものである。

スコープが装着できること、バイポッドが付けられていること、引き金がボタンではなくトリガーであることなどが相違点である。


ドン!ドン!

砂袋など簡単に貫通する威力がある。

ドドドドド!

ドドドドド!

三つの機銃座に向けて、攻撃が開始される。

曳光弾が美しい射線を彩る。


たった1分の攻撃で機銃座は制圧される。

ここは、主力が存在しない端だったからである。

「よ~し、制圧後、機銃陣地を構築、前方に地雷原を設置せよ!」

こうして、未明のうちに203高地は奪取された。

一夜にして、自軍陣地が敵陣地へと転換された。


大砲が到着すれば、観測射撃が開始されるであろう。


「閣下は本当に、これを掲げるのですか」隊員が聞いてくる。

「勿論だ、我々栄光ある大日本帝国の実験部隊なのだからね」それは日章旗であった。

だがこんなものを掲げて居たら、要塞から死にもの狂いで攻撃を受けるだろう。

「は!わかりました」

こうして日章旗が高々と掲げられる。

工兵は必死に土塁を積み、塹壕を掘る。

砲撃を受ければ肉の塊になるのだから死にもの狂いである。


稜線に5台のブローニングが設置される。

夜明けがくると、やはり日章旗の存在がばれる。


「ウラ~」

ロシア軍が突撃してくる。

しかし、これは悪手だ。

ブローニングのキルゾーンに入った瞬間に銃撃が開始される。

瞬殺されていくロシア兵。

死人が増えるばかりで前進できないでいる。


だが、死をも恐れぬ部隊が大量に走り出す。

まさに、これが203高地だ!攻守逆転しているがな!

何十人かが、いままでの到達記録を塗り替えたとき、足元が爆発する。

空中に吹き飛ばされる兵士。


地雷原が設置されているのだ。

地雷?勿論、わが社製造だ。日本軍にそのような気の利いたものがあるとは思わんからな。

そういえば、ノモンハンの時は、対戦車地雷を抱えて突撃したのだったな。


ギリースーツに身を包んだモコモコが違う場所に潜んでいた。

ロシアの指揮官が下士官に怒鳴っているのがスコープ越しに見える。

「絶対に取り戻せ!あそこは不味い!」

「しかし、敵の機銃が強力です」

「馬鹿者、行かねば、後ろから撃ち殺せ!」

「しかし、敵の爆発物が埋められているようなのです」

「ふめばよいではないか、突撃せよ!」その時、その指揮官の顔が砕けた。

「ひああ!」


指揮官の戦死により、突撃気運が下がる。

その後も、遠距離狙撃により上官が次々と死亡していく。


しかし、千メートルも離れたところから撃たれているとは誰も考えなかった。

そうこうする内にも、観測射撃が開始される。


湾内へ次々と砲弾が発射される。

まさかの事態で反応できる艦が少なかった。

次々と着弾していく。

釜焚きで蒸気圧が上がらなければ動けない。

だが、湾外に出ても、日本艦隊がまちうけていることだろう。


湾内の艦船が次々と爆発していく。

その様子は、要塞からも見えた。

自分たちはどのようにして帰ればよいのか、ロシア兵だけに露頭に迷う形になってしまう。

急速に戦意が下降していく。


203高地奪還部隊はついに表れず、高地に向けて砲撃のみが行われる。

陣地の一つが吹き飛ばされた。

しかし、塹壕に隠れた日本兵は最後まで陣地を守りぬいた。


その日の夕方までに、湾内の艦船のほとんどが被害を受けるか、湾内から脱出した。

彷徨いでた艦船のほとんどが東郷率いる艦隊に討ち取られる事態が発生する。


この事態により、旅順要塞のロシア軍は完全に戦意を喪失し、降伏した。


そして、日本軍は勢いに乗り、奉天会戦で勝利する。


我々実験部隊は、その後の戦闘には参加せず、帰国した。

様々な兵器の実験では成果を得た。

やはり、ブローニング重機関銃は偉大だった。

狙撃で使われたスコープも今度は、使うことができた。

もともと、腕の良い部隊がさらに強力な部隊になった。


ロシア軍のような強権力の軍隊は、上官を射殺すれば、簡単に足止めできることが明らかになったが、日本陸軍は誰も気づかなかった。

だが、機関銃の威力だけは、非常興味をそそられたようで、100台の発注があった。

一台6000円の高値が付けられた。

原価を考えれば、ぼったくりも良いところだが、背に腹は代えられない。

それだけで、30万円以上の儲けを得ることができたが、この機銃はすぐに大量発注されることになる。


この異形の戦闘集団に身を置いた、乃木少尉だけは、この戦闘手法は非常に役立つものであること確信していた。

彼は、戦闘中に敵砲弾の破片を浴びることになったが、ヘルメットがそれを跳ね返した。

もし、帝国軍の帽子をかぶっていれば、死んでいたかもしれなかった。


父に頼んで、実験部隊の装備を自分の部隊にも配給してもらえるようにさっそく頼みに行くのだった。



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