第34話 神将乃木希典

034 神将乃木希典


日露戦争は、日本側の勝利で早期に決着し、樺太島も占領した。

日本海軍は、バルチック艦隊も無事撃破できたようだ。


しかし、このころには陸戦はほぼ終わっていた。

ロシアはバルチック艦隊の全滅でとどめをさされた形になった。


日露戦争は終結し、樺太には、石油採掘企業が集まってきた。

オハ油田である。


「月の女神のお告げがありました。樺太のオハには、石油が出ることでしょう」

いったい誰がそのような寝言をほざいたのか?

勿論、私だ。

石油を早期に発見すれば、決して千島樺太交換条約など成立しない。

勿論、交換しても、太平洋戦争のどさくさで奪われるのだから、決して譲ってやる必要などないのである。


そのような不遜な考えを抱かぬよう、日本艦隊は、ウラジオストクの沿岸から威圧射撃を行い。陸軍も同調して、ウラジオストク方面へと軍を移動させ大いに威嚇したのである。


ロシア国内では、日本との戦争で負け続けた影響もあり各地で反乱がおこった。

これらを納めるために急遽、講和条約が結ばれることになるのであった。


今次紛争における評価では、陸軍の乃木大将(進級)の作戦行動が群を抜いて神がかっていたと評価された。ロシア海軍第1太平洋艦隊を撃滅(陸上からの観測射撃)し、なおかつ旅順要塞を陥落せしめたのである。神将乃木希典と呼ばれるような存在になったのである。


一方、バルチック艦隊を打ち破った東郷平八郎もその名を知らしめたが、バルチック艦隊自身が、太平洋艦隊を撃滅の報を受けて意気消沈したところにつけ込まれたのだと評価された。


わが社は、その神将乃木をひそかに助けた功績で陸軍に大きく食い込むことができるようになった。何といっても、長男を死の危機から救い出し、次男にも功績を立てさせたのだ。

203高地奪取は、乃木少尉(弟)の功績にすり替えられていた。

そういうこともあり、重機関銃はさらに評価され、毎年100丁を購入することになった。

そして、ヘルメット、軍靴、拳銃と今までの陸軍装備とは違うこれらを随時購入する契約を取り付けたのである。


これらの契約は多額にならざるを得なかった。

何といっても、陸軍とは兵士の数が海軍などと違い膨大だからである。

軍靴だけでも簡単に10万足。ヘルメットも同じ、拳銃も同様と。作れば売れる事態に陥るのだが、如何せん工場が小さかった。


陸軍の保証を得て銀行から資金の融資を受け新工場を増設することになった。

これらの契約により、毎年50万円は利益を生み出すことに成功する。


当面わが社は安泰だ。しかも宗教法人を巧みに組み込んで利益を調整していたりする。

これは不正ではないのだ。儲かれば、神様に利益を寄進するのは当然のことなのである。

十日恵比寿に福笹を買うのと同じことなのだ。まあ、その説明通りに税務署が信じるかどうかは別問題であるのだが。


そして、今まで大事に隠してきた余剰資金200万円を株式相場で成長させることに成功し、その額は3千万円にもなった。


ようやく学校に戻った私だったが、すでに中学4年生になろうとしていた。

「今まで、君の為にダイヘンをやってきたが、いよいよ、来年には、兵学校に進もうと思う」

井上君は非常に勉強がよくできる子だ。兵学校にも勿論受かるだろう。


今の言葉は、もうダイヘンはできないので、自分で出席してくださいね。という意味だ。

「今までありがとう、苦労を掛けたね」

「いや、君のお蔭で苦手だった英語も克服でき、しかも体を鍛えることもできた。それに家も豊作だったのでよかった。助かった。本当にありがとう」


別れの言葉のようなもの言いを使う井上君。

「なんということはないよ、僕はこれからも君にダイヘンを頼むために、同じ兵学校に進もう考えていたんだよ」


「え?」

井上君は驚き半分、嫌な気持ち半分な表情を浮かべている。


「僕が言うのもなんだが、君の家は大儲けをしており、しかも神社の収入もある、しかも、神社の収入には税金もかからないらしいじゃないか。いわば大金もちの君がなぜそのようなところに行く必要があるんだ」


なるほど、よく分析できている。彼はやはり頭が良い。

「その通り、宗教法人は無税なので、君もぜひやるべきだと進言しておこう。だが、僕は君と一緒に兵学校に進むよ。勿論東京帝大に進むのも一つの方法だと思うんだが、今は、兵学校かな」


「しかし、そんな必要はないだろう」


「ああ、ひょっとして、あのお土産が気に食わなかったからそんな態度をとるんだね」

「何を言っているんだ君は」


私は、日露戦争の土産に、血まみれのロシア兵の小銃を手渡したのだが、どうもそれが気に入らなったようだ。血まみれなのが駄目らしい。私は、戦場のリアリティーにあふれているので良いかと考えたのだが、そうではなかったようだ。


気に入らないようだったので、ロシア将校のサーベルを出したのだが、これは、仲間か敵を切り殺したのか、血がこびり着いていた。これは旅順要塞の土産だったのだが。


どちらも戦場で手に入れた貴重な品だったのだが・・・。


戦場での手柄話をするにも、戦利品が無ければならないものだ。

太平洋戦争では日本兵の刀や骨も持ち帰られたという。


ルーズベルト大統領のペーパーナイフは、日本人の骨だったというような噂話もあるくらいなのだ。


わたしなら、骨はいらないな。骨はな。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る