第31話 乃木少尉
031 乃木少尉
1904年(明示37年)
ついに、日露戦争勃発。
私は中学3年生になっていた。
とりあえず、陸上戦闘に参加するべく、打診を開始している。
相手先は、第三軍を任される乃木将軍である。
彼は、日清戦争後、陸軍第2師団の師団長に就任し、仙台にいたのである。
我々は、軍靴を納める関係上、第2師団と頻繁に行き来があったのである。
その関係で、乃木中将とは知り合いに成っていたのであった。
というか、そのように仕組んでいた。
学校の方は、またしても、ダイヘンを井上君にお願いする。
彼は嫌がるだろうが、これもお国のためだから我慢してもらおう。
いや、してもらうほかないのだ。
中国土産は何がいいのだろうか?朝鮮人参でも買ってきてやろうか。
それとも、陸軍の小銃でもくすねてきてやろうか?
どうせ、戦場でいっぱい落ちているはずだ。
この戦争では多くの将兵が死傷するのだから。
手紙を、乃木中将あてに認める。
「今般、日露戦争に突入したるが、我等はかつての盟約に従いて参戦を希望するものなり、軍団長たる閣下の保証をお願いしたく候。なお、この戦いにおいておや、28糎榴弾砲が効果絶大なること間違いなし、女神様の霊験あらたかなる予言あり、一考されるべし」
「貴君の申し出の件は承認す、第三軍の新兵器実験部隊なる名目にて、許可を与えん、しかして、海岸砲なりし、28糎榴弾砲がいかにして有用なりしか」
「女神の言にして、我にはわからず、さりとて信じなかりせば、不敬なり。お守りとして信じそうらへ」
奇妙な手紙のやり取りをする。
この女神の霊験は、東北地方を席捲していたので、流石に、乃木中将もその力を知っていた。
そして、その神の使いが、軍靴メーカーの息子であることも知っていた。
乃木は仕方なく、参謀本部に海岸砲を借り受ける旨相談することになる。
だが、この28糎砲こそ、帝国軍を救うことになるとはこの時は全く思っていなかったのである。
許可証が届き実験部隊
第三軍第1師団付き第101実験小隊が正式に配備となる。
その目的は、新型機関銃の使用実験及び新型狙撃銃の使用実験である。
第三軍本体よりもいち早く、大陸に渡った我々は、第二軍の野戦病院を訪れていた。
そこには、すでに、風前の灯の乃木勝典歩兵少尉の姿があった。
機関銃による射撃を受けたのか、風穴をどてっぱらに開けられていたのである。
命旦夕に迫る。まさにその言葉がぴったりな状況であった。
「おい、早く例の薬を使ってやれ、もう駄目だ、この顔色は」
人の生き死にを多く見てきた山口の言葉は的確だ。
そう、例の薬を使うのはいいのだが、死んでから使ってみたかったのだ。
生き返るのかどうかを試してみたい。
そんな科学的欲求が存在したのである。
ええ?非科学的な薬品に科学的見地は必要ない?
そうではない、生き返るかどうか、生き返るとどうかわるのかを試してみたいだけなのだよ君。
「馬鹿野郎、死んだら終わりだろうが!」
周囲にも大概、死にかかっている兵士が存在するのだが、山口は怒りをあらわにする。
いやいや、死んでからも終わりがないかもしれないではありませんか。
そう言おうとしたら、すでに山口氏は鬼のような形相でわたしを睨んでいた。
「わかっていますよ、しかし、出所不明の薬なもんで」
「お前、私に使っただろう!」
そうでした。その結果、今や30代にも見えるくらい山口氏は若返り今も老けたりしていない。
「行きますよ!」話が不味い方向に向かいそうなので私は、すぐさま隠しから薬包を取り出す。このような、貫通銃創の人にはどうしたらよいのだろうか。
傷に掛けるのか、飲ますのか?
乃木少尉は、口を少し開き気味に最後の言葉を伝えようと動いていた。
その瞳からは、知性の光が霞んでいる。
もう、もつまい。
口を開かせて、薬をぶち込む。
そして、水を飲ませる。
体が少し光初めて、腹の貫通銃創に皮が巻いてくる。
傷口がふさがっていく。貫通銃創が逆再生のように回復していく気持ち悪い景色である。
「ううう」苦しそうに手を宙に開く、少尉。
すると、黒い靄のようなものが揺らめいている。
何と、彼にも何か瘴気のようなものが入りこんでいたのだろうか。
浄化されているではないか。所謂、十字教のいうような原罪でももっているのだろうか?
そこで、彼は意識を失った。
その後の姿は、人に見られないように、布を被せておいたが、色々と突っ込みどころのある、筋肉の動きや骨の動きがあった。
「俺も、こんなになっていたのか」
「ええ、まあ」
「なんか、すごいな。俺本当に人間だよな」
それほど活発に体が動いていたのである。
「撃剣先生は間違いなく人間です。本当に」
適当に本人を励ましておく。
本当は知らない。だから、言ったでしょ。出所不明の薬品なんですと。
・・・・・・
次の日には、もうすぐ死亡判定だった、乃木少尉が生き返った。
恐らく、あのまま、治療の甲斐もなく死んでいたはずだ。というか、治療は行われていないなかったがな。
「これぞ、日月神教のお清めの力です。彼は今生き返ったのです」
軍医相手に、一芝居打つ。
「月の女神様への祈りが通じました。どうですか。神の力とはいかに貴いか!」
「おおお~さすが我等が教祖、神の使いたる、咲夜玄兎大師様~」
連れてきていたほかの隊員は、本当の信者なので、ひれ伏して感動している。
山口氏は、冷たい視線で眺めている。
「君たちは、ここから出てください。乃木君は本国に送還します」
と軍医が言う。
「ありが・・とう」力はないが、死から救い出されたことは分かったのであろうか。
乃木少尉はそういって涙を流した。
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