第30話 金剛不壊
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1902年(明示35年)に、日英同盟が結ばれる。
満州を実行支配したロシアに脅威を感じた日英が同盟を結び、ロシアを牽制したのである。
英国は、アヘン戦争以降の権益を犯される心配をしており、日本は、朝鮮半島の権益を侵犯されることに脅威を感じていた。
その両国が、同盟したということである。
私は、無事に中学2年生に進級していた。
出席日数?勿論大丈夫だ、井上君が代理で出席してくれているので、休んでも授業に遅れることなどないのだ。
私は、もうすぐ始まる日露戦争に対して何ができるかを考えていた。
日露戦争といえば、東郷元帥の神格化の基である。
中学生の自分では戦艦に乗り込むことはできない。
(そもそも、海軍でもないのに乗り込むことは不可能である)
そうなると、当然、戦場は陸となる。
(そもそも、陸軍でもないのに、戦地にでることはできない。)
そこで、登場するのが、民間軍事会社『八咫烏部隊』である。
この部隊は、今でいうところの特殊作戦部隊に近い性質をもっている。
今や、100名近い隊員を有し、隊長の命令一過、命を賭して命令を遂行する。
狂信的軍隊である。
彼らは、幼いころから育てられた、神の戦士である。
この民間軍事会社『八咫烏部隊』は、すでに日清戦争時代から陸軍との関係をもっていた。
そして関連会社からは、軍用ブーツが納められている。
『月兎製靴』という会社が作っている。
ことのほか、評判が良い。
特に護謨底が、いままでの編み上げ靴にゲートルというスタイルとは一線を画すものであった。
この部隊を使って、現在製作している、狙撃銃の実験を行うことは、決定している。
ブローニング氏が開発した重機関銃をもとに開発した対物狙撃ライフルである。
勿論、重機関銃の実験もせねばならない。
しかし、問題は日清戦争時失敗した、品川製作所の光学スコープをついに実戦で使用する。
(品川製作所は、その後東京から仙台に移転している。)
問題は、いかにして、この実験を陸軍に認めさせ、金につなげるかということである。
重機関銃くらいは、戦後に売りつけてやらねばならない。
それと、日露戦争後から第一次世界大戦までは、所謂景気のビッグウェーブが起こる。
これにいかに乗って金儲けを推し進めるか、どのような手段があるのか。
その時、肩を叩かれていることに気づく。
「咲夜君、この問題をといてみなさい」
考え事に集中していたら、背後を取られていた。
ひょっとして、この教師は、奴等、『機関』のエージェントなのではと一瞬考えが浮かぶ。
私は、両手を上げて、ゆっくりと立ち上がる。
「何をしている」
「失礼、少し考えごとをしていたもので」
「授業中に何をしているのか!」
この時代の教師は権威があり、鉄拳制裁は是とされていた。
鉄拳が飛んでくる。
この場合、一瞬で躱して反撃の掌打を打ち出すことが可能なのだが、そんなことをしてはならない。鉄拳は愛の無恥なのだ。
『金剛不壊』なぜかそのような技をもっている私は、おとなしく殴られることを選択する。(金剛不壊の金剛とは、ダイヤモンドのことであり、不壊は決して壊れない。つまり、ダイヤモンドのように固くて強いという技の名前)
グキ!なんとも嫌な音が響きわたる。
そもそも、『神子』を殴ろうなどとは不敬も甚だしい。
我が部隊のものが見たならば、一家惨殺事件が起こりそうなものだが、ここにはいない。
「ぐああ!」手首を固めて殴らないと危険なのに、教師はそれを怠ったのである。
それに、黒板の問題など、簡単に解ける。
もし仮に、わからなくても、授業を真面目に聞いている井上君が解答してくれるだろう。
彼は非常に優秀なのだ。
その後は大変だった。教師は、手首を骨折しており、医者に連れていかれることになった。
そして、私は校長室に呼ばれる羽目になってしまった。
「神使様、どうか慎んでくださいませ」校長が頭を下げる。
「すいません、校長、殴られてあげた方が良いと考えて、そのまま受けたのですが、彼の不信神がこの結果を招いたのでしょう」
「一応、神使様に手をださないように、教師たちには警告しておきますが、どうか、授業中は集中されますようにお願いします」
「わかっております、少し考え事をしていたのです。申し訳ありません。あの教師には、こちらから見舞いをしておきます」
「心遣い感謝申し上げます」校長が再度頭を下げる。
彼は、日月神教の信者である。
「やはり、授業はしっかりと聞くべきだと思うんだよ」
「勿論だ、成美君」
「今日は、良い経験になった?のかなあ」
帰り道、井上君と歩いている。
真面目な井上君は、私の授業中の態度が悪かったと苦言を呈してくる。
「まあ、そういうな。しかし、あの技はこれから必要になってくる」
「何を言っているの?」
「君は、これからどうするつもりなんだ」
「ああ、その事か、家は子供が多いからね、海軍兵学校に進もうと思っている」
「そうだろう、私は知っていたよ」
井上家は、それほど裕福ではないのだ。
それゆえ、彼は学問を諦めて、給料の出る海軍兵学校へと進む。
そして、彼は非常に優秀だった。
「そこで、あの秘技が必要なるのだ」
「あれって、僕もやらされている、技だよね」
そう、金剛不壊は、ある程度身に付けることができる。
硬いもので殴られたり、堅いものを殴ったりと常にそのような訓練で身に付けていくものであった。
私の場合は、訓練をせずとも、神の祝福をえているせいか、できるのだが。
「井上君、兵学校では、あれくらい当たり前に殴られるんだよ」
「え?」
「当たり前だろう、軍人を養成しているんだよ、3等生(新入生の事)なんか、虫けらと同じようなものなんだ。今、鍛えておかないと大変なことになるんだよ」
「えええ!」
恐怖に青ざめる井上君は可愛い。
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