第122話 渦巻く闇

122 渦巻く闇


次の日にも同様の狙撃事件が発生する。

憲兵たちは、仲間(陸軍)が殺されたので頭に来ていた。捜査手法がかなり荒くなっていた。

「ほんとに射撃音を聞いていないのか!」米兵の憲兵が住民を責めたてるような口調で詰問していた。

「はい、何も聞いていません」

「お前たちは移民だから信用ならん、家宅捜索を行う、家から全員出ろ!」

「そんな、我々は、合衆国の為に一生懸命働いてきました、本当です」

「そんなことなど知らん、今は殺人犯を追っているのだ、どけ」憲兵の拳が住民の顔を捕らえる。


「グハ」


このような家探しが各所で始まった。

捜索対象は移民たちの住居だった。


そんな一軒の中で銃が発見される。

「これはなんだ!」拳銃を手にする憲兵。

「それは、護身用の拳銃です」

「しかし、これは日本製だろう」

ブローニング兎拳銃は、日本製なのだ。

米国では、コルト社がライセンスを受けて作っていたが。

悪そうな笑顔の兎が刻印されているのは日本製の証だ。


「はい、宣教師の方がおいていかれたのです。我々が、強制収容所に入れられるからその時に使いなさいと、我々はそんなこと合衆国がするはずがないと、拒否したのです。そんなことはありませんよね」

「黙れ!」憲兵が住民を殴りつけた。

密かに、日系移民強制収容計画が進んでいるのは、本土では公然の秘密であったのだ。

敵性国民のはずのドイツ、イタリア移民は対象にされてはいなかったが。

日本移民のみ狙い撃ちで計画されていたのである。


「こいつらは怪しい逮捕せよ」

「違います、我々は何もしていません」

「黙れ、その宣教師とはどんな奴だ、詳しく聴かせてもらうぞ」


宣教師の人相風体を詳しく聴取された日系移民たちは拘禁された。

それは犯人扱いといっても過言でない扱い方だった。


だが、事件は、その後も続発するのであった。

しかも、夜である、さらに銃撃音も聞かれていないのだ。

果たしてそのようなことが可能なのか?


陸軍兵士の中には、恐怖で精神がやられるものが増え始めた。


そして、日系移民が逮捕されたことがきっかけで、兵士たちの移民への態度は明らかに変わった。

奴等は敵なのだ。

だが、その態度の変化は、住民の態度にも変化を産んだ。

日系以外の市民も日系移民を排斥し始めたのだ。

配給の食料が日系人だけ減らされるなどの嫌がらせが増え始めたのである。


「おい、貴様、待て」

街はずれで警邏していた兵士が、日系人にしては大きな男を発見して声をかけた。

宣教師は身長が高く、がっしりとしているという証言があったのだ。


自分たちと変わらないくらいの背丈があった。

「なんでしょうか?」ふりむいた男は日本人らしい顔だった。

「貴様、宣教師だな、手を挙げろ」憲兵はすでに銃を抜いていた。


銃を構えた兵士が警戒するなか、もう一人が宣教師らしき男の身体チェックを行う。

「武器はもっていないようだな、貴様に聴きたいことこがある、来てもらうぞ」獰猛な笑顔を見せる憲兵の男。


もう一人が宣教師の左腕に手錠をかける。

「問答無用ですか」

宣教師は無手だった。

「黙れ、ここで引き金を引いても俺は困らんぞ」


しかし、宣教師は手錠をかけた兵士の右手首を掴むと、くるりと捻り挙げて兵士の後ろ回り込んでしまう。その瞬間には、その兵士のホルスターから拳銃を引きぬいて、銃を構える兵士を射撃していた。

兵士もうち返したが仲間に当たったのである。

発射音が警戒を引いた、ホイッスルが各所でなる。


宣教師は素早く、死んだ兵士の懐を探り手錠の鍵を見つけて、それを外し、疾走を開始する。


「待て!貴様、止まらんと撃つぞ」

大通りを走る宣教師に、別の憲兵が叫ぶ。

拳銃を発射する。

しかし、当たらない。


10数名が、大通りを走る宣教師を追う。

それは直線の通りであり、見通しが効くのだ。


憲兵の数名が、突如頭を吹き飛ばされる。

遥か彼方の林から発砲炎がかすかに見えた。


何ということは無い。200mどころか、800mもさきで狙撃していたのである。

憲兵は瞬きくまに物言わぬものになっていた。

サイレンサーを装着していたので、現場周辺で音をきくことはできなかったはずである。

今回の狙撃でも音は聞こえていない。


憲兵たちが集まってきたが、大通りには狙撃で死亡した兵士たちが倒れているばかりである。

「ガッデム!」


翌日には、悲惨な事件が発生する。

頭に来た陸軍は、宣教師との関連を良く調べもせず、逮捕した日系人を即決裁判で死刑にする。そして、広場で銃殺に処したのである。

多くの日系人に見せしめるために行われたのだ。


この蛮行は、日系人たちに思い出させたのである。

「あなたたちは、有無を言わさずに強制収容所に送られるでしょう」宣教師に多くの

日系人は聞かされていたのである。

多くの日系人の闘志に火をつけた事件が発生したのである。


そんな時に宣教師はふらりと現れた。

「戦うための武器が必要ならば、我等の神子様に忠誠を誓ってください」

一部の怒りに身を任せた移民の子孫たちは、街はずれの洞窟を訪れるのだった。

そこには、拳銃などではなく、突撃ライフルや携帯式ロケット砲が積まれていた。


「神子様は必ず我々を、助けに来てくださいます。その時まで、いましばらくお待ちください」


そして、そんな些細な事件など関係なく、夜の狙撃事件は続くのである。

夜の闇の中で狙撃を成功させるには、どうしても光が必要である。

しかし、新月の晩にでも事件は起こったのだ。

明らかに何かがおかしい。


陸軍の若い兵士は精神に変調をきたし「吸血鬼が我々を狙っているんだよ、なぜわからない、あいつらは、吸血鬼なんだ、夜でも関係なく見えるんだ!あああ~~~~」と叫んだのだ。


彼は、個室に監禁された。





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