第123話 気運

123 気運


ニミッツは何とか真珠湾基地の地下で執務を行っていたが、驚くべき情報を掴んだのは全てが終わったあとだった。

夜間連続狙撃事件の存在は聞いていたが、その犯人は、潜入工作員であろうと考えられていた。しかし、何をとち狂ったか陸軍が暴挙にでた。

移民を逮捕し、国家反逆罪で即決裁判を行い、死刑を執行したというのだ。


「なんだと、それは本当の事なのか!」

「はい、確定情報です。」

「馬鹿な、日本人の家には、ライフルはなかったのだろう」

「はい、しかし、潜入工作員の仲間であることに間違いはないという判決で死刑に、正確には、広場で銃殺しました」

「馬鹿野郎!そんなことをすれば、日系移民すべて敵に回すだろう、それを押さえる兵力が無いのだぞ!」

連絡将校に怒鳴っても仕方がないことだった。

彼は事実を報告に来ただけなのだ。


ニミッツの苦悩はさらに深くなっていった。

明らかに、謀略だ。

移民や原住民を米国と戦わせるために、工作員は動いている。

しかし、なぜ夜に狙撃できるのだ。

月明りを頼りに行っているにしても、どのような芸当なのだ。

ニミッツは、海軍でも夜間狙撃をさせてみたが、明りが十分に得られる場合のみにしか有効な射撃は不可能であった。


「何らかのギアをつかっているのか!黄色い猿がか、いや戦闘機の性能では負けているという情報があったが、まさかそんなことが有るはずが」

どんなに、高等な教育を経てきたところで基本部分に偏見があるのだ。

同じ人間ではないという基本前提から外れることは、聡明なニミッツにしても難しかったのだ。


だが、こういわれれば彼らはすぐに納得できるはずだ。

優秀なテスラ兄弟がそれに手を貸していたのだとすれば、優秀な白人の彼らが創り出しているのだから当然だ。と。


明らかに、オアフ島は窮地に陥っていた。

きっかけさえあればすぐにでも住民反乱がおこりそうな気配が充満しつつあった。

陸軍もショート中将以下の高級将校が戦死し、うまく機能していなかった。

というか暴走気味であり、そのうっぷんを日系移民にぶつけているというのが正しいのだろうか。



1942年(照和17年)2月


米国海軍は、太平洋上の不利を挽回するべく、大西洋から空母ホーネット、ワスプを回航してきた。すでに、ヨークタウンは太平洋側にいたのだが、潜水艦隊の攻撃でハワイへ近づくことができなかったのである。


回航されてきたホーネット艦上には、B25爆撃機が搭載されており、なんらかの作戦が行なわれることは確実であった。


ミッドウェー島に存在する水上爆撃機は真珠湾基地復興の大きな障壁となって立ちふさがっていた。

ホーネットからB25を発進させ、航空基地を爆撃し、戦闘機を破壊し、空母艦載の戦闘機群で水上爆撃機を攻撃するという作戦が練られていた。


虎の子の空母を守るために多くの駆逐艦、随伴艦を伴う大艦隊となっていた。

しかし戦艦はワシントンしかなく、それも速度が遅いため随伴はできないと判断された。

戦艦ワシントンは、オアフ島へと艦隊を連れて、向かい、まずは潜水艦隊をつり出すおとり役を買って出る形になったのである。


このころ南雲機動部隊は、南海の海を暴れ回っていた。

しかし、第7艦隊は、沖縄に係留し、敵軍の様子を見ていた。

そして、ハワイ島上陸作戦を企図していたのである。


ハワイの物資が不足し、ニューギニア島の支配権を確立し、そこから出撃する潜水艦隊が、オーストラリアへの物資輸送をも攻撃していたため、オーストラリアからの支援を望むフィリピンでは絶望的な状況に陥っていた。

どこからも救援と支援物資が到着しないのだ。


日本陸軍は、台湾経由で、アジア諸国に侵攻し、次々と西欧の部隊を撃破しながら、その国を開放していた。


日本軍のやり方は巧妙で、植民地支配されている『君たち』を救いに来たのだと宣伝し、西欧軍を放逐してからは、日本派の現地政権を次々と打ち立てた。

各国の軍は、植民地の統治をしている本国がドイツの脅威にさらされているため、援軍などはできない状態であり、最も、しっかりと戦ってくれる予定のオーストラリアも物資不足で動けない状態にされていたのである。


そして、インド洋にまで現れた南雲機動部隊は、インドを牽制していたのである。


そのような状況でマッカーサーはコレヒドール要塞に追い詰められていたのである。


このままいけば、マッカーサーは遠からずオーストラリアへと逃亡するだろう。


連合艦隊第7艦隊司令部に情報が入る。

パナマ運河を越えた空母に、B25爆撃機が搭載されていたという、情報員からの情報であった。


神子と自称する男は、この状況で、空母による日本本土爆撃は不可能であると判断した。

真珠湾で給油できなければそのような攻撃は無理、とすれば目標は自ずと絞られる。

それは、ミッドウェー島に違いなかった。

オアフを頻繁に爆撃する水上爆撃機(K作戦)はミッドウェー基地から出撃する、ここを攻撃し、反撃の機運を盛り上げるつもりなのであろう。

「なるほど、ミッドウェーの島の航空基地を空爆するつもりか」


「ならば、我等もここで敵を殲滅し、オアフ島に上陸するタイミングということか」

敵の空母サラトガ、ヨークタウン、ホーネット、ワスプの4隻を壊滅させれば当分の間太平洋には、敵の機動部隊は、登場しようが無くなる。

一気に、ここで敵を叩き、ハワイを占領、独立させる。

オアフ島ではすでに機は熟しつつあったのである。


太平洋上の問題点たる敵潜水艦も、オアフ島が物資不足のために上手く活動できておらず、なおかつ日本近海の潜水艦のほとんどが、対潜型『玄武』により撃沈されていた。


今ならばゆっくりと輸送船が進んでも何の問題もない。

それに季節は春に向かう。絶好の好機であった。


「全軍抜錨!まずは、コレヒドール要塞を火の海に変えてやるぞ!」

それはマッカーサーの軍を撃滅し、フィリピンを開放、その余剰兵力と新規の兵力をもってオアフ島上陸作戦を開始することを意味していたのである。







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