第148話 聖絶

148 聖絶


オーストラリア戦線では、同盟軍が、インドネシア方面から大量の兵員を動員して大攻勢をかけていた。ポートダーウィンから、アリススプリングスへと無理やりに道をこじ開けて進んでいく。


突破不可能な場所は、航空機による空挺降下をするという離れ業も展開していた。

同盟の制空権は強固で、オーストラリア軍ではどうしようもなかったのだ。

6000km以上飛ぶ玄武飛行艇は、旧式のオーストラリア軍戦闘機で撃墜することができない。

それどころか、次々、敵航空基地が臨時で作られ、同盟の戦闘機も飛び始めるのであった。


空挺戦車(輸送機からパラシュート降下で落とされる小型戦車)も登場し、戦線は崩壊しつつある。

ターボプロップ機の登場は輸送においても革命をもたらした。

空挺戦車、ブルドーザーの空中放出を可能ならしめるた。

現代のC130によく似た輸送機が登場し、その任務を行っていたのである。


必死で交戦するオーストラリア軍だったが、物資の不足は深刻だった。

未だに米国との連絡は取れず、講和した日本からの物資に頼る始末だった。


インドネシア兵、ニューギニア兵、アボリジニ兵、そして、神教親衛隊。

兵力は、50万にも達した。

オーストラリア大陸中央部のアリススプリングスはついに占領される。

そしてアリススプリングスに巨大な航空基地が建設され始める。


それでも、オーストラリア政府はまだ安心していた。

彼等が恐れるのは、同盟艦隊である。

艦隊による攻撃を受けなければまだ戦える、国土はそれほど広い。


しかし、挑発ともいえる文書が届く。

「豪州は、神の国となるべき土地なれば、汝ら不法なる侵入者にして、たるものたちは、直ちに立ち去るがよい。そうせねば、神の業火が、悪魔の手先たる汝らを焼き尽くすであろう」

彼等を最も激怒させるような挑発の文章が躍る。

「月読神教、法皇咲夜玄兎 神の子にしてその代理であり執行者」


「こいつらを全て皆殺しにせねば、我々は先祖に合わせる顔がない!命を棄てても戦え!皆殺しだ!」オーストラリア首相は、この文章を見て激怒する。

全ての国民を総動員してでも、色の付いた人もどきどもを殲滅せねばならないと窮乏する国民に激しい檄を飛ばす。


そしてそれを可能ならしめるオーストラリア戦時国家総動員法が施行される。

確かに、国民のほぼすべてが激怒し、戦いに赴こうとしたが、如何せん武器弾薬が不足していた。そして食料なども不足していた。


国家総動員法は、オーストラリア全国民がこの戦時において徴兵義務を負うというものであった。


このころの豪州国民は数千万程度であるから、50万の敵にたしても、圧倒的に有利に戦えるはずだった。武器さえあれば。そもそも、この国では、危険な動物がいることもあり、銃を扱える人間が多くいた。戦闘行為は得意な方である。


しかし、この国家総動員法は明らかに、失敗だった。

はっきり言って罠だった。

挑発すれば、このような状態になることを読まれていたのである。


オーストラリアの国家総動員法発令は世界のニュースに流れる。

オーストラリアの危機的状況を知らせるものであったが、このニュースには別な意味があった。

全ての国民が一丸となって、黒や黄色の侵略と戦う決意が一面に踊る。


世界中がこのことを瞬時に知ったのである。


その直後、アリススプリングスの航空基地に、次々と巨大な爆撃機が姿を現す。

その姿は米国が開発したB29とそっくりな形状であった。

川西・シコルスキーB1戦略爆撃機『青龍』である。

B29のリバースエンジニアリングにより開発されたわけではなく、端からこの形で設計されていた。件の男がこのような図であると書いていたためである。


B29と相違する決定的な違いは、ターボプロップエンジンの搭載である。そしてウィングレットの採用。

エンジンの馬力が上がっている分、爆弾搭載量も多い。何と12トンも搭載できるのである。


アリススプリングス基地には数々のアンテナが立ち並び、対空砲、機銃が空を睨む。そして戦車や戦闘車が動き回っている。

レシプロ戦闘機、ジェット戦闘機と次々と、ニューギニア方面からやってくる。


アリススプリングスは一大基幹基地へと拡張されていった。


1943年(18年)12月24日。

アリススプリングス基地から、巨大な死の鳥が発進した。

オーストラリアのサンタクロースはサーフィンでやってくる。

死神は鳥の姿を真似て飛来した。


高度12000m上空から、それらは『死』をばら撒き始める。

優れた技術は、照準器にも使われている。

米国の秘匿技術ノルデン照準器よりも数段優れたテスラ照準器(テスラ・インスツルメント社製)が狙いをより確実なものとする。

50機のB1青龍は600tの爆弾を豪州各地の都市に、クリスマスを祝う人々の頭上にばらまいたのである。


オーストラリア軍もレーダーで大編隊を捕らえたが、高度12000mの敵機に向かうことができなかった。旧式戦闘機では、時間をかけても一万メートルが関の山であった。


翌25日にも各都市に爆撃が行なわれた。

非道な戦略爆撃であったが、米国が日本にすでに同様の爆撃していたこと。

また、豪州には国家総動員法が適用されているため国民全てが戦闘員であることから、これは当然の戦闘行為であると、法王庁の広報官は述べたのである。

民間人の虐殺などではないということが認められる。


それからは、12月31日まで連日の爆撃が行なわれる。

オーストラリアの航空戦力では撃退不可能で、反撃すらできなかった。

対空砲が辛うじて一機を撃墜したが、水上爆撃機『玄武』がその対空砲を破壊した。

死者数がうなぎのぼりに増えていく。


工業生産力も急激に低下していく。

アリススプリングスの陸上兵力も鉄道を使い東部に向けて進撃を開始していた。


1月1日、ついに恐れていた事態が発生する。

同盟の主力艦隊、かつての連合艦隊第7艦隊が、沖合に姿を見せたのである。


「神の浄化の炎で街を焼き尽くせ!」

サ式砲弾が主砲に装填されている。

サ式とはサーモバリックの略号である。

固体の物質が化学反応で気体に変化し恐ろしい速度で膨れ上がる(気化により瞬時に体積7000倍程度に膨れ上がる)。

そしてその気体に引火されば大爆発を発生させるのである。


「聖絶せよ!」

「発射!」主砲の発射ボタンが押される。

適度な散布開の一斉射撃。ドンドンドドン!発砲炎が辺りを焦がし、黒煙が戦艦を包む。


陸側には対応できる戦力はなかった。

無慈悲な発砲炎が海上に花を咲かせる。

凄まじい数のサ式砲弾が街に撃ち込まれると、壮大な火球がそここで発生する。


街がたちまち炎に飲み込まれていく。

そこには、一片の例外もない。

聖絶とは、すべての人、物、家畜、財産、関連するすべてを燃やし尽くすことを言う。

それほど容赦がない攻撃である。




 



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