第68話 将を射んと欲すれば

068 将を射んと欲すれば


私は忙しかった。

ウラジオストク駐在の武官として、さらには、帝国海軍軍人として、さらには個人的に伯爵位に叙された。その叙爵後、皇帝家の娘が降嫁してくるので、屋敷の普請。結婚式の打ち合わせ、日本国内での披露宴、招待客色々様々な仕事が押し寄せてくる。


また、日本人?嫁も貰うことになった。

ロシア国内では、ロシア人、日本国内では、日本人の嫁と境界を定めているので問題ないはずだ。


一応、ロシア嫁に日本人嫁の話をしたのだが、その時の彼女の動きは、人間を越えていた。

危うく、ロシア伝統の呪いのナイフで、首を切り裂かれるところだった。

私でなくては、完全に死んでいたであろう一撃だった。それ以来日本人嫁の話はしていない。

私も、死にたくはない。諦めたという話はしていないが、向こうが勝手に思い込んでいるならそれで問題ないだろう。きっと大丈夫だ。自らの心を鼓舞するのだった。


貴族なのだから、妾の一人もいてもなんら問題あるまい。

日本人嫁には、ロシア人嫁の話はしていない。

避けるもまもなく、腹をえぐられそうな予感がするからだ。

こんなところで、霊薬を使う訳にはいかない。

ロシアでの仕事が忙しいので、家を空けることが多いと説明しておく。

因みに、声は、私好みの声に調整されてきた。

凄い技術だなと感心させられた。


忙しすぎて、白昼夢の中を全力で駆け抜けているような感じがする。

私は一体何と戦っていたのだろうか。

思い出せないくらい遠いところに来てしまった。


それでも、結婚式を無事に終え、伯爵邸で暮らすようになる。

偶に、日本で嫁と幸せに暮らす。


10億円の支払いが行なわれた、これは、戦艦大和10隻分の大金である。

だが、それをいきなり戦艦建造に使うことはできない。

船を作るには、ドックが必要なのだ。


昔の言葉に、『将を射んとする者はまず馬を射よ』というものである。

将軍になろうと思うのなら、まずは馬に乗れないとね!という意味だっただろうか。(違う?)


つまり戦艦が欲しいなら、それを作れるドックが必要だよねということだ。


ドックには、クレーンその他人間も含めて相当な金がかかるのだ。

まずは、親戚になり、安全圏となったウラジオストクにドックを建造することになる。


現在の新ロシア皇国は、ソビエトと激しい内戦の途中である。

新ロシアができたことにより、シベリア出兵は中止された。

ウラル山脈より東側の各所でソビエト(赤軍)対旧ロシア勢力(白軍)が戦っている。

全ての旧勢力が、皇帝家に付くわけではない。


詳しくは知らないが、赤軍の中でも様々な派閥が存在しており、争っているとも聞く。

勿論、白軍以外にも緑軍なども居たりするのだから、人間がいかに闘争が好きな生物かということを思い知る。


我が皇帝家は、できるだけ戦闘を避け、防御陣地の構築し、縦深防御戦術で備えている。

何故積極策を採用しないのか?兵士が少ないからである。


極東のロシア人は非常に少ないからである。

所謂ロシア人は、ヨーロッパから中央ロシアにかけて居住していたのである。

ゆえに、ソビエトは大量動員できるのだが、新ロシアではそれは不可能なのであった。


新ロシアは、防御陣地と兵器の優秀さだけがソビエトより優れている。

そして、政策上の都合から日本軍も防御に手を貸している。


日本は、ロシアが一国にまとまるより、分裂していつまでも戦争することを望んでいる。


満州やシベリアは日本の後背に辺り、直接敵対したくない場所である。

このような後背地に生産拠点があれば前線で有利に戦うことが可能という訳だ。


日本軍が協力する見返りにロシアは、満州利権はすべて日本が握ることを認める。

また、ウラジオストク周辺までの沿海州を満州の領土と認めるという代償を払っている。


これにより、朝鮮半島(朝鮮は、ロシアの侵略により半島に閉じ込められていた)は、満州国に囲まれることになった。


この問題が発覚する前には、半島内でこの情報がリークされた。

「満州が拡張し、半島を囲む。半島から脱出せねば日本人の奴隷にされるかもしれない」

という噂が半島中に走った。

朝鮮は併合されたが、格差は明らかで、半島人は、日本国内への移動は厳しく制限されていた。逆に、日本からの半島への投資などは極力抑えられており、半島への居住も自己責任によるという厳しい措置がとられていた。


ある男が、伊藤博文に未来で起こるであろう日韓問題を切々と聞かせた結果、伊藤が内閣に命じた結果である。因みになぜ内閣に命じることができるのか。そもそも伊藤がどれだけの物なのか?


巨大な存在である。


実は、帝国憲法には、内閣総理大臣の決め方がないのだ。

ないけれど、必要ということで、歴代の元勲たちが内閣総理大臣の候補を天皇に推挙する形をとっている。これは法的不備なのだが、すでに帝国憲法は、無謬(完璧で謝りがないということ)であるため間違いでしたと改めることができないという機能不全を抱えていたのである。


この機能不全が問題になるのが、明治の元勲たちが死滅した時から始まるのである。

軍務大臣現役武官制などは、元勲がいれば一喝されて終わりだったに違いない。

こうして、内閣の軍部化が進んでいかざるを得ないということだったのだ。


それほど、元勲達が隠然と力をもっていたのである。

その筆頭の伊藤がいえば、皆も黙るしかないのである。


話は戻るが、この噂が千里を走り、半島の人々は国外に逃亡を開始する。

半島の人間の多くが、シベリア方面へと逃亡を開始した。

主にウラジオストクである。

何故、ロシアなのかそれは、満州がすでに実質的に日本が支配している状態に近かった点にある。満州の日本企業では、国籍条項が設けられ、厳しい審査が待っている。

これも、戦後に起こる日韓問題を起こさないための事前準備であった。


契約書があり、日本人と同様の条件で働いていても問題になるのである。

それでは、問題なので初めから、採用してはならないと決めていたのである。

違反して雇った企業がのちに紛争に巻き込まれたとしても、企業の責任であると、内閣が通知したのである。





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