第67話 発注済み
067 発注済み
何とか無事に日本の実家に戻ってきた。
何らかの術式を組み込まれた刃物らしく、私の強力無比な自己治癒能力でもそう簡単に治癒しなかった。
機関の工作員が、渡したのではなかろうか。
そして、父と母に婚姻の話を告げると、驚愕の答えが返ってきたのである。
「え?結婚ですか?勝手に?」
いつになく父が強気発言である。家長の私を抜きにして決めては困るとか怒るのだろうか。
「悪かったですか」と問うてみる。
「ええ、少し問題が有るのです」
「ほほう」
「もう、発注してしまいました」と父。
「発注?」
「そうです、もう玄兎ちゃんももうすぐ30歳ですもの、お嫁さんも欲しいかとおもったので、発注してしまいました」と母がなにやら言い始める。
「なるほど、昔の日本では嫁は発注するものなのですね」
偽家族の団欒には微妙な空気が流れている。
嘗ての日本では、父親が絶対なので、娘が結婚相手を勝手に決められるなどの習慣もあったという。
しかし、嫁が発注されるとは聞いたことが無かったのだ。
「キャンセルはできないのですか」
「発送済みですね」と父。
だから、誰が嫁を宅配便で送ってくるというのかね!
そして、私は気づいたのである。
ひょっとして、アレがやってくるのではなかろうかと。
そうすると、私は戦争もせずに、金をもって遊び暮らせばいいのでは、きっとアレは超オーバーテクノロジーのはず、終戦の日と呼んでいる敗戦の日の前からでも戦局を逆転させることも可能なのではないだろうか!
勿論、アレとはUFOの事だ。
しかしこの場合は星間宇宙船とはっきりしている。
たしか、独逸で円盤型の飛行機が作られていたはずだが、これはまさに本物、日本のいや、私の新兵器として、私を勝利に導いてくれるはずだ!
やった!やったぞ!
その時、周囲に落雷が何発も落ちた。
窓の外が青白く光っている。
かなり近い。
「ヤバい!」
「火事は出ていないか!」
私たちは、外に出た。
今迄、聞いたこともない異音が響き渡り、体が重く感じる。
頭上に何かが存在している。
巨大な圧迫感。しかし、空は確かに青かった。
よく見ると、何だか揺れている。
明らかに、何か巨大なものが宙に浮かび、我々を圧迫しているが見えないような仕掛けになっている。
『光学迷彩』その言葉が頭に浮かぶ。
「もう、来ちゃいました」父が言う。
「父さん!」
「キャンセル間に合わなかったですね」
「父さん!」
光の柱が宙から降ってくる。
その中に、人影が見える。
「玄兎君のお嫁さんです、玄兎君の好みに合うタイプを出来るだけ選んでおきました」
「選べるんですか」
「何タイプかあって、その中で細かい機能を選択できるんです」
「何故、私に相談しないのですか」
「だって、玄兎君が勝手に結婚決めてくるって聞いてなかったから」
「そうじゃない、なんでこんな大事なことを私に相談しないんですかといってるんです」
先ほどとは全く逆の立場になってしまったということであった。
光の柱から人間らしきものがでてくる。
「うわ!」それはあまりにも美しい女性だった。
個人的に大好きだったアイドルと瓜二つである。
その美少女アイドルが大正ロマンの姿で現れたのだった。(ただしこの世界は太正)
羽織はかまに皮のブーツ、何とかさんが通るみたいな姿である。
一目惚れというのであろうか。
どうやったら、このような美しい物体を作り出せるのだろうか。
と、その時には、世界最強の兵器は姿を隠していた。
「しまった、逃げられた、アレがあれば世界制覇などたやすいというのに!」
そもそも、この男はどのようにして、アレを支配下におけると考えたかは不明だが、確かにアレは、飛び去ったのである。
「さあ、どうぞ、我が家へ」父がその娘?を家に迎えようとしている。
「ヨロシクオネガイシマス」その声は、ロボットの合成音声のような音だった。
「え?」
「大丈夫よ、玄兎ちゃん、そのうちきちんと話せるようになるから」
「え?」
「家の玄兎ちゃんよ、あなたの旦那様、アレよ」母が私を指さす。
「ワカリマシタマスターヨロシクオネガイシマス」
声さえ普通なら、ものすごい美人なのに、少し残念だった。
「大丈夫よ、玄兎ちゃん、心配しないで」
とても心配で残念だ。
「これから、日本語に調整が入っていくから、人工知能はとても優秀なのよ」
だから、それを戦争に使わせてくれよ!
「あ~ら、玄兎ちゃんは、か弱い女性に戦争させる気なのかしら」
あんたら、決してか弱くないだろう。
「そんなことは無いわよ」
だから普通に人の頭の中を勝手に覗いて会話するのは、辞めようね。
「そうね、彼女綺麗でしょ。ちゃんと子供も産めるのよ」
そういえば、母さんも勝手に子供産んでいましたね。
「それは、言ってはいけませんよ」
母の眼からハイライトが消えて、別の何かになった。
その虫けらでも見るような眼を辞めてくれ!
私は、ここで思ってしまった。
彼等を、米国に侵入させて、破壊工作をさせれば、戦争に勝利できるのではないかと。
その時、稲妻が光り、大音声とともに大木が裂けた。
近ごろ、よく雷が落ちるな。『機関』よりも厄介なのは味方なのかもしれない。
さらに考えてしまう。
この雷を自在に墜とせたら兵器になるのではと!
辺りが真っ白に染まった。
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