第69話 戒厳令

069 戒厳令


満州には、他国の企業も中国の企業も存在する。

しかし、ロシアが大きく後退したため、日本の勢力が大きく伸張した。

なかでも、テスラ電気通信社、ラビットフットタイヤ社、ディーゼルエンジン社、シコルスキーアビアーツが多くの人材を要していたが、それらは日系の企業である。名称は外国そのものであったが。


それらの会社の社員は、ある種の方向性をもった人間が多かった。

日本発の新興宗教『日月神教』の教徒である。

外部の人間が入るには、壁が高かった。


気楽に入れる会社もあったが、それらは技術情報の漏洩を気にしていない、月兎自転車くらいなものである。


これらの会社は国籍条項により半島出身者を雇用しない。

たとえどんなに優秀であろうとも。


一方、ロシアでは、『働いてくれさえすれば、国民として迎える準備がある、共産主義ソビエトを共に倒そう』をスローガンに、中国、満州、朝鮮人に対して働きかけをしていた。


歴史的に、日本人よりも優れていると信じている朝鮮人にとって、日本人如きの下風に立つことは許されないことであった。

彼等は、皆がウラジオストクへと向かうものがほとんどとなった。

では、国土はどうなるのか?

国内に残った者たちは、排日運動を行うレジスタンスだけとなったのである。


多くの朝鮮人がさった地域に早速日本企業が遣ってきた。

釜山である。ここに港を作るのだという一団である。

ウラジオストクでも港湾の拡張工事が今盛んにおこなわれているにも関わらず、釜山でも開始しようとしていたのである。


第三港湾建設社という日系企業である。

何故第三なのか?それには、理由がある。第一と第二が存在するからだった。

第一港湾建設は、仙台港の整備、第二港湾建設は、ウラジオストク港の整備。

そして第三港湾建設が釜山という訳である。


何故このように港湾の整備を行うのか?

それは、艦艇整備の問題を解決するためである。


勘違いしている人もいるが、艦艇をそろえれば勝てるという人がいるが、戦闘艦艇は必ず損傷する。それを修理せねば再度使えない。

しかも、大型艦のドックの数が少ないと空母を修理している間は、別の船を修理することも作ることもできない渋滞が発生する。


それを解消するには、ドックの数が必要である。

修理でなくとも、艤装の変更や点検で仕事は腐るほどあるのだ。

帝国には、それが圧倒的に欠けているのだ。

幸いにして、ロシア人から技術的な援助を受けることに成功し、土木工事が行われているのだった。


さらに言えば、場所は離した方が戦略的に優れていることは、勿論のことである。


建設現場では、多くの人間が働いているが、多くの兵士らしきものもいた。

帝国軍人とは明らかに違う様式の装備を纏っていた。


彼等は軍用犬を連れて、警備をしている。

監視塔からは、機関銃が狙っていた。

帝国軍人ではない彼らは、勿論『八咫烏師団』の兵士たちである。

ついに、規模拡大により師団に昇格したらしい。


この地には、朝鮮人レジスタンスが存在するからである。

日本帝国の不当支配打破を掲げる彼等は、今や、半島最後の希望であった。


だが、彼らは間違いを犯していた。

多くの人々が、その地を去ると自ずと食料生産が減少する。

日本人達は、食料を内地や満州からの輸入で賄っている。

しかし、彼らは、買う場所がなかった。

密かに畑を耕しても、傭兵たちが荒らしに来た。

耕作禁止、私有地侵入の禁止が、朝鮮語で書かれた看板が立てられる。


そもそも、ここは、我々の土地だ!

もともと、興奮しやすい国民性をもっている彼らは、激昂して港湾地域へと繰り出していく。


港湾地内、作業区域は、金網フェンスで区切られている。

「出ていけ、日本犬!」誰かが、罵声を浴びせる。

犬というのは、中国韓国に共通する罵詈雑言である。


某通信会社の宣伝では、父親は犬である。

彼等の感性では、「犬め」と罵倒する感覚なのだが、果たしてこのCMは如何にして作られたのかそのような意味が込められているのかは不明である。


兎に角、彼らは叫びをあげ、石を投げ込んだ。

「直ちに、犯罪行為を中止して、解散し、地区外へ退去せよ、ここは大日本帝国領である」

若い仕官らしき男が朝鮮語で怒鳴る。


「もう一度言う、直ちに解散し退去せよ、これは最終警告である」彼らは、銃をもっている。

しかし、レジスタンスの彼らも拳銃をもっていた。

それを抜いてしまう。


「武装を直ちに解除せよ!」仕官が怒鳴る。

しかし、彼等はやめない。一度興奮すると、国旗に火をつけないといられない性格なのだ。


「掛かってきやがれ、犬っころ!」

銃を構えるレジスタンス。

しかし、仕官は鍛えられていた。

抜き撃ちで、金網ごしのレジスタンスを射殺する。


こうなると騒乱状態である。

監視塔から、ブローニング重機関銃が吠えた。

兵士たちが、転がりながら、小銃を放つ。


数十名のレジスタンスが鏖殺される。

これが、半島で初めて行われた反日武装闘争である。


朝鮮半島内に戒厳令が敷かれる。


帝国は、民間軍事会社『八咫烏師団』にレジスタンス逮捕拘禁を命じる。

帝国の命を受注した八咫烏師団は、半島内での警察権を獲得し、全土の調査を開始、敵性レジスタンスの逮捕、拘禁を強力に推し進めることになっていく。




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