第70話 狡賢い狐と兎の会話
070 狡賢い狐と兎の会話
釜山に八咫烏師団の兵士たちが陸続と上陸している。
シベリアで訓練していたシベリア連隊とニューギニアで訓練していたニューギニア連隊も加わる。
「敵性レジスタンスを一掃する、この半島に一匹たりとも残しておくな」
師団長は、長い間、軍務についてきた生え抜きの信者(狂信者ともいう)である。
釜山は半島の一番の端である。
そこから、ローラー作戦で捜索範囲を広げていく。
日本語をしゃべれない人間はすべて敵性レジスタンスの可能性がある。
師団の捜索、逮捕は激烈を極めた。
たびたび銃撃戦が行なわれる。
しかし、火力では正規兵以上の装備を備える彼等の敵ではない。
洞窟という洞窟には、手りゅう弾が投げ込まれ、火炎放射器が内部を焼き尽くす。
銃の性能でも圧倒的であった。
此方はすでにスコープを装備しており、射撃訓練も積んでいる。
スナイパー部隊が、一人また一人と刈り取っていく。
さらには、飛行機による航空偵察まで実施される。
ドイツ軍エースパイロットから、訓練を受けた、若鷹達である。
まだ、複葉機でエンジンも出力が足りないが、操縦と整備を習っている。
やがて、全金属製の航空機が生まれてくる時にはそれを操縦する事だろう。
星形エンジンの開発はディーゼルエンジン社が行なっており、航空機の設計は、シコルスキーの会社(シコルスキーアビアーツ)が行なっている。
今使っている飛行機は、第一次世界大戦終了時の放出品である。
兵士たちは、バイクを駆って山を登っていく。
オフロードバイクがようやく試作段階まで来たようだった。
航空機から無線で、バイクの兵士に方向等の情報を伝える。
山狩りは、来るべき戦闘の訓練であった。
そもそも、古代中国や戦国時代などでも狩りは戦闘訓練の一環でもあった。
今、彼らは全力で、訓練をこなしていた。
朝鮮半島戡定作戦は、半年をかけて完璧に行われた。
新兵もこの作戦を終える頃は、一人前の兵士になっていた。
この作戦は、訓練のみが多い八咫烏師団の実戦経験となった。
その朝鮮半島では、旧来在住の人間は救いを求めて、満州や新ロシアに逃れた人間が大半であった。いつか半島を奪還するべき時まで待つためである。
満州での支配権はほぼ関東軍が握り、日系企業が幅を利かしているということは依然にも書いた。
満洲に入国した人々は、新たな希望を求めた人々は新ロシアへと向かわざるを得なかった。
要件さえ満たせば国民として歓迎すると宣伝されていたからでもある。
何という要件ではない。
まずは、新国民としてロシア皇帝家(あるいは王家)を尊敬すること。
そして、優秀な労働力であることを示すこと。
これら簡単な条件を満たせば、新ロシアの新国民として歓迎されるというのだ。
『新』という言葉がなんとなく良いように聞こえる。
難民の多くは簡単に労働契約書にサインした。
文字は、ロシア語で書かれていた。
そもそも、初等教育すら受けて居ない国民が大半だった国である。
史実の大日本帝国では、教育を受けさせるために多額の費用つぎ込んで彼らを教育したという。京城帝国大学まで建設したのである。
だが、この歴史線では、そのような事は全くない。
片言の通訳に促されサインする彼等。
そう、国民になるためのサインであるといえばそうである。
五年間の労働を対価にして国民になることを誓うと書かれているのだが。
こうして、彼らは、労働力を発揮すべく、シベリアの奥深く、北へと向かうのであった。
彼等の仕事は、コルイマ金鉱などでの採掘である。
他にも、ダイヤモンド鉱山での採掘などもある。
ラーゲリ(強制収容所)という名前ではないものの、内容的にはそれとほとんど同じであった。
これは、戦費を調達するために新ロシアの影の支配者が考え出した悪辣な計画であった。
そう、今院政をしいている若返ったニコライ2世である。
若返ったために人前では、ニコライ2世の甥と名乗っている。
ニコライは、ソビエトに殺されたのである。というまことしやかな嘘が流れていた。
そして、虎口から脱した彼の愛児のアレクセイとニコライの甥が頑張って、祖国奪還のための大祖国戦争を行っているというシナリオになっているのである。
「兵士としては使えんのか」と甥はそういった。
「彼らは、弱い奴には強いが、強い奴には弱いのだ、期待せん方がいいだろう」とロシア伯爵が答えた。
「それより早く次の支払いを頼む」
「なんだと、あれほど払ったのにもうないとでもいうのか」
「その通り、港湾整備には金が無茶苦茶かかるとわかったのだよ、代わりに、貴国にもっと港湾の整備をお願いしたい」
「彼ら(イングランド銀行)の頑張りが必要だ」
「そうかもしれんが、利息は忘れるな」
「貴様は本当に金の亡者だな」
「民草を踏みにじって、金をためたあんたにだけは言われたくない言葉だな」
「貴様には、皇位継承権はないからな」と甥。
「こんな寒い国は、好みではない。私は南国でバカンスがしたいのだ」と男。
「そうだな、妻が死んだら儂も、そこに行きたい」と甥。
「口を慎め。お前、殺されるぞ」と男。
「いつまで生きていられるんだろうな」と甥。
「さあな、実験体のなかで老衰で死んだ者は今のところいないぞ」
「実験体?」
「口が滑ったようだ、今の言葉は忘れるように」
「おい!」
「貴様は、甥だぞ」
「そうじゃない!」
「口を慎め、今すぐ殺すぞ」
「・・・・・」
そこにだけ冷たい風が吹き抜けていくのだった。
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