第26話 小学校の巨人

026 小学校の巨人


1896年(明示29年)

私もついに、小学校入学の年を迎える。

身長、体重はすでに中学生と言い張っても大丈夫なくらい大きく育っていた。

きっと、これも『スキル植物の成長』の力に違いない。


人間は植物では無い?そうなのだが、私は知っている。

所謂バグなのではなかろうか。

ただし、大きく育っても、小さくなることはできないので注意が必要だ。

そう、私は大きくなり過ぎた。


調子に乗ってしまいました。


宮城県尋常師範学校附属小学校に入学することになる。

近所だったのだ。


小さな子供たちに交じり大きな男の子の私が保護者のように学校の門をくぐる。

明らかに、机といすが小さすぎた。

このような巨漢が入学してくること自体が話題に登るほど有名になっていた。


しかもしゃべり方は、大人顔負けで国語数学はすでに高校クラス程度だった。

まあ、前々生では、有名な私立大学をそれなりの成績で卒業したのだから当たり前といえば当たり前だ。


進入生が、『おはようございます』と私に挨拶してくるのが初々しい。

きっと、君たちと同学年だよと答えれば、吃驚仰天でするであろうか。


「おはよう」と先生のようにニコリと答える私だった。


入学式を終え、クラスに入るとやはり吃驚されている。

同じ小学校1年にはまあ見えない。

自分でもそう思う。


しかし、仕方がない。さっきも言ったが、大きくは成れても小さくは成れない。

そうか!皆を成長させれば、問題ないのではないだろうか!


その時にわかに、雷の音が聴こえた、晴れていたのだが、近くに落ちたようだ。

轟音が、教室のガラスを揺らす。


まあ、皆の成長を首を長くして待つことにする。


授業は聞かなくても問題なかった。

全てわかる。当たり前だ。


私は日清戦争後の相場で得た資金で、バイク事業を興そうと考えていた。

その案をじっくりと練っていた。


日本で初めてバイクが輸入されたのは、ちょうど日清戦争期であり、ドイツのバイクが輸入された。

しかし、バイクが大流行して儲けを出すことができるのは、太平洋戦争後になる。

自動車や戦闘機の製造を中止させられたため、バイクを作って売ったのが事の発端であるらしい。


私が、バイクに求めるのは、儲けではない。

戦闘において、偵察は必須である。この偵察任務こそがバイクの適した用途である。

早急に、バイク製造技術の蓄積と普及が必要なのである。

そのためには、職員をそのドイツへと派遣するしかないだろう。

同時に、自動車メーカーのダイムラー(現在のベンツ)の自動車輸入の窓口などをしてもらう必要がありそうだ。


これらのことを任せられるのは、山口氏しかいなかった。

山口氏と自転車製造の技術者、それと父に行ってもらおう。


日本では、日本製のバイクが製造されることになっていくが、それはバイクとは名ばかりな、自転車にエンジンを載せたような、今でいう、電動自転車のようなものだった。

それでも、エンジンの小型化とエンジン自身への技術の蓄積は非常に有用なものに違いない。


授業が終わる。

さあ、帰ろう。

何故か、先生に進入生たちの世話を見るようにいわれた。

いやいや、私も新入生の一人なのだが・・・。


こうして集団下校の団長として、一人一人家まで送っていく。

「井上君が最後になってしまったね」

「はい、ありがとうございます」

「君は、礼儀正しいね」

「ありがとうございます」


井上君はとても利発そうな子供だった。

「じゃあ、これで、さようなら」

「ありがとうございました」学帽を脱ぎながら頭を下げる井上君。


そこから数十mほどの場所に自分の家があった。

まあ、近ごろは、面積が急激に広がっており、自分の家の敷地に入ったとしても、かなり歩かねば家にはたどり着くことはできないのだが。


さっそく、ドイツ研修旅行について山口氏、両親と相談することになる。

「私が、海外旅行に行くのかね」

「ええ、父と職工と一緒に行ってください」

「う~ん、嬉しいような、不安なような」

「大丈夫ですよ、父は語学が達者ですから」

「そうなのかね」


きっと、そうに違いない。

そして、その通り、父は語学を操る能力を有していた。

何と便利な父よ!


「君の父が行けばよいのでは?」

「いえいえ、そこは、やはり我が家の大黒柱の山口さんにお願いします」

「何故に?」

「いやあ~、父さんはなんだか頼りないので」

「・・・」みんなが顔を見合わせた。


父は非常に優秀なのだ、言われたことをしっかりとこなす。

だが、弱点もある。いわれていないことはできないのだ。

臨機応変に対応できないのだ、というか判断しないのだ。

それは母も全く同じである。


彼らはそのようにできているので今更どうこうできるものではないのだった。

彼らは、私を育てる役目を負っているだけなのだ。

まあ、勝手にいろいろとさせてはいるのだが。


「父さん、ドイツで美味しいビールを飲んできてくださいね」

「そうなのかい、ドイツはビールがうまいんだね」初めて父親が笑顔になった。


母が残念そうな顔をしている。

自分は飲めないためだ。彼らは、食べることに非常に興味をもっているのである。

「母さん、私が米国に行くときにでも一緒に行きましょう。米国の方がおいしいものが多いでしょう」

「まあ、嬉しいです」母親は笑顔を浮かべる。


今度は、父親ががっかりした表情になってしまった。



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