第27話 親友

027 親友


次の日からは、皆が我が家の前に集まってくる。

集団登校の集合場所になってしまった。

引率は私である。集団登校の団長に専任されたのだろうか?


「おはよう、井上君」

「おはようございます、咲夜さん」

「いやいや、同級生だから」

「じゃあ、咲夜君」

「此れから私たちは、運命の友になるんだよ」

「なんですか?」井上君は分からないという顔だ。


「いや、僕たちは親友なんだよということだよ」

「?」


「じゃあ行こう、君」

「はい、咲夜さん」

あれ?もとに戻っている。


同級生なのに・・・。まあ誰にも同級生には見えなかったかもしれない。

それは子供を引率して学校に向かう親のようにしか見えなかったのだった。


そう、彼こそは、帝国海軍最後の大将『井上成美』その人であった。

いかにして、彼を口車であやつるのか、私の詐欺力が問われているのであった。


「それにしても、すごい竹藪だね」

「ああ、そうだね、いつの間にかできていたんだよ、筍食べる?」

「ええ、良いの!」

「勿論だよ、成美とはじゃないか」

「ありがとう、咲夜さん」


「今日は、学校が終わってから、筍と椎茸をもって行ってあげるよ」

「ええ!あの高い干し椎茸!」

どうやら、まだ高級品のようだ。

「成美は親友だからね」

そんなことを言っていると、集団登校のもの全てが、僕も私も親友にしてくださいとお願いされてしまった。全員が親友になった。


ええと、君たちは、誰だったかな?


一般人の名前まですべてカバーしきれないのは仕方ないよね。

こうして、一日にして、咲夜組なる集団が出来上がってしまった。

皆が、親友だ。男も女も、皆親友だ。

まあ、まだ一年生だから問題ないか。



何とか、一日を終えて集団下校。

皆は、私の家に集合して、手土産の筍、椎茸セットを受け取って笑顔で帰っていった。

「そういえば、成美は、英語が苦手だったよな」

小学校で、英語を習うはずがないのに苦手認定される。


「え?」

「そういう訳だから、お雇い外国人を教師に雇ったから、これから家で勉強していくといいよ」

「え?」


猟師の丁稚たちには、猟以外の勉強も叩きこんでいるのであった。

学校にいけない子供が、勉強させられている矛盾。

しかし、より良い士官になるためには、教育は必須である。

特に、敵国への侵入や外交では、英語は欠かせない。

そういう訳で、家には、イギリス人の教師が雇われている。

山口氏も一緒に勉強している。


「じゃあ、咲夜さんも一緒に勉強するの」

「いや、私は駄目だ、仕事をしないといけないんだよ。おそらく今日も、豊作祈願の人達の畑の処理をしないといけないからね」

現地で畑の境界を確認して、豊作にするという仕事がいくつもあるのだ。

近ごろでは、多すぎるので、地図上で確認して対応する場合もあるほどだ。

特に、遠くだと、いちいち現地に行っていられない。


すでに、その仕事は宮城県を越えている場合すらあるのだ。

まあ、その分実入りも多くなるのだが。


「心配はいらない、君は僕のだ。皆ちゃんと教えてくれる」

一年生のほとんどが親友になったので、彼は特別の親友に昇格したのだった。


普通こういう目立つ子供が入ってくると、上級生が出てくるものだが、この辺は事情が異なる。豊作と不作を決める女神の使徒を怒らせてはいけないので決して、喧嘩など売ってはならないと多くの子供が釘を刺されていた。

日本はまだ、農業国なのである。


怪しげな新興宗教『日月神教』しかし、その影響力はこの界隈を席捲していた。


だが、喧嘩を売ろうとする子供がいたとしてその子が勝てるかと問われば、それは無理である。彼は、見た目は優し気な男前だが、平壌城の戦いで『日本鬼子』という悪魔と恐れられた殺人鬼である。そんじょそこらの精神構造ではないのだ。

知らぬ間に、竹藪に埋められるのが落ちである。


こうして、井上君の英語教育が始まるのであった。


一方ドイツへと渡った人々は、どうしていたのか。

彼らは、新潟県からロシアのウラジオストクへと渡り、シベリア鉄道でドイツに向かった。

その方が早くつくからである。


そうして、バイクの会社の前に、ダイムラー社へと訪問する。

日本への自動車輸出を依頼するためだった。その中で、バイクを生産したいので、やってきたこと話すと、何とそこで、家(ダイムラー社)でも作っていたという情報を得る。


試作はしていたが、商品化はしなかったという、幻のバイクが存在した。

その試作品を自動車と一緒に送ってやるという商談をまとめてきたのである。

こうして、幻のバイク『リートワーゲン』と自動車。ヒルデブラント&ヴォルフミューラー社のバイクが数台、輸入されることになる。

また、ダイムラーへのタイヤ輸出の計画も決定した。

何れ、エンジンに関して技術を集積していく過程で、ダイムラー社との縁を深めるためでもある。



彼らはその後ドイツ観光を行い、行きと同様の行路で帰路に着いたのである。


「とにかくまずは、バイクの自作を行う」

そのうえで改良していく。

自転車工場では、バイク製作グループが発起した。


目指すは、バイクの自作その先に、モトクロスバイクの製作が待っている。

ヤ〇ハや川〇に負けるな!


大丈夫だった。まだバイクを作っていなかったのだ。

負けることすらできなかった。



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