第92話 裏事情

092 裏事情


の世界では、血盟団事件に対する刑罰が軽かった。

そして、その生き残りたちが515事件を起こす。これもまた、温情あふれる刑罰だった。

テロ行為を行っても軽い刑罰しかないと安易に考えたのか、今度は226事件が発生していく。


これらテロの流れにより、むしり取ることのみを行ってきた財閥も、世間体を気にし始めたという程度には有効であったのかもしれない。


逆に言うと、初めの血盟団事件で、皆が処刑されて徹底的に捜査を行っていれば、515も226も起こらなかったのかもしれない。


一方、このでは、血盟団が決して手を出してはいけない存在に手を出したことから猛烈な巻き返しが発生していた。


八咫烏師団の兵士が、テロリストのふりをしながら、各所を襲撃し始めたのである。

仮にも、民間軍事会社である。

怖しい殺人事件があちこちで発生し、誘拐される人物が続出した。


日月神教の信者が、日蓮宗の寺を焼き討ちするなど、不穏事件が多発する。

血盟団に何ら関係のない寺すら襲われた。


誘拐された人間たちが、その後発見されることは一切なかった。


世間には不穏な空気というか、恐怖が漂っていた。

東北の新興宗教にこれほどの力があったのだと初めて人々は気づいたのだ。


特高警察は、八咫烏師団の兵士による事件に、表面的には調査をおこなっていたが、裏では手打ちが行なわれており、逮捕者が出なかった。

警察権力も同じである。


もし、逮捕者が出ても、牢屋ごと吹き飛ばして救助しに来るであろうが。


彼等は一般民間人には手を出さないことは分かっていた。

しかし、寺の焼き討ち事件は、全く無関係の寺にも被害が及び逮捕者が出ていた。


がテレビジョンで、このようなことは今すぐやめなさいと諭したところようやく収まったのである。


そのような状況であったが、捜索の手から漏れ出た一部分子が、515事件を発生させる。

三井銀行の団琢磨が暴漢に銃で撃たれる事件が発生した。

しかし、それは未遂に終わる。護衛達が身をもって守ったのである。

事件の数日前に、電話が入り、護衛が派遣されたのである。


その護衛達こそ、八咫烏師団の隊員であった。

アラミド繊維で編まれた、防弾チョッキが役にたった。

護衛は撃たれたが無事だったのである。

そして、犯人はその場で射殺される。


三井財閥の総帥が助けられたことは、非常に大きな事態であり、今後三井は、日月神教に頭が上がらなくなってしまう。それだけ経済的影響力の大きな事件になってしまったのである。


裏事情に詳しい人間なら、違和感を感じたかもしれない。

何故なら、血盟団の残党はほぼ狩りつくされていた。一部の人間だけが幸運にも生き延びられるのだろうか?と。そして、その追い詰められた犯人たちが、独力で次の犯行など行えるのか?と。


だが、その推測がある結論を得たとき、その事情通は知ることになるだろう、決して口に出すべきことではないと。言ったが最後、口の中に銃弾を撃ち込まれるに違いないと。


しかし、証拠は何もなかった。そして犯人すら死んでしまった。

少なくとも、三井財閥は恩義を感じたことは間違いなかったのである。


この事件を契機に、テロリストの徹底逮捕が行なわれ、軍部若手将校たちも、この手の事件に加担するような、イデオロギーには接触することが難しくなっていく。というかそのような者が次々と行方不明になり始めると恐怖を感じたのだ。


歴史の教科書にでてくるような過激な思想家は、皆、逮捕された。

あるいは、大きな声では言えないが、失踪した者も数多くいたという。

左翼の人間は、ソビエトに亡命したのかもしれない。

右翼の人間は、満州に逃れたのかもしれないが、国内においてそのような有名人の数多くが消えてしまったことは、このような思想運動家との接触を断つ一助となったことは間違いない事実であった。


1933年(照和14年)

大陸では事件が起こっていた。

満州国設立に反対する、東北軍閥張学良が、部隊を率いて熱河省で戦闘を開始したのである。

柳条湖事件が発生した時、彼は北京にいて難を逃れた、その時は、主力を連れていっていたのである。満州に残った部隊は、関東軍により壊滅されている。


満州国設立は、リットン調査団の報告による採決が行われ、事件こそ東北軍閥が仕掛けたものであったが、国家樹立とはまた別問題であるので、建国を認めないとされていた。


国際連盟総会でそのように採択されたのである。

建国反対がほぼ全部の国、ロシア、日本、タイだけが賛成という結果であった。

日本はそれに声高く抗議したが、認められなかった。


「では、我が国が満州国に、建国が認められなかったので、中国に戻るように説得いたしますので、いましばらくお待ちください」

こうして、日本政府が、満州国に対して建国を辞めるように説得することになったのである。


そのような馬鹿なことが起こりうるのか。

間違いなく、時間稼ぎである。


しかし、現実に満州に力を加えることができる国家は、国境を接している中国、モンゴル、新ロシア、日本しか存在しない。

たとえ欧米各国が軍隊を侵攻させるにしても膨大な距離を渡ってくる必要があった。

そのような事態をおこさないために、軍縮条約を結んでいるのだ。


そして、中国は現在内戦中、モンゴルは、日本、ロシアから働きかけを受けている。

モンゴルの西部は、ソビエトの影響下と国境を接しており、ソビエト赤軍が、モンゴルに傀儡政権を作らんと活動していたのである。


それを阻止すべく、関東軍と新ロシアが助勢しているという形になっていた。


モンゴルが今、草刈り場になろうとしていたのである。

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