第91話 飛翔
091 飛翔
カマキリの怪人は飛び去った。
頭を食われた藤井は死んだと思われるが、三上(カマキリ化)の方が残っている。
ロシア秘密警察から日本の特高警察に直ちに、藤井、三上を洗うように通達が行く。
ロシアでの秘密警察部門を八咫烏師団出身者が固めており、バーターで日露両国の犯罪者情報を交換している。
軍では、藤井と三上は、テロ行為後行方不明扱いとされた。
三上がカマキリ怪人になって、藤井の頭を食って飛び去ったといっても誰も信じはしないだろう。
なお、三上が飛び去った方角は日本である。
カマキリの羽根でどこまでとべるのかは全く不明だ。
特高警察はすでに、井上陽召の存在を掴んでおり、藤井・三上などがそことつながっている証拠を掴んでいた。近々にテロ行為を行うのではと情報を得ていたようだ。
特高警察から身柄確保に動くかの打診はあったが、それは完全にノーの返事を行っている。
日月神教には、『3倍返しの法』があり、やられた限りは3倍でやり返すという厳しい戒律があるのだ。特高警察が逮捕すればそれが不可能になる。
シベリア連隊の特殊戦術部隊が、茨木県に展開する。
「一言だけゆうならば、奴らに死んだ方がましだと後悔させてやれ!以上」それが訓示といえるものだった。
命令一下、彼らは命をすてて任務に邁進する。
茨城県の某寺に突入した部隊により、主だったものが逮捕された。
その拷問は凄惨を極めた。死刑にされた方がましな拷問であったという。
次々と関係者の名前があげられ、証拠など関係なく逮捕され拷問が加えられる。
彼等にとって、教祖は父であり、神である。
一人二人殺したところで何ら痛痒を感じる必要もない。
逆に、大逆の叛徒を皆殺しにするくらいの意識をもっていた。
そして、異教徒など人間の内に入らないのだ。
虫を叩き潰すくらいの勢いで追い込んでいく。
中には、口に猿轡を咥えさせられて、拷問され、回答するといっていることすら無視されて拷問死した者すらいた。
寺からは、御禁制の十字架が複数見つかった。
この十字架は掛けている者が命を失ったときに、何かに変じる作用をもっていることが実験で判明した。この十字架が一体どこからやってきたのかは不明だった。
井上も厳しい拷問を受けたが、夢で見たの一点張りだったという。
何かにといったのは、その人間により、変じるものが違ったということである。
実験では、ムカデ人間と蜘蛛人間になった。
いずれも、携帯用対戦車ロケット砲により完全破壊された。
対物ライフルでは威力不足で斃しきることができず、秘匿兵器の出番となった。
ムカデもクモも羽根がなかったのが災いした。
逃げる前に殲滅されたのである。
しかし、捜査とは裏腹に、三上の行方は
・・・・・・・
そんな事態が起こっていた頃。
ドイツ国内において以下のようなことを近い将来口走ることになる人間がいた。
『今後もロケットで宇宙を目指そうと思ったら、どこに降伏して自分を売り込むのが最適だろう?』
彼等は、第二次世界大戦末期ドイツにいたロケット開発者たちである。
一部は米軍の『ペーパークリップ作戦』で米国に渡り、一部はソビエトに逮捕されて研究者になる運命を享受するもの達である。
「ロケットを宇宙に打ち上げるなら、国家規模の予算が必要」とも考えていた。
勿論、ナチスがそんな彼らに目をつけていたのだが、・・・・。
そこに一人の人間?が現れたのだ。
国家規模の予算を有し、さらには、衛星軌道に打ち上げるために有利なポジション(赤道に近い場所で、ロケットを打ち上げても迷惑にならない場所)を有する国家の人間である。
「あなたたちの情熱は我が国でこそ開花できるのではないだろうか」
整った顔立ちに、貴族的な雰囲気。品のあるドイツ語を話す悪魔のような人間?が、その地に訪れていた。
ドイツ宇宙旅行協会。
航空機や長距離砲をジュネーブ条約で封じられたドイツでは、ロケットに活路を見出すよう努力がなされていた。(協会は軍関係者によって設立された。)
だが、この協会には、本当のロケット好きが集まって研究していたのだ。
ヘルマン・オーベルトとその弟子を自認するヴェルナー・フォン・ブラウンなどである。
そこに、例の男が何食わぬ顔で現れたのである。
そもそも協会そのものが、ドイツ軍により計画されたものであった。
「我が祖国では、パプアニューギニアという赤道に近い島を確保しています。」
(ドイツ領であったものを日本が戦争のどさくさで占領し、今に至る)
赤道の近くにあるということは、ロケットを衛星軌道に打ち上げるために有利な条件なのである。
「そして、私は、宇宙に憧れを感じています。さらにあなた方が必要としている資金も十二分にもっているのですよ。」(膨大な株式売買による利益の増大(相手の損失)が、戦争のきっかけの一つなったと後に言われることになる)
簡単に言うと衛星打ち上げ実験は私のところでやるのがベストです。
といっているのであった。
男は、巧みなドイツ語で勧誘する。
そして、かつて伝説になった空軍エースの紹介状を懐から取り出す。
「今、我々は非常に充実しています。君たちも同じように充実する日々を送れることを願ってやみません マンフレート・フォン・リヒトホーフェン男爵 追伸、彼の嫁は、ロシアのロマノフ王家の娘に当たりますので、金に困ることはないと思われます」
今ドイツは、ナチスの専横が進み生きづらい世の中に変じつつあった。
絶妙なタイミングであった。
彼等は、ナチス党の人間ではなく、科学者、探究者であった。
しかも、家族までも優遇する旨を告げられる。そして、元空軍エースの家族の喜びの声も添えられている。
当時、追い詰められた彼等は、研究のためなら悪魔にでも魂を売るという考えをもっていたという。
しかし、本当の悪魔に捕まってしまうとは、皮肉な結果であった。
まるで、何かのCMのような話である。
明らかに嘘っぽいのだが、このころの人間は疑うことを知らないのだった。
直ちに支度金(10万円:現在価格の1億円程度)を手渡され、契約書にサインさせられる。
ドイツは不況の最前線というかどん底状態であったので彼らは喜んでサインしたという。
数千、数万倍に及ぶインフレが進み、パン一つで、猫車一台の札束を必要とする有様だったという。
こうして、ドイツ宇宙旅行協会の主な研究メンバーは、満州へ移住することになったのである。
日本ではなく、満州、人種のるつぼ(満州帝国になったが、各国の経済活動は規制されていないため西洋人も多数存在した)、帝国軍人(関東軍が権勢をふるっていたが、自国のようにはいかない)の影響を及ぼしにくいところであった。
約束通り彼らは潤沢な予算でロケットを開発できた。
まさに国家予算規模と呼べるくらいの予算である。
しかし、その設計図等は、完全に横流しされていた。
そして、ロシア技術者や、神教の信徒たちにより、実験が重ねられることになる。
信徒たちは、優秀な者たちで形成されている。彼らは皆、帝国大学の工学部卒業者たちで構成されていた。
だが、彼らはロケットを打ち上げるという目標達成のためには、周囲を全く気にすることなかったのだ。
より高く、より遠くへその情熱は計り知れない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます