第90話 決闘

090 決闘


男は、最上階の奥に執務室をもっているらしい。

美しいロシア美女が、案内してくれる。

これだけでも、咲夜を抹殺しなければならない!と二人は心に誓った。


「入り給え」部屋に招じ入れられる。

「それでは失礼します」ロシア美人は去っていった。

よかった、彼女を巻き込みたくなかったのだ。


「それで、海軍の仕官が私に何の用かね」自分とさして変わらない程度に若かった。

これで、大佐なのか。

「国家の為に、あなたはどうして金を使おうとしないのですか?」藤井が用意していた質問をぶつける。相手を難詰し、窮してから撃ち殺すという算段だった。

「何を言っているのだ、私が、仙台でどのくらいの金を使い、さらには、満州でも大規模な投資を行っているのを知らないのか」

「利益を全部懐に入れているでしょう」

「馬鹿者、戦艦を作るのにどれだけの金が必要なのか知っているのか、空母を改造したのにどれほどの金を必要としたか、貴様らのような木っ端にはわかるまい」

「何を言っている」

「貴様らのような馬鹿に見せてやろう、真の空母というものを、ついてこい」


こうして、彼らは自動車に乗せられて軍港区の桟橋に連れていかれる。

巨大な空母が2隻も鎮座していた。

「これらを建造し、維持するのにどれだけの金がかかっているのか、想像もできまい」


「さあ、甲板に登るぞ」

何故このような真似をするのか、キチンとした理由があった。

男は、自分の執務室を血で汚したくなかった。それに、あそこで始末すれば、事件になってしまう。彼は、そのような面倒ごとが嫌いなのであった。


「どうだ、この飛行甲板の広さは、」男は両手を広げた。

突然に暗殺する理由を潰されてしまった。自分の利益を追求しているような輩を誅するためにきたのだ。


「だが、心配するな、貴様らの目的は分かっている。私も神の使徒と呼ばれているのだ。ちゃんと知っている」男の眼に冷たい光が宿っていた。


「何!」

恐るべき動きで接近して何かを振るった。

藤井も三上も腕を切り飛ばされていた。

男の右手には、剣が握られていた。


「ここなら、いくらでも血をぶちまけてもいいぞ」狂的な笑みを浮かべ獰猛な表情に豹変した男、それはあまりにも恐ろしかった。


「アアアアアア~」


「そもそも、神の使徒、いや、神にも匹敵する私を狙うなど不敬である。苦しんで死んで行け」

何とか、左手で懐の拳銃を引き抜く藤井。


バン!しかし、左手では狙いもおぼつかない。

「不敬であるぞ」その剣が左手も切断する。

「アアアアアア~」


その時、三上は、同じように銃を取り出し、何とか右腕の残りに左手を載せて射撃しようと足掻いていた。


バン!三上の銃弾が狙い過たず咲夜を撃ちぬこうとする。

ティ~~~ン

ありえないことが起こった。

銃弾が弾き飛ばされた。後ろから撃った弾を切られたのである。


「不敬である」見えない突きが、三上の喉を貫いた。

「ヒュ~~~」三上は奇妙な音を立てて倒れた。


死んだ三上の血潮が、授けられた十字教の十字架に塗れていく。

その時、おそるべきことが起こる。


三上の背中が盛り上がる。

衣服が裂け、肉が盛り上がる。


「なんだと!」さすがの件の男も予見できなかった事態である。

そして、裂けた!

中から、何かがはい出てくる。


「キシキシキシ」

「人間ですらないというのか、神よ!」

男が叫んだ神が何の神なのかはわからないが、恐るべきものであることは確かだった。

簡単に言えば、背中を割って出てきたのは、カマキリのような物体だった。

只、背丈は成人男性以上にあった。


そして、その顔は、三上の顔で目は大きな複眼が頭の側面に取り付けられるという、すでに何か禁忌を犯したような存在であった。


「キシキシキシ」口は、カマキリの口になっている。

岸さんを呼んでいる。岸田と呼んでいるのかもしれない。


腕が半分に裂けると、巨大な鎌を備えた腕に変化する。地味に何かの液体が飛び散っているのがグロい。


「確かゾ〇ゲのはずだが、やはり怪人か!」

剣を向けて問うが、「キシキシキシ」と言うばかりである。

その複眼が、男を映している。


「わかったぞ、騎士か、やはりテンプルナイトだな!」男の思考力は、宇宙の拡大速度に匹敵する速度だ。もはや誰も追いつくことはできない。


高速の剣尖が、宙を薙ぐ、鎌がそれを迎え撃つ。

十合、二十合激しく撃ち合わされる剣と鎌。


空母甲板で良かった。狭い部屋では大惨事だ。


流石の神の使徒でも、余裕がない。

相手の鎌は二本、一本で受けて、もう一本で切りつけに来る。

嫌らしい、逆さに付いたとげに引っ掛けられれば、只では済まない。


まさしく、剣を受け止めた鎌と別の鎌が、男を襲う。

男は、拳銃を抜いて撃つ。

それは、腹に辺り、青い液体が飛び散る。

「キヱ~~~~~イ」

それでも、巨大カマキリは死なない。

だが、そのすきを見逃すような男ではなく、光速の一閃がついに鎌を切り飛ばす。

関節の継ぎ目を見事に切り裂いたのである。


「キヱ~~~~~イ」

さらに気合を入れるカマキリ。

「死ね!」顔に一撃を入れようとする男。

しかし、カマキリは口から何かを吐き出した。

異変を瞬時に悟った男は、避けた。


空母甲板に落ちた液体は、ジューという音を立てて溶けた。

「貴様~~、虫の分際で、我が艦に何をする!」あらぬ方向に怒り全開。


「狙い撃つぜ!」その手には、M2重機関銃派生型対物狙撃ライフルが握られていた。

ドン!ドン!ドン!三連射が、カマキリの腹部を撃ち抜き青い血が飛び散る。


バタリとカマキリが弱弱しく倒れた。


「くそう、なんて野郎だ!」悪態をつきながら、もう一人の藤井中尉に近づいていく。

彼は、出血で死にかかっていたので、周囲で何が起こっていたのかは朦朧としてわかっていなかった。


男は、藤井中尉の腕に治癒魔法をかけて出血を止めた。

「さあ、起きろ」そして蹴り飛ばす。


「う、」朦朧とした表情だが意識がはっきりとしてくる。

「貴様を差し向けたのは誰だ!」

しかし、その表情には、恐怖が張り付く。

まあ、刀の刃先を向けられていれば誰でもそうなる。


だが、瞬間に殺気を感じて、斬撃を放つ。

鎌と刀がぶつかりあい、火花が散る。

カマキリがすれ違う。


「擬態か!」

そこには、あったはずの死体がなく、また、藤井すらいなかった。

カマキリは、少し離れた場所で藤井を抱えていた。

証言されることを恐れたのだろう。


「この虫如きが~~~!許さんぞ~~~~!」怒りが沖天に達した男は怒声を放つ。


「キシキシキシ」カマキリは、藤井中尉の頭に噛みつく。

ゴキリゴキリ、ムシャムシャとなんともおぞましい咀嚼音が響く。


「ないわ~」

「絶対ないわ~」これにはさすがの男もドン引きだ。


藤井の絶叫が迸ったが、今やシンとしている。

咀嚼音だけが聞こえる。


またしてもアンチマテリアルライフルを取り出し撃とうとする。


危機を察して、バサバサ!カマキリは飛翔した。首無し死体諸共、飛び去った。


「え?!」あまりのことに狙撃することを忘れた男が呆然そこ立っていた。





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