第164話 加州半島沖海戦
164 加州半島沖海戦
米海軍航空機隊が撤退命令を現場で出した頃のことである。
米機動部隊駆逐艦の甲板見張り員が、遠くに見える艦影を確認することになる。
「後方に艦影、距離30Km!」
「なんだと!」
ありえぬ事態が発生していた。
直掩航空機隊は、空に上がっていたが、発見した機動部隊からの攻撃を迎撃するために、艦隊よりも前方に遷移していた。
だが、航空機が発見できずとも、周囲はレーダーにより約100Kmの範囲は監視されていたはずである。
30Kmまで接近に気づかぬはずもない。監視レーダーは動いていたのである。
「レーダーは何をやっていたんだ!」
「正常に作動しています。あっ!」
その声に反応したように、敵の艦隊がレーダースコープに突如、映ったのである。
「嘘だろ、サノバビッチ!」
テスラ級戦艦に座乗した男は、主砲発射ボタンを押す。
大和級戦艦用に開発された46㎝60口径3連装砲が、轟音と業火を吐き出す。
怖ろしいほどの衝撃波が、海面を薙ぎ払う。
その衝撃に船の行き足が止まるようなブレーキが発生する。
それほどの衝撃力である。
勿論その衝撃と轟音は艦橋にも少なくない影響を与えるが男は、それに動じることなく、発射ボタンを押す。
今度は2番砲塔が咆哮する。
スプルーアンスは空母艦橋からその発砲炎をしっかりと見た。
不運なホーネットⅡがその直撃弾をスプルーアンスの隣で受けた。
大爆発が起こり、何が起こったかもわからないような火炎と黒煙に包まれる。
テスラ級3番艦『月読』(法王座上艦、艦隊旗艦)が放った砲弾は、エセックス級空母ホーネットⅡを上下に貫通して爆発して見せた。艦底で爆発した砲弾は、船を持ち上げ、それが落下するときの力で、艦を真っ二つに破断させてしまう。
黒煙が晴れる頃には、既に艦体の半分は海中に没しつつあった。
第2砲塔の砲弾はサ式砲弾だった。
空母フランクリンがその炎の球体に飲み込まれた。
猛烈な火炎が船を焼き、甲板員を焼き、衝撃波が艦体を襲う。あらゆる場所が火災に発生し、甲板上にあった燃料なども誘爆する。火炎地獄のような状態がフランクリンの甲板上に出現した。
周囲を守っていた駆逐艦などもあまりにも強烈な火炎と衝撃波で、大被害を被った。
期せずして、艦対艦の海戦が始まったのだが、スプルーアンス機動部隊には、随伴戦艦はなかった。
重巡しか付いてきていない。
戦艦部隊は、サンディエゴ市の守備のためおいてきていたのだ。
一方、敵艦隊には、戦艦が4隻も存在していた。
30Kmという距離は、戦艦が圧倒的に有利な間合いであった。
「レーダー監視員、貴様を後で裁判にかけてやる!」スプルーアンスは怒鳴ったが、すぐに、全艦体に向けて高速回避運動を指示せねばならなかった。
テスラ級戦艦が2手に分かれて、発砲を開始する。
最初の一撃は見事に命中した。しかし、件の男は、その奇跡をおこなったため、今はぐったりと司令官用の椅子に座りこんでいた。どうやら、疲れて伸びているようだった。
レーダー測距、光学測距どちらも同盟艦隊の艦の方が優れていた。
たとえ煙幕を張っても隠れようがない。テスラ級戦艦の主砲が、進行してくる敵艦船に向けて続けざまに発砲している。重巡洋艦の砲では、30kmの距離では命中は難しく、たとえ当たったとしても効果はない、自ずと突撃せざるを得ないのである。
米国海軍の艦船は空母を逃すために、全力で突進する。
周囲には、次々と水柱が立ち昇る。
何とか、自らの主砲の攻撃範囲まで肉薄しなければ、そして時間を稼がねばならなかった。
決死の覚悟でたまにフェイントを入れながら波を切り裂いて進んで行く。
僚艦の駆逐艦が浮き上がって爆発する。
物凄い主砲の威力をすぐ横に見ながら、歯を食いしばって命令する。
「ぶつけるつもりで突っこめ、主砲は射程内に入ったら、とにかく熱だれするまで撃ちまくれ、狙いなど気にするな!」
艦長はまさに海軍魂をもっていた。
同盟艦隊第一水雷戦隊司令には、南雲が当たっていた。
元々、彼は水雷専門である。
「敵の艦に向けて、あれを使え」
「は!」
「有線誘導魚雷発射準備、オペレーター管制準備せよ」
「有線誘導魚雷発射準備、オペレーター管制準備しま~す」
「テ!」
通常魚雷をベースに開発された有線ワイヤーによる誘導魚雷である。
オペレーターには視力が求められる。
有線範囲は5km程度である。
なお、酸素魚雷の場合は、オペレーターにも見えないため、通常魚雷となっているのだった。
次々に火を噴き減速していく米護衛艦隊、その中を勇気を振り絞って突っこんでくる重巡洋艦に向けてそれは発射される。
オペレーターは、甲板上から魚雷の航跡を見つつ操作しなければならない。
重巡洋艦が戦艦に向けて発砲する、ついに射程内に入ったようだ。
オペレーターが魚雷の進行方向を少し変化させる。
必中範囲にもっていくこと成功。
米重巡は回頭を開始して交わそうとするが、まさに魚雷はさらに角度を変える。
これが、有線誘導だ。
船首で大爆発が発生し、米重巡の行き足が止まる。
テスラ級の主砲4基12門の46㎝砲が、その重巡に向けられる。
「斉射!」
爆発的な発砲、テスラ級がその衝撃で
それだけのエネルギーを放出しているのである。
米重巡が一瞬で爆発に包まれる。
勇気ある戦いもここまでだった。
彼等の放った砲弾が、テスラ級戦艦の機関銃陣地の一部を吹き飛ばした。
それが彼等の成しえたことであった。
接近戦に持ち込めた米国艦も有線誘導魚雷の反撃にあい、あえなく撃沈破されていった。
空母群は必死の逃走を行い、それを直掩戦闘機が手助けしたが、エセックス級空母3隻とインディペンデンス級3隻が撃沈破されて、ようやく逃げ切れるという状態であった。
そして、未帰還機の数は600以上であり、ほぼ壊滅に近い状態でカリフォルニア半島内海へと逃げ込んだのである。
流石に半島内海にまで攻めてこれまいという判断は正しかった。
スプルーアンスの判断はある意味正しかった。
攻めてこない理由は、PC作戦の主目標は、パナマ運河とその近辺にいる新艦隊であるためだったが。
彼の計算では、日本側は、空母5隻のうち3隻が大破したため、攻撃を中止に追い込まれることは間違いないと確信をもっていた。
真実は、そうではなかった。テスラ級戦艦の後方200Kmには玉兎級空母4隻の機動部隊が存在していたのだ。
山口機動部隊は、スプルーアンス機動部隊を誘き出すための罠であった。
しかし、自らが生餌となって敵を誘き出させる大胆な行動、自らそれを志願する山口の胆力は恐れ入るものがあった。
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