第52話 第一次世界大戦始まる

052 第一次世界大戦始まる


このころの日本の造船所には、石川島、川崎兵庫、三菱長崎などの造船所が有名なところであったのだが、その三造船所に、次々と貨物船の建造の受注が入り始めていた。


一隻や二隻ならば何ということは無いが、できるだけ作ってくれなどという、訳の分からない注文である。さすがに、一社を優先すれば、今までの他社との関係を損なうことにもなるので一隻完成すればまた新しい造船を行うという方向で話が決まった。


発注者は、白兎海運。今までは聞いたこともない会社だったが、資金は豊富であるらしく、即金で契約を纏めていった。


このころの一隻の価格5万円程度からであったが、とにかくできるだけ多く作ってほしいなどと言ってくる。

よく調べてみると、宗教法人日月神教の関連会社らしい。

東北で急速に膨張している宗教で、信者からの寄付は相当な額があり、貨物船程度なら余裕で費用は捻出できることは間違いないが、なぜ、急にこの時期になって注文を入れ始めたのか、不可思議に感じるところではあった。


3社には、各20隻の発注が行なわれた。

できるだけ早く完成してほしい。契約後に値段の上昇には応じない。

などの条件が付けくわえられた。


そして、各社に100万円もの大金が支払われた。

後は、このままの状況で作るだけである。だが、後に知ることになるが、この大手以外にも、この会社は、発注をかけていた。


数年以内に、100隻近い大船団を作り挙げようとする目的は何なのか?

流石に、そこまで調査している人間はいなかったのだが、白兎海運の社員は、この時期に多数の貨物船を持つことは、『神の啓示』によりなされたことを知っている。


白兎海運の社員は、皆一瞬たりとも、疑うことはなかった。『神の使徒』の指示は絶対。

そもそも、この会社がつぶれたとしても彼らは、神の教えに従うだけなのだ。教団に戻り別の仕事をするだけなのだ。


教団に属する奉仕団員はこのころ、相当数に登っている。

全国各地から、可愛そうな孤児が引き取られて育てられている。

それは、もはや巨大な福祉事業団のような状態である。


行政なども、孤児を発見すれば、面倒なので、この教団に送りつけるようになっていた。

孤児を受け入れている団体は、教団の名前を出してはいない。

教団の博愛精神により子供が受け入れられているという建前になっていた。

そして、その教団とは『日月神教』であることは公然の秘密であった。


そして、この団体は、文句も言わず子どもを引き受け育てている。

食事を十分とらせ、十分な教育を施し、博愛精神の宗教を身に付けるように祈らせている。


こうして、日本最大の民間軍事企業『八咫烏部隊』は今日も拡大している。

それを知る者は少ない。ジャーナリストが命を賭けて、取材を敢行していたりもするが、事実は決して新聞などに載ることは無い。


そして、そのジャーナリストもその行動がばれれば、仙台湾に浮かぶことになったのである。

そもそも、八咫烏部隊の精鋭が本気を出せば、ジャーナリストなどが対抗できるわけがない。


そして、経済的な側面では、巨大タイヤ企業ラビットフット、巨大食品関連企業、巨大銃砲企業などが、新聞各社に対して猛烈な経済的圧力をかけて握り潰すに違いなかった。


・・・・・

1914年(太正3年)

ついに第一次世界大戦が開始される。

当初は、局所戦であったものが、次々と拡大していき、ヨーロッパ全土を巻き込んだ戦いへと発展していく。


そして、我が日本もすぐに参戦することになる。

アジア、太平洋方面におけるドイツ領土の奪取といういささか、戦場稼ぎのような姑息な行為を行うことになる。


中国青島、サイパン島などを次々と失陥させていく。


しかし、その中で異色の軍事作戦が展開されることになる。

ニューギニア島は、オランダ(島の西部全域)、イギリス(島の東部の南側半部)、ドイツ(島の東部の北側半部)という形で領有されていた。

西洋人に発見されたが、使い道もなく、三か国により分割されていた。


事の発端は、伊藤博文元老が始まりであった。

「件の島もドイツの領域になっている。あの島には、実は使い道があるので、何としても奪取せよ!」

時の内閣に檄を飛ばしたのである。

元老筆頭の言葉は重く、陸軍、海軍両大臣に諮問されたが、そもそも、島嶼の占領管理は海軍の仕事になる。

「このような、場合は、海軍の仕事になろうかと思われる」

まさに、海軍の仕事なのだろうが、ニューギニアのような何もない島を占領する意味がよくわからず、しかも海軍陸戦隊(場合によって海軍の中で特別招集される)では、戦力不足も良いところ、兵隊は、陸軍が出せよ!と海軍大臣は思っていた。


「だからこのような場合に、海兵団が必要なのです」

どこかで聞いたような話であったが、そのような都合の悪いことは思い出してはいけない。


海軍大臣は、この場を何とか切り抜けるべく頭を必死で働かせるであった。






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