第144話 戦線布告、ただしオーストラリア。
144 戦線布告、ただしオーストラリア。
環太平洋同盟条約(CPAT)これがあの男が、予備役編入、退役後に作られた同盟国家組織の名称である。そして、この条約機構軍が太平洋同盟軍(パシフィック・アライアンス)と呼ばれている。
その条約機構の大統領となったのが、あの男、咲夜玄兎大統領である。
ハワイ王国の摂政であり、ロシア皇国の伯爵、そしてニューギニア王国の実質的支配者。
その男の側近の司教が、今マイクの前で絶叫している。
「卑怯にも、米国合衆国政府は、我々の虚をついて爆撃するという非道な行いで戦争を開始したのである。国民よ、この暴挙を許してはならない。リメンバー大連!リメンバー大連!」
「今、我々太平洋同盟条約は、立たねばならんのである。悪逆非道なる米国を今こそ、叩き潰し、世界の平和を取り戻さなければならない。国民よ、立て!そして、月の女神も御照覧あれ、女神の使徒っであるこちらの咲夜玄兎法王こそが、世界平和を打ち立てる様を、世界の歴史に刻まんとする事を!」
豪華な席に座っている咲夜玄兎の背中からは神聖なオーラが虹のように輝き、会場の熱狂は、伝染病のように感染しボルテージを上げていく。
見た目だけは神聖な行事のようにも見える。
会場の人々はその視覚的効果に飲まれていく。
しかし、それはスキルによるオーラの放射であって、神からの力でも何でもない。
電球に電気を流せば光るのと同じくらいの意味しかないものである。
「見よ!神の化身!咲夜玄兎法王様!のお姿を!」司教が大声で叫ぶ。
あちこちで法王様万歳!と声が上がる。
会場は、法王様万歳の大きなうねりに飲み込まれていく。
これも、サクラが仕込まれていて熱狂的に絶叫するという仕掛けであった。
「法王様万歳、法王様万歳」
「米国を倒せ、米国を倒せ」
会場は最高のボルテージを迎える。
壇上では、咲夜玄兎が最高の笑顔で手を振っている。
この会場の映像は、同盟各国で放映されている。
アジアの宗教勢力図は大きく書き換えられていくことになる。
貧しい人々はまず初めにこの宗教に入る。
この宗教にはいれば食事を得ることができる。
そして働く意思をしめすことができれば職にもありつけるという非常にありがたい宗教であった。
豊かな人間もより利益を得るために、改宗する。
関連会社の仕事を得るためには、この宗教に入らねばならないからだ。
この宗教は利益を得ることができる仕事たくさんもっていた。
武器売却の利益率は非常に高いのだ。
まさに、死の商人だが、独立を守るために武器は必要だ。
ハワイ王国のようにならないためにも、武装しなければならない。
軍事顧問は、かつての八咫烏師団現在は、『月光の旅団』と名を変えて活動している。
八咫烏とは、太陽に関連する神鳥である。
太陽がすでに裏切ったために、部隊名も変更されたのである。
数億人が熱狂する、月読教団の法王が声を挙げる。
『敵は、豪州にあり!』
「豪州こそは、隠れて米英に協力し、我々に敵対する尖兵である。我らの同胞、アボリジニたちを救うのだ!皆で、王道楽土を建設しようではないか!」と司教がまたしても絶叫する。
米国による奇襲爆撃作戦であったはずなのだが、法王は、オーストラリアを名指しする暴挙にでた。
そしてそのオーストラリア戦線では、原住民、ニューギニア部隊、月光の旅団が、白人勢力と激しく戦闘を繰り広げていた。
「環太平洋の平和を守るためには、絶対に豪州を敵から奪い返す必要がある。これは女神の神命である!」
司教が叫べば、民衆は狂喜乱舞して、絶叫する。
こうして、米国爆撃による戦線布告はまったく奇妙な理論により、敵対国をオーストラリアにすり替えられてしまう。
あくまでも、資源大陸を攻略し絶対防衛圏を構築する構えであった。
日豪和平をしていた豪州首相もこの発言には驚いたに違いない。
全くの濡れ衣もいいところである。
米国とは関係を表面上絶っている。
実は、米国が優位を確立してから日本への攻撃を画策していたことは間違いない。
しかし、まだ攻撃は始まったばかりであり、表面上は講和を継続していたのである。
それをいきなり宣戦布告されるとは思ってもいなかった。
というか、難癖をつけられたに等しい。
「かの国に神罰を下すのだ、我等の女神は、それを所望なさっておられるのだ、法王もお望みである、信徒たちよ、我が子たちよ、神の化身、玄兎法王の力となれ!」
司教が檄を飛ばす。
「オオオオオオオオ~~~~」
群衆が応じる。
「これより我ら信者一同は、月の女神の千年王国建設という一大事業に突入していくのである。皆の命を法王に捧げるのだ!」
「オオオオオオオオ~~~~」
この男に自分の命を預けるなど死を意味するというのに多くの信者がもはや酔っている状況で声を挙げる。正常な判断能力をなくさせる誘導が行なわれていることに気づいた人間は少ない。
特に会場の民衆たちは、ほぼ皆無であった。
それほど、このSF商法の会場に似たやり方はうまくいっていた。視覚、聴覚、商品を只でもらえるなどのことを行い、人々を興奮させて、より高価なものを買わせるやり方である。
今回は、あらかじめ、酒なども振舞われていた。興奮するのも当然である。
熱狂渦巻く会場の映像は、アジア各国にも放映され、その会場でも同様な雰囲気が発生した。
酒などを飲ませたり、熱狂的な信者などが入りこんでいたからである。
オーストラリア近傍の国々は兵力を要求されるが、当然同盟の盟主に逆らう訳にはいかない。自国の存亡がかかっているのである。
それに、現在のインドネシア地方には、人口は充分存在し、そして貧困であった。
信者にも多くのこの地の出身者がいた。
彼等が、法王の素晴らしさを唱えれば、多くの同胞が騙されるのも簡単であった。
豪州戦線に重大な影響が出始めるのも時間の問題であった。
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