第166話 狙われた中将

166 狙われた中将


それにしても、奇妙な事態が発生していた。

それまでは、レーダーに映りもしないのに、突如として発生する艦隊。

スプルーアンスは考えていた。

攻撃に意識が集中していたことは確かだが、だからといって、レーダーを見落としているはずがない。なぜだ!


そんなときまたしても、悲報が届けられる。

パナマ運河を通過した増援部隊が、日本軍に襲われたという。

しかも、戦艦は撃沈、空母は鹵獲されたというのだ。

「何ということだ、なぜ自沈しない!ゴームレー!」

残念なことだが、最初の一撃で死亡していたので、そのような命令は下せなかったのである。


それにしても、我が軍が敵空母群に一矢報いたのに、敵は作戦を遂行していたとは!

先のダッチハーバー開戦で敵空母3隻を撃沈し、今また、正規空母3隻以上に攻撃して手傷を負わせたというのに、彼らは作戦を遂行したというのか!


報告では、攻撃対象であったのは、の米国製空母(鹵獲された米国海軍空母)であり、日本製空母はまだ数隻は残っていると思われるが、そのような様子はなかった。

修理したのか、なぜだ!


既に、カリフォルニア半島内海は夜であり、彼らは、出撃する前のように、艤装網に隠れていた。

敵は内海に追って来なかった。

周囲の陸軍基地から、大量の航空機が飛んできたからである。


夜の司令官室で悶々とウィスキーを呷りながら、グダグダと昨日来の戦闘が思い起こされた。

「そうか、例のマジック(突然レーダに突然現れる謎の艦隊マジックの事)で、やはり増援部隊が襲われたに違いない!」


その時艦内放送がなる。

「敵、爆撃機がこのカリフォルニア半島に向かっているとのこと、各員は注意されたし」

米国には、未だ夜間戦闘機はなく、夜間爆撃を有効に阻止できる手段がなかった。

しかし、夜間爆撃では精度は出ない。それに、こちらには関係がない。

恐らく、サンディエゴ当たりを爆撃に来たに違いない。その爆撃機隊はサンフランシスコ、ロサンゼルス、サンディエゴ、ブレマートンと基地のある場所をたびたび攻撃していた。


「それにしても、どのようなマジックを使えばレーダーから姿を消せるというのか」

またしても、考え込むスプルーアンス中将。


・・・・・・・・・・・


夜間爆撃では、夜間戦闘機の迎撃こそないが、流石に対空砲火や戦闘機が無理やり飛んで迎撃されることが有るため、できるだけレーダーや対空砲火に発見されないような航路を選定するようにはなっていた。


今迄に、4機のツポレフB1が破壊された。

まぐれ当たりの類ながら、爆撃部隊は慎重にならざるを得なかった。

しかし、カリフォルニア半島に基地はなく、対空砲火の備えもおろそかになっていた。


「赤外線スコープで敵艦船を確認、やはり内海で潜伏している模様」

先ず初めに、スプルーアンス機動部隊を発見したのは、このB1部隊であった。

夜間爆撃用に開発された、赤外線スコープに艦船の熱源が反応したのであった。


この湾内に隠れている艦隊が、PC作戦部隊を襲撃するであろうことは発見されたことにより、予測されてしまったのであった。


艦船というものは、特に蒸気機関で推進するためには、罐の水温が沸騰しなければならず、巨艦を直ぐに動かすためには、ある程度の暖気運転が必要だったのである。

そのため、艤装網に隠れてはいたが、煙突周辺は高温を発していた。(艤装網では熱源を隠すことはできない)


夜間爆撃に来たB1部隊がそれをたまたま発見していたのであった。

そして、彼らは、囮となった山口機動部隊(米国製空母空部隊)に襲いかかることになってしまったのだ。山口機動部隊は、囮になるため、全部を戦闘機に乗せ換えて準備万端襲われるのを待っていたということであった。


「イーグルリーダーから各機へ、V1爆弾投下準備」

「了解、準備よ~し」

「投下!」

「「「「投下!!!!」」」」


闇夜のB1爆撃機の弾倉から、1トン爆弾が投下される。

8機編隊から8発の爆弾が投下された瞬間だった。

絶対に当たるはずがない高高度爆撃のはずだった。少なくとも海面も半島も真っ暗で何が何だかわからない。

それでも爆弾を投下したのである。


V1爆弾とは、V2ロケット(ビクトリー2号と呼称している)の後に開発された赤外線誘導爆弾である。

「V2があるのに、V1がないのはやはり少しおかしいような気がするな」男が唐突に気にし始めた。男は、一度気になると、かなり執着するたちであったのだ。

そんなとき開発された新型爆弾と聞いて、「これをV1爆弾と名付けよう」と大変喜んだという。


因みにドイツ語でVergeltungswaffe ほうふく2(報復兵器第2号)であり、決してビクトリーではなかったが、誰も、この男にそれを教えることはなかった。そのような不敬な行いをすれば、親衛隊に抹殺される危険性があったからである。


ロケット開発者のフォン・ブラウンのフォン(on)とかけているのであるという言説もこの男は述べている。(決してそのようなことは無いだろうが、この男の頭の中ではそれでバランスが取れているのかもしれない)


斯くして、高高度から投下されたV1爆弾は、熱源を自分の撮像装置に映しながら、それに近づくように、後部にある羽根を巧みに動かして、熱源に迫っていく。


当然最も熱量の高いものを目指して降下していく。

そして熱量の高い目標とは空母である。


そのうちの2発が不幸にも、スプルーアンスの座上しているエセックス級空母に命中した。

爆弾の爆発よりも落下エネルギーが強力で甲板を突き破り、艦底を突き破って爆発する。

大爆発が煙突付近の甲板で2回起こり、艦体が持ち上げられて、落下する。

その勢いで竜骨が断絶し、たちどころ真っ二つに折れて轟沈していく。

爆弾の凄まじい威力をまざまざと見せつけたのである。

周囲でも、同様な被害が発生していた。


スプルーアンスはようやくマジックの存在に気づいたところで戦死したのである。


これが、サンフランシスコなどであれば熱源が他にも存在し、被弾を免れたかもしれないが、この内海のこの周辺には、熱源は艦艇しか存在しなかった。


まさしく、狙われていたということである。





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