第105話 赤と黒
105 赤と黒
中華側の奇襲は、なぜか日本軍が早くも察知し、見事に撃退された。
しかし、なぜこの奇襲が察知されたのかは彼等にはわからなかった。
それ以上に衝撃的だったのは、米国義勇軍兵の航空機が全く歯が立たず、相当数撃墜されたことであった。邀撃にあがった日本軍機の性能は、黄色い猿が創り出した、役に立たない戦闘機のはずであったが、結果は違うことを表していた。
それどころか、大連港奇襲に向かった義勇兵第2部隊は完膚なきまでに叩きのめされた。
あまりの内容に、情報部すらこの情報を上に、伝えることができなかった。
このころ、大連にはロシア太平洋艦隊が駐留しており、その戦闘機が上がってきたという情報があった。ロシア軍機は、日本軍機とは違う形式であったようだが、その性能は、日本軍機を数段上回っているのではないかと予想されたという。
「そんな馬鹿なことは決してない。」情報仕官は歯ぎしりした。
それらの情報の数々はXファイルとして、倉庫の奥へと消えていったのだ。
このような激しい戦闘が行われたにも関わらず、日中戦争は勃発しなかった。
関東軍の機甲師団では、数が足りなかった。
それに戦車は、航空支援を必要とする。
それだけの数の戦闘機を集めることができなかったのである。
そして、国家方針として絶対に、今は侵略を開始することはできないとされたためでもあった。(天皇の意思が暗示された。)
また、別のルートでも厳しい牽制が行なわれていた。
秘密結社『兎の穴』ルートである。
仮に侵攻を開始した場合は、全ての軍事支援を打ち切るだろう。
関東軍では、ロシアから提供されている戦車を熱狂的に信奉している。
戦車こそが陸軍の華、その華が提供されないなどあってはならないのだ。
戦闘機ももともとは、零戦である。
零戦製造に大きく食い込んでいる海軍(の中にいるロシア派)の嫌がらせを受けると、隼戦闘機が来なくなる可能性が高い。
この隼が無ければ、長城線を突破された可能性が高かった。
石原大将は、中国のこの暴挙に激しい怒りを覚えたが、我慢するしかなかった。
そもそも、戦争の瞬間が刻一刻と近づきつつあることを確信した。
やはり、あの男(内心では、逝かれ野郎と思っている)のいうことは、本当なのか。
男は言った、日本の戦う相手は米国であり、太平洋で雌雄を決するのだ、と。
その戦いの後に君が立っているならば、君の思う通りしてもらってよい。
何事にも優先順位が存在するということであろう。
中国には、今や米国やソビエトなどが支援を行っている。(少し前まではドイツも援助していた)
これは、日本を中国に縛り付けるための計略である。
ソビエトからすれば、新ロシアの手先の日本、満州、モンゴルが邪魔なのだ。
そこで、中国に暴れさせれば、新ロシア攻略がずっと楽になるのだ。
一方、米国の支援の目的は、やはり満州の
しかし、初手は最悪の結果であった。
フライングタイガースは150名程度のパイロットで構成されていたが、そのうち100機が未帰還となってしまった。
特に大連方面の作戦では、激しい邀撃を受けて一機も帰ることは無かった、恐ろしいほどの打撃を受けたのだ。
駐米日本大使が、中国への軍事支援を直ちに停止するよう抗議してきたが、そのような事実は一切ないのだ、彼らは義勇兵である。自分の意思で動く彼らは国家の指導など聞くはずがないではないか。米国の外務大臣はそういった。
しかし、そのような言い分もまたおかしなものである。
兵は確かに、中国に良かれと思って戦いに参戦しているのかもしれない。
だが、彼らが使っているカーチスはどうなのだろうか。
車なら買うことができるだろう、しかし、戦闘機を個人で購入できるのだろうか。
零戦は確か8万円程度なので、現在の価格で8000万円である。カーチスも同じような値段になるだろう。
無理をすれば買えないこともないのかもしれない。
そんな大金を叩いて中国を守ろうとする中国好きの米国人がいるとは到底思えないのだった。
大連港軍管区ロシア太平洋艦隊、航空基地では、ドンドンと列車で対空火器が輸送されてきていた。88mm対空砲、40mm機関砲である。
そして、各所で機体に撃墜シールを貼る姿を見ることができた。
5機撃墜がエースの条件となっている。
そしてエースの特権として、整備士を指名できる権利が有る。
新米とベテランでは雲泥の差が出る世界、整備士の腕の差は重要であった。
ロシア太平洋艦隊航空隊ではそのような決まり事があったのだ。
勿論、給料も上がる。エース手当である。位も上がるのだ。
空襲警報が嫌な音を立てる。
「敵機発見、スクランブル!」
「敵機は渤海上空を侵攻中!直ちにインターセプトせよ」
近ごろはめっきり空襲が増えた。
そして、それは中国人パイロットである。
彼等は訓練もそこそこに戦場に投入されている。
黒い紫電改が舞い上がる。
そのあとに、緑の通常塗装の紫電改が続く。
ウラジオストクで訓練を受けていたマンフレート・リヒトホーフェンの息子、レオンハルト・リヒトホーフェンの乗る機体は黒である。
マンフレートと日本人の嫁の間にできたハーフである。
そして、今や故国の危機に対して、立ち上がったのである。
その才能は折り紙付きである。
若い父親が手ずから教え込んだ技術と学校での厳しい授業と訓練、素晴らしい技術が身に付かないはずがなかった。
「お前が、赤でよいぞ」若いが、年齢のいった先輩のサムライが声をかけてきた。
それは一期生のサムライ・ヤマグチである。
機体色は、自由に選べるのだろうか?
ヤマグチは、戦闘機は戦場の華、赤備えこそ真っ当であると、赤に塗装した。
やはり武士の彼には、赤備えに憧れがあったのだろうか。
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