第181話 弱点

181 弱点


連日、米国海軍第5艦隊の空母から爆撃機が偵察に繰り出される。

すでに、決戦の海域に入っているのである。


そして、ついに偵察機が敵駆逐艦を発見する。

連邦海軍のレーダーピケット艦であった。

当然、レーダーピケット艦もその偵察機を発見して打電する。

「敵索敵機発見ス」


「敵機動部隊に対して全軍により攻撃を敢行する。作戦要綱第2により攻撃を実行せよ!」

米軍および英国海軍の空母艦載機が次々と発艦していく。

双方が敵を認知し作戦計画を次の段階へと進めていく。


米艦隊のこの作戦計画はすでにブリーフィングにおいて伝えられている。

決して引き退がることはできないということを。

旗艦モンタナのビル・ハルゼーの姿はもはや赤鬼ではないかというような表情と殺気が漂っていた。


「決して退くことは許されない、敵の首を討ち取る以外に我々の道はない!」

始めは引き気味の幕僚たちだったが、徐々にその熱気が伝わっていく。神の威光は伝染するのである。

「この戦いは、祖国合衆国と我らの神を守る戦いである。猿の悪魔を討ち取るのだ!」


しかし、現実は厳しい。工業力で圧倒していたはずの米国も太平洋の各地で製造される敵艦隊の数は一国の工業力で対応できるものではなかった。


この時点では、まだ互角以上の数があると多くの米海軍幕僚は思っていた。

しかし、ハルゼーのみは其れが間違いであることは分かっていた。

夢で観た敵艦隊は、の終戦間際の太平洋艦隊ただし米国艦隊の陣容のように、敵空母が何隻も並んで航行するという想定外の数の多さであった。


自軍の勢力を顧みても、とてもまとも戦って勝てるわけがないのは明らかだった。


それでも、神の栄光を守るためには、決して退くことはできない。

もはやそれだけは、決定事項である。

ハルゼーはこの時確実に、の代理となっていた。


「この作戦指示書に従って行動すれば必ず勝てる!」真っ赤に光る眼が幕僚たちを見渡す。

この場合の勝てるとは、悪魔を倒すことを意味しており、自分たちの命のことなど欠片も考えられていない。


「ハ!神の栄光の為に!」熱気が伝染したのか、数名の幕僚は敬礼した。

熱気が伝わらなかった幕僚たちは、周囲を見回すが、どうしていいかわからなかった。

確かに、これ以上の敗戦は避けねばならないが、兵士の命を軽視してよいわけではないのだ。


だが、この場ではそのような雰囲気を出すことはできなかった。

死兵となって敵(悪魔)を倒さねばならない。熱狂的な幕僚が、否定的な意見をいう幕僚を簡単に撃ち殺すほどに、異様な熱気を放っていた。


違和感塗れではあったが、流石に声を出せない異様な雰囲気だったのである。


・・・・・・・・


打撃部隊の後方に位置する連邦空母部隊。

「戦闘機を上げろ!敵がくるぞ!急げ!」

巨大空母に発艦命令が下る。

紫電改、新型戦闘機烈風が舞い上がる。

既に時代はジェットに移りつつあったが、流石に空母運用という面では、レシプロ機の方が便利であった。


玉兎級の一隻がジェット化していたがまだ実験艦という扱いであった。

そのジェット戦闘機部隊は、例の黒い死神の部隊であった。


「索敵機より通信、敵機動部隊の位置を確認。」

「攻撃隊を発進させよ!」


戦闘機の後は、攻撃機である。

既に、攻撃機は『流星改』へと機種転換は終えていた。

法王は、資源の集中を行うために、正式採用する機種を制限している。

『流星改』は急降下爆撃も魚雷攻撃も可能な攻撃機である。

どちらも可能という便利な機体である。


連邦艦隊の手前50Kmで戦闘が開始される。

しかし、戦闘機の数は、圧倒的に連邦側が有利であった。

連邦は、攻撃機を遥か後方に置いて、戦闘の行方を余裕をもって見ることが出来る。

そして、敵の攻撃部隊は、雲間にいるのかそれとも距離をとっているのか、見えない。


大空中戦が行われていた。

次々と火を噴いて落ちていく戦闘機。

烈風、紫電改は、F6Fを押していた。

何よりも練度が高い連邦軍パイロット。


さらに、ジェット戦闘機がその戦闘に介入する。

黒い機体が轟音を轟かせて空を切り裂く。


圧倒的な技量。圧倒的な性能。

バタバタと撃墜されるという表現がぴったりと当てはまるような光景である。

勝敗が決した。


連邦の攻撃機隊が、ついに米国機動部隊へと進撃を再開する。

無数の航空機が空に点々と染みを作っていた。

既に、勝敗の帰趨は決まったかに見えた。

それにしても、敵の攻撃機部隊は見つけることが出来なかった。

きっと、戦闘機隊を恐れて逃げ去ったか迂回路を探しているのであろう。


しかし、機動部隊の直上には、別に直掩部隊が守っているので機動部隊の安全は確保されたも同じである。


連邦海軍航空隊はもはや敵空母に魚雷を発射し、爆弾を投下するだけであった。

攻撃機の数が異常なほど多いので、遠くから一斉に投下すれば

必ず当たるに違いない。

そして、足が鈍った艦に急降下を仕掛ければ、たやすく戦闘不能に陥らすことが可能だろう。

勝利は確実である。

どのような対空装備をもっていたとしても、これだけの魚雷を避けきることはできないに違いなかった。


もはや敵の攻撃機部隊は影も無かった。

全軍は、安心して敵機動部隊の想定位置へと進むのだった。


・・・・・・・・・・


法王座上艦を含むテスラ級戦艦6隻は、迂回して敵機動部隊の側面をつくべく、最大戦速で移動していた。敵艦隊は、大和を含む連合艦隊主力と交戦しているに違いない。

その遊撃艦隊は、デストロイモードを発動させていた。

敵機動部隊に接近し、艦砲射撃を行うといういつもの行動であったのである。


だが、そのデストロイモードにも実は弱点が存在している。

テスラ技術の粋である、デストロイモードは、電波を吸収し反射させない特性をもっている。

しかし、それは自らが発生する電波にも干渉する。


勿論、奇襲を成功させるために、自らも電波を照射することもできない。

つまり、今この遊撃部隊は、レーダーを停止させているのである。

動かしていても、当然、敵を映すことはできないが・・・。


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