終章5話(最終回)

終章05


「絶対に貴様をここで消さねばならん」


神霊の人型がそう断言する。


「おいおい、そう興奮するな。人間は本当の事を言われると興奮するものだぞ」


「私は、神である」


「そういう意味では、私も現人神である。つまり神である」


口ではこの男を倒すことはできないに違いない。

減らず口の神なのかもしれない。


「滅せよ!」

光りの玉が、法王を襲う。


だが、法王は、巧みに槍をふりまわして、光の玉を消していく。

武芸百般をこの男は納めているかのようだ。


そして、槍は、神殺しの呪いをもっているため、神の光の玉も呪い殺しているのである。


「やっぱり、証拠は確実に抹消しておかないと駄目だよね」


「業火よ!」

法王が業火に包まれる。

やはり神の方が遥かに強いようだ。


「ギャ~~~~・・・」

法王は、絶叫を飲み込まれながら焼き尽くされる。

そして、バタリと倒れる。


「己、ニンゲンメ」

光る神は、焼け焦げた法王に近づいて頭を踏み砕こうとした。


随分と手間取ってしまった。

神界のルールで、人間界に長くとどまることをしてはならないのだ。


冷酷な足が、法王の黒焦げ死体を踏みつける。

だが、その足裏が槍に貫かれる。


「ギャアアアアアアア~!」

今度は、偽神が絶叫した。


毒が急速に身体に広がっていく。

またしても、足を切断して、後ろへと飛ぶ。


法王は、またしても立ち上がった。

例の薬がまだあったようだ。


そして、あろうことか、切り離された足をもっていた。

始めに切り落とされた光る足、今は、不気味な色になっていたが。


「神殺しの呪いがついた足か、私が食べたらやはり死ぬのだろうか?」


まさかの発言が飛び出した。


「貴様何を言っているのだ!」


「私は、神になる方法を探していた。私の魂は永遠に浄化されることは無い。今までも、神たちの都合の良いよう使われてきた。これからもおそらく、異常な魂として、駒として使われるだろう、私は、その軛から逃れるすべを探していた」


そこには、疲れた雰囲気が漂っていた。


記憶を消され、能力を封じられて、男は様々な世界を駆け抜けてきた。

そう、ずっと。


「今や、私は宗教を得た。そして、信者を得た。さらに土地を得た。後は何が必要か?」


「そんなものを食えば貴様すぐに死ぬぞ、神をも呪い殺す呪物の呪い。人間などが耐えられるはずがないであろうが」


「後は、神体を手に入れれば、私は神に成れるだろうか?」


呪い塗れの神霊の足にガブリと嚙みついた。

そして食いちぎる。

『神喰らい』


「グワーッ!」大量の黒い血を吐き出す法王。

神殺しの呪いは人間には強すぎたのであろう。


「ヤハリ、あの呪いは確かな力をもっているな」光る体が言う。


しかし、またしても、法王は立ち上がった。

「ああ、流石に神殺しの呪いよ、物凄い痛みだったな」法王は、不敵な笑みを浮かべている。


「マダ、残っていたノカ」

偽神もタイムリミットが近づいているの言葉が怪しい。


「あんたの体の一部を得たので、あんたが何をやってきたかよくわかったぞ」

法王はニヤリと笑った。心なしか後光がさしている。


「キサマ~~~~!」


雷光の槍が繰り出されていく。

既に、人外の動きがさらに加速されていく。


「ギャアアアアアアア~」

光りの人型が真っ黒に変化していく。


あらゆる場所を槍が刺したのである。

男の槍術は天下無双の免許皆伝であった。流派は宝蔵院流であったという。


「お蔭で、完全呪い耐性まで取得してしまったぞ」法王が皮肉な調子で言う。


光りの巨人は今や黒い巨人となっていたが、その中から、光の玉が脱出した。

そのように見えた。


その黒い巨人が法王は腕を伸ばして捕まえた。

そしてそれを、飲み込む。


「グワ~~~~~、不味い」法王は顔を歪めながら吐き捨てる。

完全呪い耐性が、呪いを無効化したようだ。


「さすがに、もう、時間切れじゃないのか?あんたの呪いの所為で薬もなくなったわ」


「ギギギ  ギギ」


光りの玉から歯ぎしりのような音が聞こえる。


「だいたい月の女神がくれてるんだから、12個とか28個とか普通考えん?」

(一年は12か月、月は約28日周期で満ち欠けを繰り返すことを言っている)


「──ダマレ!」


光りの玉が発射されるが、もはや何の効果も発揮しなかった。

神の体を喰らうことにより、偽神との力の差が急速に埋まってしまったのである。


「わざわざありがとう、力をくれにやってきてくれて、さすが慈悲深い神様だ」


法王は光の出力を上げ、業火を呼び出した。

光りの玉は、寸でのところで、その業火を躱す。


ここにおいて、偽神は、罠にはまったことを知った。


見事に罠に嵌めて抹殺してやろうと考えていた相手が、わざと嵌ったふりをしていたのである。(元信者を操り法王を抹殺しようとしていたが、それを逆に利用されて自らの神体の一部を奪取されてしまったのだ)


それもこれも、神の体を喰らうためのものである。

(さすがに呪われた神体を食って死にかかるとは思わなかったが、完全呪い耐性を得たことで、九死に一生を得た、薄氷の勝利であった。)


そして、決してわかるはずがない槍の仕組みを理解し、用意していた狡猾極まりない相手。


光りの玉は、直ちに撤退を決定し、時間を止める技を解除し異空間に逃亡する。


「グングニル!」だが、異世界に逃亡した光の玉に対して、法王はアイテムボックスから絶対必中の槍を取り出して投擲する。神器の武器も用意されていたのだ。


逃亡先の異空間で光の玉は刺し貫かれた。

光の玉は、神槍に討伐されたのである。



◇◇◇

時間が動き始める。

法王は何事も無かった用に、玉兎を起こす。


意識が戻る玉兎。「私は一体何を!」


「さあ、皆のもの落ち着くがよい、儂は神ゆえ不死身。ちょっとした出し物だったが、皆の者には喜んでもらえたかな?」


背中に大きな血の跡、床にも大量な血液がたまっていたが、それらは、出し物であったと抗弁する法王。


しかし、何の不自由もなく動く法王、先ほどのあまりにもリアルすぎる場面もそういわれれば、そうなのかもしれないとみなは思った。


「これからは、聖歴、そして敵の神は痛手を被った。これからは我が神国が世界を覆うことであろう」後光が周囲を照らす。偽神の力を手にいれた男のこの後光は、スキルによる後光ではない。本当の後光である。


偽神を退けたが、それはおそらく分霊である。

本体はきっとどこかで存在している筈である。

故に、偽神を滅ぼしたとまでは言えない。

だが、偽神の影響力は大きく減殺されることであろう。


偽神の影響力が少なくなった北米がどのような動きを起こすのかは要注意、しかし、これでほぼ勝ちを得た。


法王は笑顔の裏でこのように計算高く考えていた。


美しい後光に包まれた法王に人々は熱い声援を送っている。


「法王猊下、万歳、万歳、万歳」

数十万人が熱狂して万歳を唱和している。

バルコニーから見下ろされた人々の群衆が熱狂している。


こうして、男はついに神の力を手にいれた。


の内」男は一人ごちたのである。

その顔には、皮肉な笑顔が浮かんでいた。



聖歴4年の真夏の暑い日のことであった。






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月光の提督 九十九@月光の提督・連載中 @tsukumotakano

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