第151話 基地空襲
151 基地空襲
ダッチハーバー基地には、既に対空レーダーが備えられ、戦闘機、攻撃機などが十分に配備されていた。
しかし、艦隊は出払っていたのである。
日本軍の機動部隊の出撃は時間単位で報告されており、スプルーアンス中将は旗下の艦隊に出撃命令を発し、その姿を隠すように、アラスカ側の島々に消えていたのである。
勿論このままでは、ダッチハーバーは爆撃を受けるだろう。しかし、スプルーアンスの狙いはそこにあった。
爆撃と次の間の攻撃までの時間に敵機動部隊を一気に狙うという戦法を練っていたのである。そうすると、基地は被害甚大であるが、確実に敵機動部隊に大きな損害を与えることが可能であると、損害覚悟でニミッツを説き伏せたのである。
ダッチハーバー基地の損害など、敵機動部隊を血祭にあげられるなら安いものである。
そのような計算が成り立っていた。
米国の経済力からすれば、復興などたやすい。
それにハワイ奪還作戦には、敵の機動部隊を確実に破壊することが絶対条件になっているのである。
「刺し違えてでも、敵機動部隊を叩け!」ニミッツはそう命じたのである。
何故なら空母はこれからいくらでも完成してくる筈なのだから。
・・・・・
「水偵発進しました」空母に艦載された偵察機だけでは足りなかったのである。
艦橋で、栗田は沈んでいた。
始めは、機動部隊の長官に充てられたときは非常に喜んだのだ。
ついに私の時代が来たのだ!と。
しかし、今は違った。私はなぜ、同盟海軍にいかなかったのだ!
第7艦隊を主力とする同盟艦隊は、ハワイにいる。
そして、ふと思いついたのである。
確か私は、あの男の側近として仕えていたのではなかったかと。
兵学校の縁もあり、いつもあの男の無茶な命令に付き従ったのである。
そして、周囲からは、あの男の腰ぎんちゃくと呼ばれるほどだった。
宗教関係者も、猊下の側近ということで皆傅いたのである。
しかし、それほど長い間側近として働いたにも関わらず、同盟海軍への誘いは淡泊なものだった。
「栗田少将は、同盟海軍に参加されますか?」第7艦隊の参謀長がそう聞いたのである。
勿論、参加するつもりはあったのだ、そして日本は戦争を終結するという。
だが、あの男は徹底抗戦を唱えていた。
戦争の終わった軍隊ではゆっくりと生きていくことができるのではないか。
少し迷ったのだ。「保留させてくれ」
「は、そのようにお伝えします」
その時は、自分のほどの将官をほおっておくはずがないと思っていたから、またすぐにも誘いに来ると思っていた。
しかし、その誘いは2度となかった。
馬鹿な!なぜ来ないのだ!
抗議しようかとも思ったが、海軍の実力者は次々と退職していった。
すると、今度は自分が表舞台に立てることになったのである。
次々と昇進していった。年功序列の上が次々とやめていく。自分は待っているだけで昇進していくのだ。
今や、こうして、彼は栗田機動部隊の司令官となったのである。
悠々自適な生活が送れると喜んでいたのだったが、現実はそうではなくなったのである。
自分は、今、アリューシャン列島の周辺で荒波を切り裂いて進んでいる。
「レーダーを良く見ておけ!」彼は命じたが、整備不良で、しかも列島の島影により全く役に立ちそうもなかったのである。
周囲に敵艦隊の影はなかった。
「全機基地攻撃に出せ!」
「全機発進せよ!」
戦闘機が発進、陸用爆弾を積んだ艦爆、艦攻という順に発信していく。
手際が良いというには程遠い状況だったが、何とか半分が発進し、第2次攻撃隊が甲板作業を行っている。
ダッチハーバー基地のレーダーが日本軍機を発見する。
空襲警報が鳴りひびく。
陸軍戦闘機のP51マスタングが次々と発進していく。
基地内には、この攻撃の為に100機以上の陸軍戦闘機が配備されていた。
それでも、帝国海軍の戦闘機数が勝っていたが。
帝国海軍航空隊にとって幸いだったのは、そのマスタングにマーリンエンジンは供給されていなかった点である。現在の英国のエンジン事情は壊滅的であった。
ドイツ軍は日本の零戦をコピーした戦闘機を使用し、爆撃機を護衛しながら英国本土を爆撃していたのである。
それゆえ、P51は世界最高の戦闘機の状態ではなかったのである。
基地から50Km地点で両者は空戦を開始する、壮絶な殺し合いが演じられる。
空襲警報の一報は、島影に隠されていたスプルーアンス中将の機動部隊に知らされた。
そして、航空機の発進地点はすぐに割り出され、スプルーアンスは艦載機に発進命令を下す。
敵空母群はダッチハーバー基地のあるアマクナック島の南西400Km程度の地点と目された。
スプルーアンスの機動部隊は、別の島の湾口に緑の布を被せて、島に擬態していた。
帝国海軍の水偵はそれを見事に発見することはできなかったのである。
スプルーアンスの機動部隊は、太平洋上にでると輪形陣を構成しながら全機に発進命令を下す。彼我の距離はすでに600Km以内となっていたのである。
圧倒的な数で押す帝国海軍だったが、米国陸軍の戦闘機に阻まれて思うように、成果を出せずにいた。高射砲、対空砲火も激しい。次々と味方がクルクルと火を噴いて落ちていく。
それでも、飛行場、ハンガーなどに爆弾を命中させていく。
だが、空にいる戦闘機たちは、別の島の飛行場に帰るので問題なかった。
基地の半分が、日本軍の攻撃用に作られたダミーであり、司令部中枢は地下の安全な場所に確保されていた。
多くの目標を何とか破壊し、意気揚々と引き返していく艦載機部隊だったが、その後ろには、既にスプルーアンスの機動部隊の艦載機が迫っていた。
帝国の艦載機には、レーダーは搭載されていなかった。
「基地攻撃は、後方の打撃部隊に任せ、我々は敵の機動部隊を捜索するべきです」
航空参謀が進言する。
だが、着艦の始まった飛行甲板には、陸用爆弾がずらりと並んでおり、第2次攻撃の準備がなされていた。
何故もっと早く言わんのか。
栗田は思った。着艦前に言ってくれれば、対艦用爆弾を用意したものを。
「では、そうしろ」
「は!」
栗田は、確かにその方が良いと思った。
大和の主砲であれば、ダッチハーバー基地は灰燼に帰す。
其れよりも、我々は、空母を探した方が遥かに安全だ。
しかし、その命令が甲板の上に混乱をもたらす。
陸用爆弾を退けて、対艦用爆弾と魚雷を準備せねばならない。
それに、敵艦隊を再度捜索する索敵を実施せねばならない。
不運なことに、この日の天気はかなり雲が多かったのだった。
アリューシャン海域では常に、天気が悪い日が多いのである。
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