第162話 先制攻撃

162 先制攻撃


日本軍機動部隊が、南東方向へと向かっていくことは明らかである。

スプルーアンスは、後方からの黎明攻撃を企図して、世闇の中、カリフォルニア半島の内海からひそかに出撃する。

昼の間は、艤装ネットによりその姿を半島に擬態してこの瞬間を待っていたのである。

半島内海であれば、艦船捜索レーダーもその姿を捕らえることは不可能である。

陸地にレーダー波が反射するためである。


「最大船速!敵機動部隊を追え!」

太平洋へ出たスプルーアンス機動部隊は陣形を整えながら高速航行へと突入していく。

目標は、日本軍機動部隊。

彼等は、未だに、同盟艦隊が日本艦隊であると信じていた。


正確な場所は、分からないが方向は明らかであり、全機が夜間に発進準備を終えている。

夜明けを待たずに発進する構えであった。

エセックス級空母には、搭載機が約100機である。

計6隻であるから600機の大部隊が発進することになる。

そして、今回はインディペンデンス級6隻のうち3隻から135機の戦闘機も随伴する。

念のため3隻の135機が自軍機動部隊の直掩を行うことになっている。


その攻撃に合わせるために、本土の各基地から水偵などが発進しており、艦隊を発見するために夜間にもかかわらず飛び立っていた。


そして、その歓喜の瞬間が訪れる。

「敵艦隊を発見、敵は機動部隊です」

内陸の基地から敵艦隊発見の報が入る。だいたいの座標も送られてきている。

「全機を発進させよ!」

スプルーアンスは躊躇なく命令を発する。

この先制攻撃で空母の攻撃力を減殺すれば、完封勝利も可能であると考えていた。

兎に角空母戦闘では、先制攻撃が最も重要になるのである。


敵機動部隊も直掩入るだろうがこちらは、戦闘機だけでも300機もいる。必ず空母甲板に爆弾をねじ込み、どてっぱらに大穴を開けてくれるちがいない。


そうなれば、航空機の発着艦は無理になり、さらに此方は第2次攻撃すら可能となる。

スプルーアンスの気分が高ぶるのも無理はない。

正に、そのような事が起こるのが空母戦闘だからである。

甲板が破壊されても、魚雷で傾いても艦載機の発着艦は不可能になるのである。


今度こそ、奴らに目にもの見せてくれる!

いつもは冷静なこの男にしては珍しく燃えていた。

まるで、廃人と化して退役したハルゼーの魂が乗り移ったようだった。


当然敵艦隊(同盟艦隊)の空母の防空レーダーに敵艦載機の多数の来襲が映り始める。

「敵艦載機多数、接近中、距離150Km!」

「防空戦闘、全機発艦急げ!」

空母機動部隊を率いる山口多聞が命令を下していく。

既に、甲板上には、この瞬間がくることが予想された事実であるかのように、戦闘機部隊が並んでいる。紫電改が轟音を唸らせて次々と舞い上がっていく。

周囲には、防空輪形陣の為に、防空駆逐艦が集まっていた。


全機の発進を終えた山口機動部隊は、転進する。攻撃を躱すために西に向かい始める。


「敵機動部隊は、正規空母5、随伴艦多数。」戦闘機部隊の隊長がついに、敵機動部隊の一部を発見する。それは山口機動部隊である。


「勝った!」スプルーアンスは心の中で叫んだ。絶好の条件であった。

全機は発進しており、自艦隊の構成を推測すれば、敵の戦闘機は150~200である。


此方は350、必ず突破して敵空母に大打撃を与えることは明白であった。

そして、零戦であれば今や我が部隊のF6Fで十分撃破可能である。


約50Km先で空戦が始まろうとしていた。艦攻や艦爆は一旦避難し、敵戦闘機部隊の隙を狙う態勢をとる。


しかし、それにしても敵機の数が妙に多いように感じる。

「敵さん、艦爆も戦闘機として挙げてきているのか?」

「そのようだ、凄い数だ!」

同数かそれ以上はいるように見えたのである。


猛烈な空中戦が始まった。

「ジークじゃないぞ!」

「なんだこいつら!」

「うわ~~~」

猛烈な攻撃だった。

最初の攻撃は、無差別ロケット攻撃から始まった。


フォン・ブラウンのロケット技術の転用は今も続いている。

そして、ソビエトの刑務所から脱獄した、コロリョフも研究に加わり、ロケットの進化は止まることを知らない。(ソビエトでは、技術者は逮捕され収容所の中で研究を行っていたのである)


テスラが開発したテスラ信管は、相手の近くに達すれば爆発するというなんとも危険な代物だったが、戦闘機の翼下からそのテスラ信管搭載のロケット弾が無数に糸をひきながら戦闘機部隊に襲い掛かったのである。


空に、爆発の炎の帯ができていく。

編隊飛行が逆に仇となった。


数十の戦闘機が、爆発四散して落下していく。

その後は空中戦になったのだが、それはジーク(零戦の通称)ではなかった。

同盟艦隊の零戦は、軽空母にのみ搭載されている。甲板が短いため、零戦が向いていたからである。

同盟の正規空母は全てが、紫電改を登載している。


恐るべき空戦技の持主たちだった。

たちどころに、F6Fが火を噴いて錐もみしながら落ちていく。

それも仕方がない、彼らは、太平洋戦争(この世界では大東亜戦争ではなく、太平洋戦争と最初から呼称されている)当初からベテランばかりである。


第1次太平洋戦争終結後、帝国の機動部隊のエースたちは職を失った。

しかし、破格の待遇で迎えてくれる企業が存在した。

そうして、南雲機動部隊やそれ以外(基地航空隊)で活躍したエースたちは皆、籍を移したのである。

一航戦、二航戦、五航戦のベテランは特に優遇されたのである。


そんな彼らが、この第2次太平洋戦争に今登場したのである。

米国のパイロットたちの多くは新米である。多くのベテランの者が、戦死したからである。

そんな新米が適う相手ではなかった。

しかも、戦闘機の数は、500機にも上る。


何となれば、山口機動部隊の搭載機は全てが戦闘機だった。

そして、ベテランがよく見れば、その空母がかつて祖国で愛された空母であることは分かったはずなのである。山口機動部隊は、全てが米国からの鹵獲空母であった。

エンタープライズ、レキシントン、ホーネット、ヨークタウン、ワスプの5隻である。

甲板拡張工事や、防空装備の更新を行い、戦線に投入されていたのだ。

しかし、詳しい者がよく見れば、煙突や艦橋の形などにかつての面影を見出せることだろう。


彼等の任務は、艦隊防空である。

本来は軽空母を用いることになる任務だが、この艦隊では、贅沢にも正規空母5隻で行っていたのである。


1隻に付き100機の戦闘機を搭載し運用していた。

勿論任務よっては、通常の攻撃型空母の役割も担えるのだが。


「ファック!このままでは押し切られる、全機に攻撃命令、敵空母を攻撃せよ、できるだけ援護はする」


戦闘機隊長は、退避していた攻撃部隊に苦渋の決断を下す。



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