第161話 ハリケーン前夜
161 ハリケーン前夜
同盟艦隊(ほぼ旧連合艦隊第7艦隊)は、今や一大機動部隊である。
玉兎級空母4隻、テスラ級戦艦4隻、伊勢、日向、扶桑、山城がロケット搭載艦からヘリ空母機能に転換された航空戦艦に大改装されていた。
加賀、土佐、米国鹵獲空母5隻(エンタープライズ、レキシントン、ホーネット、ヨークタウン、ワスプ)これらの空母は新たな対空兵装や、甲板の拡張工事などが施され強力な空母に生まれ変わっていた。
どの空母も装甲空母でこそなかったが、ダメージコントールが各段に進んでいた。
(戦艦4航空戦艦4空母11隻の機動部隊となる。その他巡洋艦、駆逐艦など多数。)
昭和のミッドウェー海戦のような事態は起こりえないように、運営されているのである。
乗組員の半分は日本人だが、残り半分は、ロシア人、満州人などである。
彼らは、日本語教育を受けているため、コミュニケーションに問題はない。
流石にこれだけの艦隊が真珠湾にいる訳にいかず、マニラやポートモレスビー、ポートダーウィンなどに分駐している。そのようにして、周辺各国を安定させる働きも担っているのである。(威圧しているという説も一部に存在する。)
真珠湾基地には、もともと多くの艦船が駐在していたが、各地から集まり始める。
それは、パナマ運河に進出してくる機動部隊を攻撃するための作戦が開始されたためである。
このパナマ運河の艦船への攻撃作戦は、『PC作戦』となづけられる。
あまりにも、パナマ運河から来すぎているように思うが、誰も気にしてはいない。
法王が決定したことに反対するなどあってはならないからである。
この『PC作戦』の動きはすぐに、米国海軍情報部(レイトン少佐ら)はつかみ、移動中の艦隊やサンディエゴ基地などが厳しい警戒態勢に入る。さすがに、前回のサンフランシスコ爆撃のような事態は避けねばならない。
もはや、ローズベルト大統領に後退する余地はなかった。
これ以上の失敗は許されるものではない。
米国側は、太平洋に艦隊を終結させ全力でハワイ基地を強襲する『ハリケーン作戦』を発動する予定である。そのための艦隊でもある。
ニミッツは、ハワイから出てくる敵艦隊をスプルーアンスに美味いタイミングで迎撃するための計画を練るように命じた。
その間にも、ハワイ島からの爆撃機はやってきていた。
米国陸軍航空隊も、海軍のレーダー艦が沖合にでて、爆撃機を早期に発見することが出来るようになると、時間をかけて高空に登ることが可能になり、一定の攻撃を行えるようになっていた。
米国の戦闘機には、すでにターボが搭載されているため、時間さえあればかなりの高度まで登ることは可能である。
但し、夜間戦闘機ではないため、夜にはやはり難しさが残る。
敵の爆撃機は夜でも、正確な爆撃を行っている。
サンフランシスコ、サンディエゴ、ロサンゼルス、ブレマートンと次々と爆撃を許していた。
流石に、最初に使われたツアーリボンバーこそなかったが、多数の1トン爆弾が投下される。
西海岸の米国人達は、初めて恐怖を感じたのである。建国以来初の真の恐怖である。
今迄、数々の戦争を起こしてきたが、米国本土がこのように爆撃されるなどと言うことは無かったのだから当然である。
そして、その恐怖はこの戦争を「折角、講和したにも関わらず、再度戦争を始めた」政府への批判となって帰ることになる。さらに、謎の取引で複数のユダヤ人たちが、絶滅収容所から救い出されている(事実は、労働契約奴隷として買い取られている)ために、ユダヤ資本も米国政府への批判を強め始めていた。
米国海軍は何としても成果を上げねばならない状態に追い込まれていたということである。
それは、陸軍も同じである。本土防衛は彼等が担っており、何とかして、長距離爆撃を無力化しなければならない。
夜間戦闘機の開発は急速に進められていた。
サンディエゴ基地から南西2000Kmのところに敵艦隊発見の報が伝えられる。
海上の漁船が発見したものであり、その後撃沈されたようであった。
やはり、PC作戦とは、パナマ運河強襲作戦であったようである。
米国の太平洋派遣艦隊がもうすぐガトゥーン湖に到着する。
やはり、湖上にある艦隊を攻撃する企図があるようであった。
サンフランシスコを発進し、ひそかに、カリフォルニア半島の内海で姿をくらましていた、スプルーアンス機動部隊が、その報を受けて出動する準備を行う。
彼等は、ダッチハーバー基地攻撃の際に、島において隠ぺい布を使い自らの艦隊を島に偽装していたが、今回もカリフォルニア半島に擬態していたのである。
彼等は、敵艦隊をやり過ごし後方から一気に航空攻撃をかけようと隠れて待っていたのである。(島影ではレーダーで発見することが不可能であるため、姿を見せなければ発見できないのである。)
サンディエゴ基地防空隊は、発進準備こそ整えているが、2000Kmも離れていては攻撃する手段はなかった。
潜水艦による攻撃は可能だったが、近海にいる潜水艦に命令の電波を発するだけである。
米国潜水艦は夜浮上し、その命令を受け取り、それを反映させるため、時間を要する。
そのまま一日かけて敵艦隊(同盟艦隊)は西に向かう。
そうすると、サンディエゴの南1000Kmほどの地点に来る。
その地点は、カリフォルニア半島の先に近い位置へとやってきていた。
その連絡は、スプルーアンスの機動部隊にも届いていた。
スプルーアンス司令は、敵艦隊が内海からすぐそこにやってきていることを知った。
「奴らは、明日の黎明攻撃が十分可能な地点を通ることになる。」
それにしても、サンディエゴに圧迫を加えるために近づいているのだろうが、あまりにも迂闊というしかない航路である。
パナマ攻撃であれば、もっと南を通る方が発見されずに進めるはずなのだ。
「よし、明日黎明に、全機出撃し、敵機動部隊に攻撃を加える。全軍に通達せよ」
スプルーアンスの指令を受け、スプリングス中将の命令が全艦に通達される。
夜明け前、半島の基地から水偵やB17、B25などの偵察がだされ、その結果が判明した地点へ攻撃に向かう。
スプルーアンス機動部隊は先に失った空母エセックス級1隻インディペンデンス級2隻をすでに補充しており、また、追加でエセックス級2隻が追加されていた。
エセックス級6隻インディペンデンス級6隻計12隻の空母を擁する大部隊である。
戦艦部隊アイオワ級4隻は、一応サンディエゴの防衛に残されていた。
万一の場合のための用心であった。
パナマ運河のエセックス級空母2隻とアイオワ級2隻を加えると、戦艦6隻エセックス級8隻、インディペンデンス級軽空母6隻という陣容が整い、一気にハリケーン作戦によってハワイ島基地を壊滅、あわよくば、真珠湾基地にも一矢報いる計画であった。
米国の工業力をフルパワーでぶん回して、敵を叩くという、米国人の在り方を体現したような作戦であった。
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