第160話 黒い未亡人

160 黒い未亡人


ローズベルト政権にとって、それは非常に危険な兆候であった。

サンフランシスコに落とされた巨大爆弾は、原子爆弾ほどの威力は無かったが、それに匹敵するといっても過言でないほどの威力があった。そして、それ以上に人々の心に深く恐怖を刻み込んだ。


一方で、東海岸に多くいる資本家(ユダヤ資本)達の多くが、同胞を救っている(本来は違うのだが)狂信者の国家、月読皇国に、同情的な意見が強まっていく。


米国政府は戦争(第1次太平洋戦争を含む)こそ始めたものの、その結果は、成果が著しく少ない。

しかも、欧州で同胞のユダヤ人が多数殺されていることについても、何ら手を打ててもいない。

そして、今回の本土爆撃である。まさに、失態である。

ついでに言うならば、英国本土への独軍の上陸すら許している。


ハワイ島から飛来した爆撃機は爆弾を投下し、ハワイ島に帰還していった。

米軍には、このような超距離爆撃を可能にする航空機は存在しない。

(計画はあったが未だ実験段階であった。大西洋を渡海し、ドイツ本国を爆撃するために開発しようとしていた。XB36である。)


彼等は、その偉業を事も無げにやってのけた。

一体全体どうなっているのか!

優越人種たる彼等が焦るのも無理はない。


ロシア銀行に寄せられた寄付金で、数万人のユダヤ人が買い取られていた。

そう、黄色い猿は約束を守っているのだ。

ユダヤ人の中には、猿とでもコミュニケーションをとれるのではないかと考える人々が増えたとしてもおかしくはない。


このままでは、自分の地位が危ういと考えたローズベルトが、ハミルトン・スターク作戦部長にハワイ島基地攻撃計画を立案するように命じたのである。

ハミルトンは、キングの前の作戦部長で、ローズベルトの命令で更迭されたが、キングが更迭されたことで復職したのである。


流石に、ハワイ島攻撃には、海軍機動部隊が必須である。

しかし、現在の情勢は、先の日本本土爆撃により、エセックス級空母2隻を失っていたため、現在建造中の空母が太平洋にでてくるまでは、攻勢は不可能であると回答した。

ローズベルトは、空母を出来るだけすぐに、太平洋にむかわせるように、命令したのである。


エセックス級空母2隻、アイオワ級戦艦2隻が、至急訓練を終え、太平洋に向かうことになった。だが、明らかに、戦死者の増大が乗組員の不足を加速させていた。

第1次太平洋戦争以降、米兵の戦死者は相当数に登っており、艦船の数は揃えても、乗組員が不足していることが顕著になってきていた。


さらに言えば、空母艦載機のパイロット不足はさらに深刻になりつつある。


この艦船がそろえば、エセックス級8隻とインディペンデンス級6隻、アイオワ級6隻の大艦隊が形成されることになり、大日本帝国機動部隊(先ごろ空母3隻撃沈)と決戦しても勝てる可能性があると判断されたのである。


大艦巨砲主義が未だに存在し、アイオワ級は6隻建造されており、続くモンタナ級も建造に着手されていた。そのため空母建造計画に遅れが生じていたが、何とかこの数まで、工業力にものを言わせて作り上げてきたのである。


米国側は未だ、大日本帝国軍と同盟海軍との識別は上手くいっておらず、また、魚雷の不発問題も解決されていなかった。ベテラン潜水艦艦長たちが全て、黄泉の国の人となったためである。


米国西海岸の諸都市に対する爆撃は連日行われた、高高度のからの夜間爆撃では、うまく反撃できずにまんまと爆撃を許していた。

爆弾には、眼がついていないため、基地や工場以外にも民家に直撃するものも多く存在する。これこそが戦略爆撃の恐ろしいところである。

むやみやたらに投下される爆弾が街を焼いていく。


だが、ついに、P-61 が実験的に配備され、ようやくインターセプトに成功、ツポレフB1爆撃機2機を撃墜した。


早速、機体を回収しようとしたが、完全に爆破されていた。

落下する前に、自爆スイッチが押されたのである。

ここら辺が、やはりルナシスト達のルナシストたる理由である。

それでも残骸の分析は行われた。


エンジンが明らかに違うことが判明したのである。


「これで当分は時間が稼げるに違いない」米防空司令部ではそう考えていた。

彼等の常識では、援護なく攻撃すれば、大被害を巻き起こすことは間違いなく、それゆえに、爆撃の回数は減るだろうというものであった。


米国もやられたままにはなっていない。

中国から飛来するB29が、西日本の諸都市を爆撃している。

(日本の本土で迎撃できる戦闘機は存在しなかった。)

しかし、残念なことに、その航空基地がついに、同盟諸国軍によって占領される。

そうして、中国という国家は、分割統治されることになるのである。



日米講和期間中にも、某神教の浸透作戦は続いていた。

ロシア系米国人、ドイツ系米国人、黒人、米国原住民など、反米意識の高い人間が、金やその他諸々の力により、スパイとなっていた。

当然東海岸にも、スパイが数多く潜伏しており、米国大西洋艦隊の動きは、もはや筒抜けの状態であった。


戦艦2隻、空母2隻も動けば当然察知されてしまう。

ハワイに存在する同盟海軍司令部が、直ちに、米国太平洋艦隊に対する作戦行動を策定していくことになる。


流石の同盟艦隊といえども、米国の大艦隊が結成されれば、簡単に勝てる相手ではなくなる。

そして、ハワイはその艦隊に脅かされることになる。


もはや、神教の国家、月読皇国がオーストラリアに建国されていた今、本土とは、豪州大陸ではあるが、太平洋におけるハワイのプレゼンスの大きさが変わることは無い。

真珠湾基地は、太平洋の中心であり、もっとも重要な地点であることに変わりがない。


やはり、本土への直接爆撃が、ハワイ島への攻撃作戦を加速させたことは疑いない事実であった。




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