第131話 豪州戦線
131 豪州戦線
「この状況を一体どのようにしたら打破できると思う」
豪州の首相官邸で、交わされる会話には、悲壮感が漂っていた。
不幸な現実は、米国にだけ訪れていたのではない。
不幸な現実は遍く世界に広まっていたのである。
事の起こりは、真珠湾攻撃からとなる。
豪州にも、米国からの参戦情報は届いていた。
豪州は、米国の参戦と共に、ニューギニア島奪還作戦を展開する準備を進めていた。
しかし、初戦はフィリピンでの戦闘開始という固定概念は大きく軌道修正されることになる。
真珠湾で、米艦隊が壊滅するという悲報が飛び込んでくる。
それだけならば、まだよかった。
その次の悲報は、米国空母の喪失である。
何ということだ!
米海軍は本当に馬鹿なのか!
誰もが、口にこそ出さないが、あまりの失態に、怒気を強めた。
そもそも、手を出させるだけの作戦だったはずのものが、大きな損害を受け、今後の作戦活動に大きな支障を出すほどの被害を直後に受けたのである。
豪州の考えでは、フィリピン周辺で米艦隊と日本軍が戦い、黄色い猿が負ける予定であった。
そのすきをついて、ニューギニア島北部を攻略する段取りであった。
しかし現実は、太平洋上の米国艦隊は、壊滅状況に陥っていた。
彼等には、3空母が鹵獲された情報は届けられることはなかったが、それでも、一体何をやっているのだ!と豪州人は怒っていた。
だが、悲報はそれだけにはとどまらない。
英国東洋艦隊の新鋭戦艦撃沈!何と黄色い猿の一式陸攻による魚雷攻撃というなんとも言えない攻撃方法は、英国の最新鋭戦艦を撃沈してのけたのである。
その後も、南雲機動部隊が、インド洋で大暴れしており、手が付けられなかった。
本国艦隊も一体何をしているのだ。これでは、アジアにおける英国の権益は風前の灯ではないか!
さらに追い打ちをかけるような情報が届く。
米国からの輸送船が次々と日本の潜水艦により撃沈されていく。
黄色い猿のどこにこのような能力があったというのだろう。
相手は人間でもない猿なのだぞ!
白豪主義という言葉が後に生まれたが、彼らは、自らが犯罪者の末裔であると言われてきたせいで極端にプライドが高い、黄色人種が猿でないと、自分たちの立場を守ることができないと考えているのだろう。
日本の潜水艦部隊は、輸送船ばかりを次々といとも簡単に撃沈していく。
怖しい勢いで撃沈数(トン数)が増えていく。
工業製品の輸送が途絶えるほどに。
ニューギニア島から出撃する敵潜水艦部隊は確実に、米国本土から豪州への輸送を絶っていた。
今やハワイからは何一つ送られてくることはなかった。
そして、開戦を境に、帝国の4発水上爆撃機が恐ろしく強力な爆弾を投下し始める。
米国製戦闘機で迎撃に向かうが、この水爆をまったく撃墜できないという事態に陥っていく。
兎に角、頑丈だった。
しかも、装備する機銃でこちらの戦闘機が撃墜されていく。
さらに、その数は日を追う毎に増えていたのだ。
水上爆撃機『玄武』のコンバットボックスを崩すほどの戦闘機は豪州にはなかったのだった。
豪州北部の米軍基地、豪州軍基地は壊滅させられていく。
「これでは、我が国は原始時代に戻る他無くなってしまうぞ」
首相の発言はこの国の現実を物語っていた。
しかし、それは大丈夫なのだ。
この国の原始時代には、白人など存在しないからだ。
ニューギニア師団と
彼等は狙撃銃を携えていた。
そして、この島の原住民たちと協力体制を築いていく。
アボリジニという原住民たちは結構な数存在していたが、白人たちは、それを獣程度にしか考えていなかった。
白人は、ライフルで彼らを狩っていた。
それは狩猟でトロフィーを狩るような行為である。
彼らは、アボリジニを黒い猿程度にしか考えていない。
複数の同族が射殺されてきた彼等には、恨みが積もっていた。
一体何人の同胞が射殺されてであろうか。
だが、残念なことに、弓矢程度で白人に対抗するのは無理なのだ。
「これは、黄色い同志がくれた武器だ、お前達も戦うのだ。自分の国は自分の力で守るしかないのだ」何人かの通訳が挟まれていて、言葉を近い表現に近づけていく。
こうして、アボリジニに武器が手渡されていく。
そもそも、玄武の飛行距離は常識外れなので、場所さえ指定すればそこに、武器を投下していくことなどたやすいことなのだった。
黒い人々の中には、真っ黒に日焼けした日月神教の精鋭も紛れ込んでいる。
彼等は、特殊部隊である。
原住民たちに戦闘方法を教え込んでいくことという技術も勿論、有していた。
豪州は今危機的な状況だが、事態はさらに最悪の展開に向かいつつある。
彼等はそれを把握していなかっただけである。
そして、米国へ物資輸送の矢の催促をしているのだが、米国太平洋艦隊も、返事だけで決して物資を送れるような状態でもなかった。
「各部族の長を集めるんだ、今ここから反撃を開始する」
ニューギニアからきた黒い人間が自分達の種族の言葉でいう。
「自分達の聖なる土地を守る戦いを始めよう」若いアボリジニが血をたぎらせる。
「オオオオ~~~~、オオオオ~~~~」
奇妙なリズムの歌声と太鼓の音が豪州の大地響きわたっていく。酒精の高い酒がさらに気分を盛り上げていく。
最新式の狙撃ライフルをもった若者たちが、飛びながら、踊っている。
このようにして、豪州では密かにあらなたな戦線が生まれようとしていた。
まさか、黒い猿がこのような力を手にするなど、豪州政府はまったく考えていなかったのだ。
満月の元、黒い戦士たちは、踊り狂っていた。
白人たちに復讐するために。
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