第132話 大本営発表?
132 大本営発表?
『米国政府発表、昨日発生した、ミッドウェー島基地攻撃作戦において、我が米国太平洋艦隊は、敵航空機および艦船に重大な損害を発生させた。少なくとも敵、水上爆撃機50機以上を破壊した。なお、我が艦隊の被害は軽微。作戦は大成功裏に終わった。』
米国の新聞ではこのような記事が紙面に踊った。
『米国民は全員一丸となって、黄色いファシストを倒せ!』
この国民一丸の中には、黒人やインディアンと呼ばれる先住民は含まれていない。
ついでにいうと、日本はファシストではなかった。
一部の人間の思考形態はそれに近かったが。
米国でも情報操作が必要になったというべきなのか。
昭和時代に良く流されたという、『大本営発表』である。
空母三隻を鹵獲されて被害が軽微な国、米国はやはり凄いというべきなのだろうか。
実は、もっと恐るべき報告があった。
キングは震撼した。
B25爆撃機は、ミッドウェー島の飛行場や、水上爆撃機の係留基地を破壊して、500Km以上も離れたところで、投棄される計画であった。
その際は、爆撃機はオートパイロットで飛行している間に、搭乗員はパラシュートで脱出を図る予定であったのだ。
勿論、人命を重視する米国軍であるから、海面に降下した搭乗員を回収するための潜水艦が5隻以上その海域に潜んでいた。
だが、その5隻の潜水艦が悉く、発見撃沈されたと言うものであった。
パイロットが降下しなかったために潜水艦は浮上することなく、待機していた。
しかし、それでも発見され撃沈されたというのである。
キングはすでに上に報告することを辞めた。
自分は、もう退官するしかない状況である。
これ以上小言を食いたくはない。
黄色い猿の恐るべき能力は、決して侮れないものであることを実感した。
一体どうやって、発見したというのか。
そもそも、米国潜水艦の損耗は激しすぎるのだ。
開戦前に、太平洋方面に展開していた潜水艦は60隻以上あった。
だがしかしである。
現在はほぼゼロである。
オアフ島基地には、数隻存在するが、燃料、整備不足で発進できないものだけが生き残っている状態と化していた。
明らかに、異常なデータのみが存在していた。
日本軍の対潜警戒はそれほどではない。
しかし、一部の部隊は異常に高性能の探知機をもち、装備をもち、確実に潜水艦を発見、撃沈していたという事実は、帝国海軍の高級官僚でも知りえていないのである。
故に、味方すら知らない技術が存在していたということである。
その隠蔽された技術のお蔭で、太平洋上では潜水艦に対する恐怖なしに、物資の輸送が行なわれていたのである。
報告では、ハワイ諸島、オーストラリアで非常に厳しい状況であることは手に取るようにわかった。特に、オーストラリアは物資の輸送ができなければ、日本との単独講和もありうるといってきていた。
「生き残るためには手段を択ばずとは、さすがに犯罪者の子孫だけはある。プライドというものがまるでないな」キングは、報告書をゴミ箱に投げ捨てた。
ニミッツ大将は、ホワイトハウスに対して、すぐにでも大西洋の空母を太平洋に廻すように依頼を何度も出していた。
ミッドウェー作戦の失敗でキング作戦部長の更迭は決定的になってしまった。
性格は非常に難がある人間だが、頭は非常に良い上官である。
彼がいなくなっても、より素晴らしい人間がくるかどうかなどわからない。
そして、そのような状況でないことも確実であった。
戦艦、空母を一隻でも多く西海岸に集め、ハワイへの物資を輸送せねば、オアフ島が危ない。
統治レベルが各段に低下し、街中には不穏な空気が充満していた。
陸軍の統制がうまくいっていない。
それどころか、近ごろ、陸軍兵の暗殺事件が多発していた。
オアフの山岳部に確実に敵のスパイが潜伏している。
夜になると、発生するバンパイア事件が派手になっていた。
明りもないところで発生する狙撃事件のことを皆がこう呼ぶようになった。
「敵はきっとバンパイアだ、夜でも眼がみえるのだ」と。
昭和の時代には、夜目を鍛えるため、駆逐艦の見張り員は、昼は暗い部屋で過ごし、夜に勤務に就いたという。
そのずば抜けた技術がこの照和でも受け継がれているのだ。
というのは嘘である。
彼等は、赤外線スコープを採用しているに過ぎない。
某ロシア人博士が開発した赤外線撮像管を改良して狙撃スコープへと発展させた兵器を使用しているだけなのだった。
其れさえあれば、夜でも何ら問題なく狙撃可能だった。
初期型のスコープは非常に大きく、重かった。
しかし、某天才が開発したトランジスタは装備を革命的に縮小させ、さらには、バッテリーも高性能なものを発明していたのである。
充電さえできればどこでも狙撃可能になった。
そして、小型発電機も、某ドイツ人により開発されていた。
基本技術さえあれば、後はどのようなものを実現するかだけの問題である。
それらは、例の男はあらゆる必要なものについて含蓄を有していた。
殺伐とした雰囲気が街を包む。
そもそも、米国兵が原住民たちを支配していたのである。
その権力が揺らいでいた。
そして、陸軍兵たちは、この暗殺を行っているのは、日系人に違いないと考えるようになっていった。
日増しに日系人への暴力事件が増えていく。
しかし、それは自らの首を絞めるようなものである。
「あなたたちは、迫害されていくでしょう、今ですらこの状態なのです。いいですか、下手をすれば人死にがでますよ」宣教師はそう言い切った。
原因を作っているのは、彼等だったが。
遠距離狙撃が不可能になれば、彼らは街中に潜み、音の出ない武器により、兵士を暗殺していく。
彼等は、十字教こそが日月神教の敵であると教えこまれた子供たちの慣れの果ての姿である。
一神教によくある、『我が神に非ざれば、それは悪魔の化身なり』という決めつけ。
悪魔の教徒を殺しても罪にはならない。むしろ、歓迎すべきことである。
『聖戦』に参加して死ねば天国に行くことができる。
神はあなたをお迎えになるでしょう。
日月神教はそもそも、一神教ではない。
少なくとも、出発点では、そうだった。(八百万の一柱と考えられていた)
しかし、信者が増えれば増えるほど、教義がねじ曲がっていくのだった。
少なくとも、件の男(
男にとっては、適当な名前をつけて、神の代理として振舞っていたいに過ぎないからである。
都合が悪くなれば、激怒して教義を正すかもしれないが。
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