第174話 『真ツアーリボンバ』

174 『真ツアーリボンバ』


ツポレフB1は超長距離爆撃機である。

2000Km程度は余裕でばく撃して帰る能力を有している。

だが、ジェット戦闘機にはそこまでの航続距離はない、増槽タンクを積んでも無理がある。


しかし、ツポレフの一機は終戦期間中(第一次太平洋戦争終了後)に改良されていたのである。

空中給油機(KC135と命名された,またしても謎基準だったが、法王の発言は絶対)、ツポレフの一機がこれに成っていた。そして、不可能に近い空中給油時の操縦も一部のエースパイロットたちが可能にしたのである。

無謀といえば無謀であるが、真のエースパイロットともなれば不可能を可能にする。

正に針の穴を通す飛行を可能とする者たちこそが、真のエースなのである。

至難の技、空中給油を受けることが可能となった瞬間であった。


こうして、長距離を護衛しながら飛んできたということだったのだ。

邀撃戦闘機を全て片付けた戦闘機隊は悠々と高高度を飛ぶ。


「真ツアーリボンバ投下用意!」

レシーバから声が聞こえてくる。

地上には、集結した米軍部隊、どのような結果を産むのか。

嘗て、大型爆弾をしてツアーリボンバー(正式名称はグランドクロス爆弾だったが、ロシア兵からこの名前が使われ始められたらしい)と呼称していたが、この『真ツアーリボンバ』は本物であった。(ウラン濃縮による核爆弾)


「退避せよ、ツアーリボンバを投下する」

高度1万メートルからそれは投下される。

しかも、4機から4発もである。

シベリアで開発されたそれは、完爆実験は行われていない。

土地を汚染するからである。そして、完爆せずとも、汚染物質が飛び散るだけでも十分に凶悪である。所謂ダーティボムと化すのだ。


爆弾に付加された高度計が、高度500mを測定すると、爆縮が起こる。

投下された4発のうち3発は不発に終わり、汚染物質をまき散らした。

しかし、そのうちの一発が目もくらむ閃光を発した。


旧約聖書にある退廃した街を焼き尽くした炎。

今其れが顕現したのである。

勿論、退廃していたかどうかなど関係なかった。

高熱と爆風が、何と不発だった核物質を点火させる。

またしても、眼もくらむ閃光が発生した。

連鎖的に核物質が反応した瞬間だった。

数千度の熱風が、集結した部隊を薙ぎ払う。


瞬時に、集結した軍は壊滅状態に陥った。

核爆発は其れだけの威力をもっていた。


巨大なキノコ雲が立ち昇る。

稲光がその周囲で発生している。


ツポレフの航行士が写真を撮る。

「ソドムは焼かれた、ソドムは浄化された、任務は成功した」

通信が発せられる。


メギド作戦参加部隊の半分が死傷した。

そして、命からがら生き残った兵士たちに、黒い灰が降りかかる。

怖しい灰について、彼らは知らなかった。

それが、死を運ぶ灰であることを。


爆心地にいたもの達を救出に向かった者たちにも、後に恐ろしい後遺症が発生する。

まさに、悪魔の兵器が投じられたのである。


4発の爆弾の内、2発が核爆発を発生させ、2発は、ただの爆発であったが、原料のウランを周囲に大量に飛散させる結果になった。


メギド作戦に動員された米軍兵士は、50万人もいたが、その三分の一が爆発の直撃で死亡した。

しかし未だ三分の二が残って、作戦を遂行しようとしていたが、日に日に、兵士たちが原因不明の症状で倒れていく。

そして、次々と死亡していく。

コロラド州デンバー近郊は、死の街になった。

2か月ほどで残りの三分の一が死亡または重篤な状態に陥り、作戦決行はほぼ不可能となる。


それ以前に、大統領府では、それが原爆であることをいち早く察知していたが、あまりにも衝撃的な事実であったため、兵士の避難を迷っていたのだ。

それが、最悪のケース呼び込む結果となった。


衝撃的事実とは、原爆をいち早く日本が完成させていたこと、そしてそれが4発も存在したことである。


下手をするとまだもっているかもしれない。

そして、敵の超長距離爆撃機を使えば、ニューヨークも射程に入る可能性があった。

片道攻撃ならば到達するであろう。そして、空中給油を使えば、往復も可能である。


さらに言うと、原爆製造は、ロシアでウランの採掘がおこなわれており、また、神聖月読皇国(旧オーストラリア)でも開始されていた。もはや、核による平和を模索し始めたのである。しかし、片一方しか持たないため、脅迫兵器としてしか作用しないであろうが。


米国大統領トルーマンは極めて厳しい状況に追い込まれていたのである。


そんな中、ニューヨークタイムスが、敵の新型兵器の攻撃により、メギド作戦は完全に失敗、多数の兵士が犠牲になっていることをすっぱ抜いた。


戦況は厳しいものであるが、米政府は、上陸した敵を直ちに殲滅できると断言していたのだが、現実はそうでないことは、明らかだった。


市民が、講和を破り日本を攻撃した米国政府に抗議の声を挙げる。

トルーマンにとっては、それはローズベルトがやったことであり、自分は関係ないと言いたかったが、それはできない。

彼は、副大統領だったから知らないでは済まされる訳もない。


そもそも、今再び和平を探れば、ハワイは勿論、日本に扇動されたワシントン州のゲリラ迄認めることになってしまうではないか。

其れだけは絶対に認める訳にはいかない。

ここは、合衆国なのだ、インディアンの国など認める訳ことは死んでもできない。

我々は、インディアンを掃滅した騎兵隊の子孫なのだから。


彼等は、あくまでも、この戦いの主導権を握っているのは、大日本帝国であると信じて疑わない。すでに、大日本帝国はアジアの片隅で小さく孤立島国(逆鎖国)であることを知らない。あるいは信じないのだった。


米国政府は、この事態に対して『国防動員法』を制定してあらゆる反政府運動を禁止し、対日戦争に力を振り向けることにした。

これにより、反戦デモを行う人間を片っ端から逮捕するなど強硬手段に打って出たのである。


講和は仕方ないとしても、ワシントン州のインディアン共は皆殺しにしてすり潰さねば、後々面倒なことになる。

日本軍には、賠償金を支払い、撤退させる。

軍事力を立て直した後に、ハワイを奪還する。


講和を引き出すため、艦隊決戦におよび必ず敵艦隊を打ち破る。

というロードマップが策定され計画が立てられたのである。


合衆国にはもはや精神的余裕が残されていなかったのである。



 

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