第175話 予感
175 予感
米国は東海岸で艦隊決戦思想に基づいて、モンタナ級戦艦を建造していた。
もはや、そのサイズでは、パナマ運河を通ることはできなかったが、そもそもパナマ運河が破壊され通行は不可能だった。
ある意味丁度良い。モンタナ級戦艦2隻及びエセックス級空母4隻及び随伴艦で、敵基幹部隊を刺し違えてでも壊滅させることしか残された手筋は存在しない。
決死の作戦である。
かといって、流石の米国の工業力といっても、まだ就航していなかった訳だが。
それにしても、恐るべき製造力、空母が次々と就航してくるという恐ろしい光景であった。
だが、作れるからといって好きに作っている訳だが、それは大きな問題を起こしてもいた。
東海岸の造船業は活況を呈していたが、戦死した兵員を追加招集するために、工員が次々と消え始めたのだ。
戦場で死亡する兵士が急増したためである。
主に、核攻撃による戦死者の補充増員であったが、大西洋戦線でもドイツ第三帝国が勢力を強めていた。米国兵士の戦死者は急激に増えていた。それは、既に昭和の世界よりもはるかに大きいものとなっていた。
ドイツはついに、北海を支配下に置き、周辺の港湾などを手に入れて、自由に航海することが可能となっていた。
ビスマルクを旗艦とする空母機動部隊を完成させていたのである。
いよいよ、大西洋での艦隊決戦が起こりうるところまで迫っていたのである。
つまり、英国方面でも負けが込み米兵が戦死していたのである。
そして、事ここに至り、米国東海岸の工業地帯こそが諸悪の根源であることがはっきりと枢軸国側(ドイツ・イタリア等)は知るのである。
ドイツは大西洋を渡洋爆撃できる重爆撃機の開発に入っていた。
そして、既に開発されている超長距離爆撃機が頭の中で浮かびあがっていた。
連邦がもつ、ツポレフB1戦略爆撃機である。
ニューヨークとロンドンの距離は、5600Km程度である。
ツポレフB1であれば往復可能であった。
ドイツ第三帝国は、連邦政府に対して、このツポレフを販売するように強く求めたのである。
だが連邦政府の回答はすげないものであった。
「この爆撃機は秘匿兵器であるため、販売は不可能である」
連邦政府は、月読皇国の政治最優先の政府である。
「米国東海岸の工業地帯を爆撃するために、どうしても必要である。総統の意向を無為にすることは、貴国に好ましくない状態をもたらすであろう」外交使節団には、ナチス親衛隊の息が掛かっていた。
「販売はできないが、協力することは可能である、英国に航空基地を整備すれば、部隊を派遣することも吝かではない」こちらは、まさにルナティックであるため、ドイツ総統の意向など知ったことではないのだった。
「総統の意向は絶対である」
「法王猊下の意向こそ神の意思である」
頭のおかしい人間と狂った人間が語りあった結果である。
しかし、利益が一致していることだけは分かったようで、その条件で折り合ったのである。
奇跡的に。一触即発とはまさにこのこと。
その話をまとめたのは、モルトケの再来、ウーデッド上級大将であった。
それは、すれすれの紙一重の決着であったといってもよい。一歩間違えれば、どちらからも処刑されるという綱渡りである。彼は、奇跡的に綱を渡りきったのである。
第三帝国は、連邦に不信の眼を向け始めていた。
何故なら、もはや敵は、連邦しかいないからである。
ウラル山脈の向こう側には、新ロシア皇国(スラブ人の親連邦国家)、そして、地中海の交通のかなめ、スエズは、連邦所属のエジプトが握っていた。
戦後を見据えると、とても邪魔であった。
そしてあろうことか、中東の油田地帯には、謎のペルシャ皇国が興ったのである。
これは、新ロシアの機甲部隊が、クーデターで発生させた国になる。
クーデターによる軍事政権であるが、連邦所属国家となっていた。
戦後を見据えると、黙視できない状態であった。
しかし、ここで連邦に宣戦布告することは流石に憚られた。
まだ、米国が健在であり、尚且つ英国もカナダに移って徹底抗戦している。
フランスもアフリカ大陸に健在であり、祖国奪還の戦いを続けている。
どこもかしこも敵ばかりで無暗に我を通すには、まだ時間が足りなかったのである。
嘗ての大日本帝国はこれらほぼすべての国に戦争をしかけるという蛮勇を誇っていた。
しかし、ヒトラーは流石にそこまで無謀ではない。先ずは、英国(カナダ)、フランス(アルジェリア方面)を叩き潰す。その後米国、そして日本(実は誤解、既に日本は鎖国状態に追い込まれていた)というきちんと理路整然と考える頭をもっていた。
仕方なく、基地を貸せば、米国沿岸を爆撃してくれるならそれでよしとせざるを得なかった。
その間に、こちらは、その爆撃機を接収する計画を進めることにしたということである。
ベルリンの空に、大規模な航空機が展示飛行を行っていた。
それは、連邦のツポレフB1とハインケルF5E戦闘機であった。
ツポレフの空中給油機(KC135)が混じっていたのである。
彼らは、ウラル山脈を越えてやってきたのである。
圧倒的な威容に人々は、恐れすら感じていた。
無敵ドイツ軍に、匹敵する軍隊がまだ存在していたからである。
ドイツ国内(拡大された版図)には、すでにユダヤ人はほとんどいない。
何故なら、彼らは奴隷として、連邦に売り飛ばされていたからである。
このように、ドイツは我が意を通すことが可能な国家であった。
最も優れた民族であると誰もが信じて疑わなくなっていた。
だが、この航空機部隊はまったく違った。
ルフトバッフェを越えた存在であることは、一目でわかったのである。
『黒い死神』部隊には、ドイツ人エースが数多く存在していたが、この赴任では外されていた。
黄色人種であるはずだが、白人のような背格好の黒髪の男がF5Eから降りてくる。
法王の代理権限を持つ、息子咲夜龍兎であった。
流暢なドイツ語で、挨拶を始める。
「決して、我が部隊の兵器に手出しは無用に願いたい。反すれば、どのようなことが起こっても、私は関与しないし、責任もとることはできない」
「わかった、手出しはしないように、言っておくが、私も、どこまでそれが効くかわからない」ウーデッド上級大将が答える。
ウーデッド上級大将は、ドイツ国防軍であるが、ナチス親衛隊は管轄外の私的軍隊である。
親衛隊(ゲシュタポ)がB1鹵獲作戦を練っていることは、証拠がなくてもしれたことである。ウーデッドは、もはや早晩退職シナリオを考え始めていた。
出来れば、国外に逃亡したい、今すぐにでも。彼の感が危険を察知していた。
恐らく誰でも感じたであろうが。
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