第176話 駆け引き
176 駆け引き
英国内のドイツ空軍の基地は、ルフトバッフェが管轄していた。
そうしないと、ゲシュタポが何をするか、全く予測できなかった。
それを知ってか知らずか、C130(実際はC130 という名前ではない、ハーキュリーズという名称らしいが、人々はC130と呼んでいる)が次々と、荷物を満載して到着していた。
それらには、武装兵士や武器弾薬が満載されていた。
基地の防衛を担う、こちらは神教親衛隊(ルナティクス)である。
そして基地を要塞化し始めるのであった。
彼等は、蟻のように、とにかく基地を要塞化するのが大好きである。
勝手に、塹壕や擁壁、防御施設などを作り上げていく。
ウーデッドは、ドイツ国防軍には、無用な手出しを禁じていた。
そして、この基地にゲシュタポの接近を禁止した。
それが、神教との約束でもある。
しかし、ゲシュタポがこの基地の施設や兵器を遠くから偵察しているのは知っていた。
基地情報をウーデッド自身もナチスに流していた。これに反すれば自分が収容所に送られてしまうからだ。収容所では、今スラブ人が処理されていた。
何と、処理すべきユダヤ人を売り払ったナチスは、今度はとらえたスラブ人を虐殺し始めたのである。
それは、反共産主義運動とされていたが、本当にそうなのだろうか。
其れこそ、それに疑念を呈すれば、自分の身に危険が及ぶだろう。もはや、彼には何もできなかった。
監視塔の機銃が吠える。
基地に無許可で近づく者には容赦のない射撃が加えられる。
ゲシュタポの隊員が始末される。
森の中でも、彼らは簡単に敵を発見する。
明らかに、特殊な兵器を使用しているようだった。
サーチライトも照らしていないのに、射撃するのである。
「月夜は我々の領土である」彼らは、そう嘯くのだ。
テスラ・インスツルメント社(通称TI社。テスラ電気通信から社名が変更されている)が開発した特殊装備の存在がそれを可能にしていた。
その装備は夜間戦闘機でも活用されている。
若干名は、裸眼で飛んでいるらしいが・・・。
それはかつて、夜間狙撃で恐れられた、『バンパイア』部隊が使っていた装置の発展版である。
ドイツと皇国の暗闘は真っ盛りであったが、北米への爆撃が開始される。
夜間の無差別爆撃が、米国東海岸に行われ始める。
米国の工業生産能力を低下させる作戦が始まったのであった。
陽動の為にドイツ海軍機動部隊も、東海岸沖にでて動きまわっている。
流石に、米国内にも厭戦ムードが濃厚に漂い始める。
始めて、自分たちの生命が、敵の攻撃にさらされ始めたからである。
しかし、米国大統領には、終戦などありえない。
西海岸の敵を殲滅し、ハワイを奪還しなければならないからである。
ハワイが無理でも、せめて、西海岸の敵すべての退去は実現しなければ鉾を納めることはできない。そのあとに、インディアン共を完全に抹殺しなければならないのだ。
いつの間にか、世界覇権を握るはずだった戦争が、自国の独立すら危うい気配を漂わせている。
トルーマンは、ローズベルトに激しい怒りを感じていた。
無責任に戦争を始めて、勝手に死にやがって。
トルーマンは、副大統領から、大統領に就任した時には、喜びをもっていたが、今やそんなことは忘れてしまっていた。
それが、人間の性である。
恨みごとを呟きながら、海軍の艦隊編成はまだかと作戦部長に八つ当たりするのであった。
太平洋艦隊は壊滅し、今や大西洋にしか戦力はないのだ。
それでも、全く足りてはいない。
「大統領、英国の空母を貸していただけるように交渉してください」
何と、作戦部長は、八つ当たりに怒り心頭で、逆に食って掛かるのだった。
「今や英国には、領土ありません、生き残った空母を我らで運用して、ドイツ艦隊に対抗せねばなりません。今であれば、ドイツ機動部隊の練度は今一つ、勝機は今しかありません」
空母は作ることが出来ても、乗り手も育てねばならない。
そういう意味では、新米ばかりの米国海軍となっていた。
太平洋艦隊の乗組員の多くが死亡していた。
特に、パナマ運河では、何とか脱出できた者たちが、まさかの、運河破壊の激流に飲まれて命を散らせてしまった。
空母を対価に命を助けてもらった乗組員だったのだが、しかも、そちら方面にいかない方が良いと情報も受け取っていたのにだ。
一体全体海軍は何をやっているのだ!
トルーマンの血圧は上がるばかりだった。
英国海軍の空母イラストリアス級は奇跡的に健在であった。
イラストリアス、フォーミダブル、ヴィクトリアス、インドミタブル、インプラカブル 、インディファティガブルの6隻である。
これは、あくまでも、幸運であったというしかない。
まだ、ドイツ海軍には、機動部隊が存在せず激しい海戦を行う必要がなかったせいでもある。
現在は、カナダ、バンクーバー港で息をひそめていた。
英国にしてみれば、本土奪還のための最後の切り札となるべき兵力である。
貸せるはずもない。
しかし、米国が力を貸さねば、本土奪還など不可能なことは明らかだった。
そして、その条件としては、米国が太平洋上で戦略的勝利が必須であることも、英国首相チャーチルには理解できた。
政治とは、駆け引きであり、いかにして相手に応じさせるかなのだ。
米国は猿を舐めすぎた。
そもそも、日英同盟を維持しておけば、参戦させることもなかったのだ。
政治的駆け引きがあったとはいえ、米国は太平洋の覇権を確立させるため、それを解消させたのである。
今やそれが、裏目に出ていたのである。
「絶対にそれは認めることはできない」それでもチャーチルはトルーマンの要請を拒否した。
「では、今後完成するエセックス級をその穴埋めに、貴国に差し上げる。今は、太平洋の猿の殲滅が全ての前提であることは、君も理解しているだろう」
トルーマンは、チャーチルの葉巻の煙を払いながらそういったのである。
トルーマンの顔色は明らかに悪かった。
何か大きな不都合を隠しているに違いない。
チャーチルは考えたが、理由は分からなかった。(後に情報部により情報を得る)
トルーマンは、核の恐怖を味わっていたのである。
救出に向かった兵士たちが次々と奇妙な症状を発症し、次々と死んでいた。
明らかに、核兵器の後遺症である。(核兵器ではなくツアーリボンバである。皇国の正史にはそう記されていた。ツアーリボンバは月の女神から神の使徒に送られた天与の兵器とされていた。がっつり人工の兵器だったが。月からくるとすればもっと別の何かがやってくるに違いない。)
そして、それは未だにつくられている可能性が高い。
ロシアにもオーストラリアにもウランが存在する可能性高いと米国の科学者はいった。
特に、オーストラリアでは昔から放射性物質の存在は確認されていたのである。
そして、当然のように採掘し、精製している工場がその地には存在した。
兵器の有用性について議論する必要はない、法王は断言し、信者はそれを実行する。
兵器開発に無駄がないのが、狂信者の国の恐ろしいところである。
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