第198話 式典

198 式典


1946年10月1日

この日、ドイツ第三帝国領英国ロンドン郊外の空軍基地で、式典が行われていた。


連邦製のツポレフB2『銀河』(形はボーイングのジャンボジェット機のように見える)爆撃機は、ドイツ空軍色のカラーリングに塗り替えられていた。

同様に、B1『飛龍』(形はTU95のように見える)もドイツ空軍カラーに塗り替えられていた。


ドイツ第三帝国の新型爆撃のお披露目である。

本来は、ベルリンでしたかったが、3000m級滑走路を用意できなかった。

試験飛行の結果は良好であった。


本来ならば直ちに、分解してしまうところだが、この新しいおもちゃを当人も見たがったし、作戦を主導した親衛隊も、その功を誇りたかった。


そこで、この式典である。

だが、実際に作戦を成功させたのは、ドイツ国防軍であった。

しかし、このころのドイツはすでにナチスが全盛を迎えており、誰もが恐れる存在となっていた。フレーゲル少佐が成功させたことになっていたのである。


式典には、総統、ルーデンドルフ、ヒムラーなど錚々たる顔ぶれが並んでいた。

ヒトラーユーゲントたちも綺麗な軍服に身を包み、美々しく並んでいる。

顔かたちだけは、俳優並みであるため、非常に美しく映えるのだ。


その片隅に、今回の作戦をもって退役するウーデッド上級大将もひっそりと佇んでいる。

国防軍の姿は極わずかであった。


「我々の科学技術が結実し、北米大陸に存在する、英国、米国を殲滅する時が来たのである。

今こそ我々神聖ドイツ第三帝国の力を示すのだ!」

ヒトラーは、熱弁を振るう。


「ハイルヒトラー!」

「ジークハイル!ジークハイル!」数万人の親衛隊が絶叫する。

「ジークハイル!ジークハイル!」「ジークハイル!ジークハイル!」「ジークハイル!ジークハイル!」

ヒトラーは彼等を見渡して非常に上機嫌である。


ウーデッドは、青い顔色をしてその場を離れる。

そこは、人気のない指揮所の建物の裏であった。


壁には、電源盤が設置されている。

ウーデッドは、素早くその蓋を開けて何事かを行い素早く閉めた。


顔色は今にも死にそうなほど青かった。


「どうされたのですか?」

そこに、親衛隊の警備兵が来る。

「ああ、済まない。どうにも調子が悪くてな」

「そうですか、流石に居心地が悪いのですね」


この会場はほとんど親衛隊の黒い制服が占めている。

国防軍の制服はほぼいない。もはや退役する将校など眼中にないと言わんばかりに言う親衛隊員。


本来の功労者であったはずのウーデッドも功績をフレーゲル少佐(新男爵)に譲らされた。

だが、彼の気分の悪さはそういうことではなかった。

彼はすでに、退役しているのだ。もうどうでもいいことなのだ。

別の理由で気分が悪かったのであるが、親衛隊の警備兵は、そうは考えなかったようだ。


「すまない、今にも吐きそうだ。総統閣下に挨拶もせず、退席すること申し訳ないことをする。そのことをヒムラー親衛隊長に伝えてくれ」

「わかりました、御気分がすぐれないことを申し上げておきますよ」勝ち誇った顔でそう答える隊員。


「ハイルヒトラー!」何とか敬礼するうーデッド。

「ハイルヒトラー!」勝利を確信する親衛隊員。


こうして、ウーデッドは、基地を離れたのである。

その後のウーデッドはワーゲンをすっ飛ばし始める。

ラリーの選手のように、車をスライドさせながらロンドン郊外をすっ飛ばしていくのである。


「クソクソクソ!」ウーデッドは仮にもエースであったため、見事なドライビングテクニックを披露しながら、車は走る。

何を怒っているのであろうか、「クソクソクソ、どいつもこいつもクソ野郎だ!」

車内で絶叫しながらすっ飛ばしていたのである。(決してダジャレを言っているわけではない)


「何だと、ウーデッドが退席しただと!」

ヒトラーは少し不機嫌になった。

「総統閣下に非礼を詫びるように言っていたそうです」

「フン!功績を譲らされたことで機嫌をそこねたのか」

「おそらくはそうでしょう」

「まあいい、奴は功績を上げ過ぎた、それに連邦の傀儡の噂もある、これから敵になるやつらに近い相手を置いて置けるものか」ヒトラーは吐き捨てた。


「まことに、そういう意味では、今回はまったく丁度良かったのではないでしょうか」

「その通りだ」


「英米を倒したら、今度は猿どもを殲滅し、第三帝国は世界帝国となるのだ!」

「ハイルヒトラー!」ヒムラーたちは敬礼した。

ヒトラーはちょび髭をつまみ、ワインを飲みほした。


会場では、新貴族たちがワインを飲み、騒ぎ始めていた。

これからは、親衛隊とヒトラーユーゲントの時代がやってくる。

世界は我々の物!いや、物にして見せる!


黒い制服たちは、女たちを抱き寄せた。

彼女らは、英国人女性であり、若いユーゲントの相手をさせるために、連れてこられた一般人である。


「それでは、総統、ベルリンへと戻りますか」

「うむ、早くこのジェットを量産できるようにせよ」

「は、英国の技術者どももムチうって作り挙げましょう」

「いいぞ、ヒムラー、我々アーリア人が本当の世界の支配者なのだ」


ドイツカラーに塗られた、B1爆撃機『飛龍が』滑走路に引き出される。


「オイ、貴様ら、滑走路で何をしているのか!」

親衛隊の警備兵が怒鳴っている。

何と、滑走路の真ん中でいたしている馬鹿者がいたのである。

ヒトラーユーゲントの青年であった。

「黙れ!私は新貴族だぞ」すでに酔っぱらって、正常でない若い男が、拳銃を抜く。

若いだけに、血気がさかんで、貴族になったという思い上がりが、このような増上慢を招くのだ。


「総統の機が、発進するのに、貴様何をしているのだ」

「うるさい!私は総統から貴族に叙されたのである、貴様ら親衛隊の木っ端が偉そうに何を言っている」


「銃を置け!」

「黙れ!」


「何故発進せんのか!」機内でヒトラーはイラついていた。

急に嫌な予感が襲ってきたからである。

「は、ユーゲントの馬鹿者が滑走路の真ん中にいるのです」

「ユーゲントの馬鹿者?」

側近は過ちを理解した。

ユーゲントはヒトラーが選んだもの達である。

それを誹謗してしまったのである。


「貴様は、私を馬鹿にしているのか!」

ヒトラーが嚇怒した。





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