第199話 独白

199 独白


この式典が行われる前、親衛隊は徹底的に、基地内と鹵獲した爆撃機を調査した。

自爆装置などが存在している可能性があるからである。


数個のブービートラップが発見され、無事に解除された。

完全に基地を掌握したのである。


建物内も徹底機に調査された。

爆発物が仕掛けられていたが、相手方はそのスイッチを入れずに撤退したのである。


彼等は、エジプトを目指して飛んでいった。

ウーデッドの指示でさすがに攻撃機を飛ばさなかった。


追撃については、ヒトラーからもやめるように言われていた。

何らかの場合は、ウーデッドが話を纏め、機を無事に手にいれることになっていた。

仮に、逃げた者たちを抹殺した場合は、流石の連邦も宣戦を布告するだろうというウーデッドの意見を入れたのである。


親衛隊の徹底した調査により、今回の式典は行われていたのである。


しかし、ヒトラーは何か嫌な予感が増していくのだ。

そこで事件が発生する。



◇◇◇


「貴様は、私を馬鹿にしているのか!」

ヒトラーが嚇怒した。

ヒトラーユーゲントを馬鹿にした発言に対してのものである。


機内でヒトラーは怒鳴って銃を抜く。

しかし、機内で銃を撃つ行為は、非常に危険である。

機体に穴をあけてはならないのだ。

この機体は、高高度も飛ぶのだ。

「総統、どうかご寛恕を」ヒムラーがヒトラーを押さえる。

「どうか、お許しください」側近の一人は土下座して震えている。


「早く、発進するのだ!」


だが、滑走路では、もっとひどい状況であった。

ユーゲントが発砲し、親衛隊員を撃ち倒していた。

別の隊員は短機関銃をユーゲントに放つ。


ボロ布のように血まみれになり倒れるユーゲント。

「早くどけろ!」

絶叫を上げる総統、悲鳴を上げ続ける女。

機内と滑走路はカオスと化していた。


「ひき殺してでも発進するのだ、すぐにだ!」ヒトラーは怒鳴った。


プロペラの回転速度が上がり、機が動き始める。

突き動かされたヒトラーは絶叫し、機が速度を上げ始める。

女は何とか横に飛びのき避けた。

しかし、ユーゲントの死体は踏みつけられた。


速度が300Kmに上がり機が滑走路を離れて空に飛びあがろうとしたその時、それは起こった。


ドドドドド~~~~~~~~~~~~~~~ン!

その閃光と爆発は凄まじく、ヒトラーの乗るB1『飛龍』を逃すことは無かった。

瞬時に基地は、蒸発した。


巨大な赤黒いキノコ雲が立ち昇り、ロンドンの人々はそれを見て、恐怖した。

恐るべき爆発が尋常でないことはあきらかだった。


ウーデッドはバックミラーに爆発を確認して車の速度を緩める。

衝撃波が襲ってくるからである。

高速移動中にそれを食らえば事故になってしまう。

流石に、相当距離を離れていたため、衝撃波は恐れるほどのものでなかった。


しかし、この後振る灰はヤバいものであることは教えられていたため、すぐに安全かつ素早い移動を開始する。


某海岸に、連邦所属の潜水艦が待っていてくれるはずなのだ。

居なかったらどうしよう。

彼は、不安にさいなまれながらも走らせる。

今度は、安全運転であった。

ウーデッドは運転しながら思い出す。



◇◇◇


「ほう、この機を売ってほしい」

「はい、猊下の御助力を賜りたいのです」

ウーデッドは、連邦の窓口として、ドイツで地位を確立していたので、このような損な役回りをさせられる。


「それは無論できるはずがない」最新の軍事技術を売る馬鹿はいない。

連邦とドイツは同盟しているわけではない。

協力しあっているだけである。


「しかし」

「だが、米国の造船能力が邪魔なのは間違いない」

そこで、英国内に連邦の基地を設置し、そこから爆撃することになったのである。


「しかし、この基地は何れ、ドイツに占領されるだろう」

「そのようなことは決して・・・」


「しないと言えるのかね?」法王はウーデッドを見ていた。

親衛隊なら十分にやりそうな出来事であった。


そして、その時から恐ろしい計画が始まってしまったのである。


『ヴァルキューレ作戦』と名付けられた作戦は、英国基地の工事から始まっていた。

基地の指揮所を作るときにやたらと穴が深かった。これは敵空軍の爆撃を想定した地下壕を作っておくための物であると説明されていた。

勿論、地下壕は作られた。だが、C130で輸送された物資の中に、非常に危険な物質も含まれていた。それは、地下に埋設される、そして入口すらない状態に置かれた。

いくら捜索しても見つかるはずがない。入口すらないのだから当然である。

爆弾の破壊力が十分なために、どんなに堅固につくっても問題なかった。


スイッチはいくつか作られ、数人しかその始動を行えなかった。

こうしてトロイの木馬は沈められた状態で、敵がやってくることを待ち受けていたのである。


この作戦はドイツが何もしなければ発動することは無い。

だが、一度始めれば誰にも止めることはできない。


ウーデッドは、式典に出席せねばならなかった。

彼は、引き金を引かねばならなかったのである。

それが、始めの約束であった。


彼がやらなくても、親衛隊に紛れ込んだ信者が引き金を引くことは確実だった。

彼は、新たな人生を手にいれるために引き金を引いた。


彼は、爆発により死亡したことになる。

あの基地にいる人間の全てが生き残ることはできない。

出席していた、ウーデッドも当然に死んだことになる。

彼は新しい名前で新しい人生を送ることになる。


そうしなければ、信者に暗殺されたであろう。

どちらにしても、やらざるを得ない状況に追い込まれていた。


吐きそうだ。

せめてもの救いは、親衛隊やらユーゲントはクズばっかりだった。

世の中の為に少しは貢献したのではないか。

涙が溢れてくる。


「どいつもこいつもクソ野郎ばっかりだ」彼はハンドルを握ながら吐き捨てた。


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