第200話 休戦条約、その後
200 休戦条約、その後
ロンドンの郊外の航空基地の爆発により、基地で開催されていた祝賀記念式典に参加していたヒトラー総統、そして親衛隊の上級幹部、ヒトラーユーゲントなどドイツ軍首脳部は壊滅的な大打撃を受けた。
この時を待っていたかのように、ロシア公国がウラル山脈を越えて進撃を開始した。
嘗てのロシア領を奪回するために軍隊を動かしたのである。
親衛隊は各地で暴虐の限りを尽くしていたため、瞬く間に戦火が欧州各地で燃え広がる。
だが、肝心となる英米仏の軍隊のうごきは鈍かった。
米国は、本国の再統一を優先させた。
連邦と休戦条約を締結し、西海岸に上陸した部隊の殲滅を優先したのだ。
パナマ運河は、連邦に完全に明け渡すことになった。
絶対に許せない事項であったが背に腹は代えられなかった。
500万人の偽開拓者の力は馬鹿にならない。
尚且つ、黒人たちも、南部で暴れ回っていた。これらに武器を供与しているのは、明らかに連邦である。ニガーもイエローマンキーもすべて潜在的な敵となった。
殲滅するしかないのだ。
パナマを譲ること彼らへの武器供与を停止させたのである。
アパッチ諸族連合は、別である。
ワシントン州を占拠した彼等には、核が渡されているという。
もしもの時は、ピュージェットサウンド基地事自爆するという脅し文句を添えられた。
武器供与は今後も続けられる。米国を牽制するためでもある。
指導部を失ったドイツは、国防軍のロンメル将軍とデーニッツ提督らが、指導部となる。
ロンメルが陸軍元帥に昇進して陸戦の指揮を執り始めると、瞬く間に、ロシア軍は壊滅、再上陸を狙ってイタリアに上陸したフランス軍を撃退して見せた。
海軍は、旧英国本土を守り地中海を維持していた。
カナダの英国軍は、空母機動部隊を構成できず、ドイツ海軍を撃退できず、英国本島は奪還できずにいた。
米国から空母を貰う約束は守られるはずもなかった。英国はインド、オーストラリア、ニュージーランド、南アフリカなど重要拠点を完全に失った。
立ち上がることが出来ないほどの打撃を受けてしまった。
ロシア公国は、旧領土奪還の戦に、支援を連邦に要請したが、超大国の出現を警戒する連邦は動くことはなかった。
一方、連邦は、パナマ運河、スエズ運河に大規模な防衛拠点を構築。
オーストラリアの各都市の要塞化、太平洋の重要拠点(ハワイ、フィリピン、シンガポール、ジャワなど)の要塞化等を急いだ。
インド洋方面では、インド、スリランカ、マダガスカル、南アフリカと中東との航路の安全も各地を要塞化することで狙っている。
世界を平和にし、国土を安定化させることを狙っていたのである。
世界が平和になれば、輸送航路と資源、工業力により、軍事力以外で世界を制覇することが出来る。
もはや、この神聖皇国の目的は力による世界制覇ではなかった。
多くの人々は、もはや世界制覇目前に考えていた。
しかし、法王自身はそのことにあまり執心しているわけではないようだった。
神聖皇国は、はじめ『月の神の使徒』から始まっていた。
月の神の使徒が、大日本帝国と結びつき、『日月神教』となった。
その後、大日本帝国が離れていき、月の神の『代理』となり、『月の神』そのものとなる。
その後、聖書の神の生まれ変わりを名乗るようになった。
そして今や、見事に成りすまし、聖書の神の生まれ代わりを名乗っている。
信者たちに浸透しやすいように次々と姿を変えてきたのである。神化、あるいは進化なのか。
こうして宗教侵略は成功し、十字教やアラー教、ユダヤ教にすら成りすましていた。
だが、神の奇跡で勝利したことは大きく、人々は勝ち馬に乗りたがったのである。
本来の信者(親衛隊)は数百万だったが、緩い信者(騙されているあるいは騙されてやってもよい)は10億人に達していた。特にアフリカは草刈り場と化していた。
世界は偽神に仕え始めていたのである。
法王自身は、聖書の神の生まれ変わりであると述べるようになっていた。
先日まで、その神の手先と激闘を繰り広げていたのにである。
だが、勝てば官軍という言葉があるように、勝てばその言葉も本物のように聞こえる。
「神の力があるからこそ、悪魔に勝てるのである」こう言われれば、そうではないということは難しい。技術があるからなどといっても、『神の恩寵で技術開発されたのである。』
つまり、嘘を論破することは非常に難しい。
逆に負ければ、神に見捨てられたのだと人々はいうのだ。
そして、信者が増えれば増えるほど、異を唱えることは難しくなっていく。
特にルナシストは極めて危険な存在で、下手なことを言えば、港に浮かぶことになってしまう。
世界は平和へと傾き始めていた。
世界平和という天秤を、制御しはじめることが可能になりつつあった。
それだけの軍事力、経済力、求心力を持ちつつあったのである。
人々は戦争に疲弊し、恐怖していたのである。
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