第146話 千年王国の真実
146 千年王国の真実
大本営会議
陸海軍の三長官たちが集められる。
「それにしても、なぜ、敵の奇襲を防げなかったのか」
「防空レーダーが故障していたようです」
「一体なぜそのようなことになっているのだ!」
「それをおいても、敵に反撃をしなければならない」
終戦において、山本連合艦隊司令長官、南雲中将などの多くの将官が退役していた。
所謂、秘密結社『兎の穴』の仲間たちが粛清対象になっていた。
同時に兵器の更新は終わり、整備もできなくなっていたのである。
陸軍も永田鉄山、関東軍の石原莞爾などが同じような結末であった。
しかし、石原は、満州国で国軍の大将になりおおせていた。
連合艦隊の主な将星たちも、望めば同盟艦隊の指揮官の席がえることができた。
傍若無人の男とその交友関係者を全て退役させれば、この国(日本)がもっときれいになると考えられて実践されてきたことである。
しかし、その流れが原因となって多くの軍人が去った。
今残っている者たちは、彼等よりも下の世代である。
「山本長官にお戻りいただいたらどうでしょうか?」
「何を言っているのだ、我々は彼らを追い落としたのだぞ」
彼等は天皇の親政してほしいと考える軍人たちである。
それゆえ、今の役職に就いたのである。
そして、陸軍は、攻撃対象もないので、削減が急であった。
満洲が実質的に独立したので、もはや攻めるべき場所はなかった。
陛下が平和を望んだからである。
「敵は、海の外だ。海軍諸君に頑張ってもらうしかない。我々は国土の防衛体制を強化する」
無責任極まる発言だが、尤もな言葉である。
その防空が穴だらけで、数万の人間が死んだのだが。
「米国に対して、もう一度平和を望むことを打診せよ」
「はい、それは直ちに行っておるのですが」
外務大臣の顔色はさえない。
「我々合衆国は、貴様らサルどもを殲滅し、ハワイを奪還するまで戦い続ける。ハワイ諸島を今すぐ返還せよ。そして、殺された陸軍兵士たちの家族に慰謝料を支払え」
軍備を整えた合衆国は、強い敵意をむき出しにして言い放ったのである。
そのような言葉を直接陛下に伝える訳にはいかないので、「上手くいっておりません」としか言えないのである。
少なくともハワイはすでに、日本の手から離れている。
どうしようもないのである。
「山本長官に周旋してもらい、あの男にハワイを開放するように頼んでみてはどうでしょうか」
「馬鹿者!なぜ頼む必要がある。陛下の命は絶対である。山本長官にお願いしてみろ」
全てがちぐはぐだったのだ。
そして、恥も外聞もなく、海軍三長官は、山本に縋りついたのである。
特使として、元連合艦隊司令長官山本五十六がウラジオストクへと飛ぶ。
法王庁は、ウラジオストクのはずれに建造されていたからである。
サンクトゲントブルクという街ができたらしい。
壮麗な神殿が作られていた。
工事の途中である。
金に飽かせてこのようなものを作っているのである。
山本はあきれながらも見て回っていた。
信者が億人を突破したという一大宗教勢力へと成長しているという。
特に東南アジアで信者が爆発的に増えているらしい。
壮麗な神殿の奥深くの応接室。
「御無沙汰しております。山本長官」
「おお、咲夜久しぶりだな」
法王らしいトーガを纏った男が入ってきた。
頭には、法王らしい冠のような帽子をかぶっている。
護衛は扉の外側で待つ。
「今日来たのは、他でもない。陛下からの勅命をうけてきたのだ」
「そうですか、謹んで拝命せねばならないところですが、そうもいきません。私もすでに、多くの信者の平和と生活を司っております。私だけの意思では動けないのです」
「ハワイを開放してほしい」
「長官、ハワイはハワイ人の物です、米国の物ではありませんし、日本人のものでもありません」
「日本が攻撃されている」
「長官、ハワイを開放しても、攻撃されるでしょう。彼らは面子を大事にしています。黄色人種に負けたなど許されることではないのです。たとえこちらが売られた喧嘩に乗ったとしても、その事に代わりは無いのです」
「ではどうしたらよい」
「はっきりしています。彼等が嫌になるまで相手をするしかありません。漸減邀撃作戦です。日本の国家防衛構想でも端からそうなっていたではありませんか」
「お前たちは協力してくれんのか」
「長官、私は
「取り消させる」
「残念ながら、もはや私は役目を終えました。今度は自分のターンなのです」
「どういう意味だ」
『神との契約』は日本を勝たせるという無理なものだったが、それは、米国側の卑怯な戦略としてでも、講和を取り付けた(日本側の勝利判定)ということで終わったのである。契約条件を仮にでも達成したということである。
契約が成就させたのちは、男は自由の身となったのである。
これで『機関』がこの男に手をだすことはできなくなったのである。
『機関』とは、遊びであった。無理な条件の契約にも関わらず、神は暇つぶしに敵(怪人)を送り込んでこの男相手に遊んでいたのである。しかし、ポセイドンが痛い目にあってからは、それは控えられていたのだが。
「簡単に言うと、好きにするということです」
「お前」
「心配いりません、日本まで侵略するとは言いません」
「しかし」
「日本には、現人神がおられる、そこに二人目はいらないでしょう。私は別の地で現人神をやりましょう」
何の気負いもなく気が狂っている。
しかし、当人は至って真面目である。
宗教ができ、信者が億人である。後は伝説となるだけで本当の宗教として永劫に地上に残ることが可能なのである。
信仰が神を作るのである。
そして、それがすぐそこにある、少なくともこの男はそう確信していた。
これがこの男の千年王国事業であった。千年ののちも存在し続けるということを目指しているのである。
勿論、それを面白くなく考えている神も存在したが。
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