第186話 大将旗

186 大将旗


「村田隊長!」

「ああ、やはり戦艦の姿が無かったのはそういうことだ。そして航空機のほとんどがそちらに向かっているはずだ」高橋と村田が無線で話しをしている。


「村田から戦闘機隊へ下命、直ちに帰還して、給油後敵機の迎撃に向かえ」

既に、ジェット戦闘機隊は反転し、彼らの空母に向かい始めている。


「加藤了解、帰還します」制空戦闘機隊加藤少将が返事をした。

既に、こちらの攻撃に戦闘機は必要ない。

戦闘機隊は、駆逐艦などに機銃攻撃を仕掛けているだけだった。

勿論、それでもかなりの脅威にはなっているのだが。


「後は、俺たち攻撃機隊に任せろ」

「宜しくお願いします」


烈風戦闘機が高度上げて戦域を離れていく。


「我々も攻撃を素早く終わらせて旗艦する」

未だ攻撃していない機は半数を残している。

海上の艦の複数から黒煙が上がっていた。


爆弾を投下した流星改は戦闘機並みの空戦機動が行なえるので、戦闘機はもはや必要ない。

そして、この戦域には、もはや敵戦闘機はいない。


・・・・・・・・・・・・・


攻撃機隊が決死の攻撃を再三再四繰り広げているが、敵戦艦の防御力は途方もないものだった。

中破1隻小破1隻。

たった6隻の戦艦に500機以上の攻撃機を繰り出してもその程度の成果でしかなかった。

魚雷は確かにあたっているのだ、しかし、敵艦は何事も無いように動いている。


防御区画と液相防御はしっかりと仕事をしている。

そして、排水ポンプの能力も優れていた。

行き足はまったく衰えていなかった。


だが、流石に最後の『総体当たり攻撃』は凄まじく、次々と爆発が艦上で発生する。

まさか、米国がこのような自爆攻撃を飽和攻撃で行ってくるとは思いもよらなかった。

これも、まさに神のなせる技、ヤンキー魂ここにあり!と示して見せたのである。


この攻撃の所為で3隻が大破するという被害が出てしまう。

濛々と黒煙が上がる戦艦部隊。さすがの法王座上艦も数機のヤンキーアタックを受けた。

舷側の5インチ砲は吹き飛び、機銃座が炎に包まれた。


「レーダーに敵影!敵戦艦のようです」

そして、米国打撃部隊が彼方の水上に現れる。


「砲雷撃戦用意!」

皇国艦隊の戦艦6隻はそれでも戦闘可能であった。

「先手必勝、見敵必殺!」

法王座上艦の主砲が目標を定める。


初期的コンピュータがはじき出した数字と少し違っているが、そこは異能の持主の法王である。

「撃て~~~~~~!」

初撃が発射される。


砲弾6発の内2発が、モンタナ級戦艦『オハイオ』に直撃する。

物凄い威力であった。それは主砲の装甲を貫いて、砲塔内で大爆発を起こす。

たったのこれだけで、『オハイオ』は自艦の砲弾がたちまちさく裂し、猛烈な爆発を起こし、行き足を完全に止めてしまう。


第一砲塔が高々と噴き上げられる。

その爆圧は艦内部へと殺到していく。

それは第2砲塔を巻き込んでさらに誘爆。


その時『オハイオ』の命運は決した。

第2砲塔部分でさらなる大爆発が発生し、オハイオは前部を折られて、急速に沈んでいく。

退艦する間もない轟沈であった。


「しまった!」

座上艦で法王は半分よろめきながら悔しさをにじませる。

艦上では、大歓声が起こっていた。

遥か50Km先の戦艦が閃光を発し大爆発するのが観測できたからである。


「猊下どうされたのですか」

「ギーレン、あれは違う、本体はいまだ健在だ、各艦に攻撃をさせるのだ!」

「しかし、当たったようですが」

「奴はまだ生きている、来るぞ、私は少し休む」そういって法王は意識を失う。

異能は異常な力の行使をするため異常に疲れてしまうのである。



異能により敵艦の大将旗を確認し発砲した法王座上艦、しかし、ハルゼーは自身の乗らない『オハイオ』に自らの大将旗を掲げさせていた。そして、『オハイオ』は犠牲になってしまったが、まんまと自分はいきながらえたのである。

念のための陽動であったが、最初の一撃がまさか当たるなどとは思いもしなかった。


米国艦隊のモンタナ級戦艦『モンタナ』とアイオワ級4隻が高速で砲撃しながら単縦陣で突撃を敢行する。


しかし、諸元がほぼ正しい皇国艦隊の砲撃は精確にならざるを得ない。

皇国艦隊も、単縦陣へと陣形を組みなおしつつ反航戦を行わざるを得なかった。

だが、3隻は大破の状態であり、戦力は5対3で米国艦隊側に優勢があったのである。

この時、航空機隊のほぼすべてが、空にはいなかった。

皆が魂を燃やし尽くしたのであった。


そもそも、練度の低い航空隊では、急降下爆撃などは向いていない。

雷撃も然りである。体当たりしか方法が無かったのである。



「撃って撃って撃ちまくれ!」モンタナ艦上で壮絶なオーラを振りまきながら、ハルゼーは絶叫していた。

ありえない状況であった。

500機の攻撃機で完全な攻撃をかけたにも関わらず、敵艦はまだ海上で移動していた。

そして、大破して生き残った艦をこの打撃艦隊でとどめを差そうと考えていたのだ。


やはり航空機で戦艦を沈めることはできないのだ。

それどころか、敵の第一撃は海戦の歴史を嘲笑うようなラッキーパンチを与えてくる。


僚艦『オハイオ』たったそれだけの攻撃で爆沈してしまったのだ。

「神は人類に試練をお与えになっているのだ!」

彼のいう人類に、有色の猿は含まれてはいない。


「人類の革新のためには、この猿どもに打ち克つ必要があるということだ」


「撃って撃って撃ちまくれ!」

皇国、米国の戦艦は接近しながら砲火を激しく交える。

しかし、先ほども書いたが、既に、夾叉している皇国艦隊が圧倒的有利をもっていた。

さらにいうなれば、砲の性能も46㎝長口径砲の方が優れていた。


アイオワ級戦艦に次々と命中弾が発生した。

激しい爆発が起こり、行き足が衰える。容赦ない砲撃が狙い撃つ。

たちまち爆発が連鎖する。


「クソ!神よ!」

その時またしても後続のアイオワ級が直撃弾を受ける。

「忌々しい、猿に負けるというのか!」

既に3対3になっていた。


「夾叉しました!」ついにこちらの砲弾が敵艦隊を捕らえた。

しかし、その時、アイオワ級戦艦2隻が次々と爆発した。


「なんだと!何ということだ」

その時爆炎が、『モンタナ』の艦橋を包んだ。

敵艦の副砲が発射したサ式砲弾が近くでさく裂したのである。


裏をかいて絶対的有利な戦いを仕掛けたハルゼーは今、窮地に追い込まれていた。

サ式砲弾の爆発は、艦外の要員の命をたやすく奪っていた。

勿論、艦自体は無傷だが、その外には死が溢れていた。

機銃要員などは、衝撃波と高熱と火炎そして酸素不足から簡単に命を落としていたのである。


「何という、何ということだ、これでは神の栄光が、神の国が遠ざかってしまう。許されぬ、断じて許されぬぞ!」


ハルゼーは呪詛を込めた怒りで絶叫した。

ギラギラと赤い片目が、敵艦を呪い殺してやろうとばかりに燃えていた。





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