第185話 エース

185 エース


連邦軍遊撃艦隊が、米英国海軍航空隊の猛攻を受け始める少し前。


その母艦を含む機動部隊は、連邦海軍航空隊の攻撃を受け始める。

彼等は、攻撃機部隊および主力打撃群の囮として、その反対側へと移動しながら距離と時間を稼ぐ。


「敵艦隊を発見した、攻撃を開始する」

連邦の攻撃隊隊長、村田少将が乗機から伝達する。

彼等は、かつて帝国海軍のエースであったが、戦争終結で予備役に廻された。

そして、連邦のエージョントが接触、高い階級と給与で連邦海軍航空隊に所属することになったのである。


彼の駆る流星改は魚雷攻撃と急降下爆撃を一機種で行える多目的攻撃機である。

彼は雷撃側の部隊に命令を行うとともに、攻撃部隊全体の指揮も行う。


「村田から高橋へ、雷爆同時攻撃をかける。いいか」

「高橋、了解」高橋少将も同じような境遇であった。


大日本帝国には、人間を大事にする気風があまりない。

必要ならば赤紙で招集し、必要無くなれば、予備役にというような気風があるのだ。


爆撃のスペシャリストも軍にこそ残れたものの、航空隊の予算は大幅に削られていた。

部下の数名も、将来を見いだせず、他国へと流れていった。


そして、その不満を見透かすように、神国からのエージェントが接触してくる。

彼は、生活するためにその要請を承諾した。


大日本帝国は戦費が膨大であったため、緊縮財政を組まねばならなかった。

多くの兵士が一般社会へと復員させられることになった。


移籍し将官となった彼らの生活は安定している。

給与が高額であった。また、居住地は、豪州であるが一戸建てが用意されていた。

士官用の宿舎である。

巨大な大陸では余裕のある居住区画を作ることが出来たのある。


ただ、彼等が教官として飛行技術を教えるのは、所謂日本人ではなかった。

彼等は多国籍であった。所謂親衛隊とかルナティクスと呼ばれる者が多かった。


皆、良い人間であった。

ただ、法王の悪口だけは決して彼らの前で言ってはならないと、事務官から伝えられていた。

まあ、そのような事を言う必要もない。


素晴らしい機体に、整備員。高い給与、そしてパイロットは非常に大事にされている。

官舎まで与えられているのだ。

家族ごと世話になっているのだった。


ただ一つ文句を言うとしたら、連邦の帝国への当たり方である。

連邦は、日本に対して冷淡な態度であった。


だがそれも、仕方がないと言える。

そもそも、日本の姿勢が非常に曖昧なものであった。

戦争の開始は米国の策略であったが、目的がはっきりとしていなかった。

石油を得たいのか?領土を得たいのか?ただ敵を打ち払いたいのか?


天皇を中心とする政治体制だが、戦争戦略において天皇の出る幕は無いのである。

天皇はそもそも平和であればよかったのだ。

戦争は軍人が遂行するのだ。


この国の法王はかつて帝国軍人であったが、第一次太平洋戦争を強く継続せよと上層部に訴えていた。しかし、天皇は断固拒否したのである。

そして、軍を追放されるのである。


その結果、自らが頂点となって戦争を開始するというととんでもないことを始めたのであった。

逆に言うと、この法王を棄てたために、自由を与えてしまったということであった。

今や、この法王は、自らを神と名乗り世界と戦っているのである。

(この時点でも、天皇は人間宣言をしていないので、神として帝国に君臨している)



「村田隊長、敵の戦艦が見えませんが」

「うむ、それは儂も気になっていた、情報では、大和に匹敵する戦艦が存在していると聞いていたのだが」


村田と高橋は無線で交信している。


「だが、チャンスでもある。とにかく空母を沈める。テ式誘導魚雷で徹底的に攻撃する」

実は、開発されて使われていなかった新型魚雷であった。

一度使うと敵も開発を始めてしまうからと使われずに隠されていた新兵器である。


この新兵器により攻撃機搭乗員は非常に安全に攻撃できることになった。


以前の魚雷でも、音波探知で敵艦のスクリュー音を追うように作られていたが、今回の兵器はそれに、音波探信もついている。

数キロ離れたところから投下しても、どちらかにより当たるようになっていた。


魚雷攻撃により水柱が上がり始める。

その艦めがけて、急降下攻撃が始まる。

これが新雷爆同時攻撃であった。(名前は同時となっているが明らかに魚雷攻撃から始まっているが、旧帝国の飛行機乗りはそう呼んでいる)


輪形陣の外周の艦が次々と被雷して行き足が止まると急行爆撃の洗礼を受ける。

米国機動部隊は次々と外周の艦が撃沈破されていった。


無理に輪形陣の中の空母攻撃する必要は無かった。

それだけの攻撃隊が空におり、止めるものは無かった。

直掩戦闘機も、連邦の戦闘機隊に完全に封じられていたのである。


「外周を食い破ったら、次は空母だ!」

米国艦隊にも新兵器VT信管が供給され航空攻撃に対する防御力を上げていたが、この遠距離からの攻撃にどうしようも無かった。


そして、ついに敵空母にも被雷の水柱が立て続けに起こる。

流星改が防御の緩んだすきに次々と爆弾を甲板にねじ込んでいく。


エセックス級空母が巨大な黒煙に包まれる。

激しい炎が甲板から吹き上がっている。


「よし、次だ!」村田の意気が上がる。


海面の中を航跡も見せず酸素魚雷が航走していく。

そして、スクリュー音を捕らえると急速に進路を曲げていく。

海中には、不気味な酸素魚雷が複数獲物を探し回っていた。



「緊急電!法王座上艦が敵の奇襲を受けている模様!制空戦闘機隊は直ちに帰還せよ!」

「制空隊は、直ちに帰還せよ」


攻撃部隊に激震が走った。

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