第184話 熱い戦い

184 熱い戦い


魚雷の爆発は、液相防御により破壊力を減殺された。

そもそもが、巨大艦である。魚雷の2,3発でどうにかできるものではなかった。

そして、その戦艦の内側に、撃破せねばならない艦が守られていた。


流石に、行き足の鈍った戦艦に、急降下爆撃が敢行される。

獰猛な火箭が空を薙ぎ払っているが、米海軍もヤンキー魂を燃やして決死の攻撃に移っている。


数機の僚機が簡単に飛び散るような戦場にありながら、そのうちの一機がついに完全に爆撃を成功させる角度に侵入する。

しかし、それは例の赤色レーザーが眼を焼く角度でもあった。

艦橋や煙突の周辺からレーザーが照射されてくる。

これは、人力で行われているがレーザー発振器自体はそれほど重くなく、油圧で動かせ、尚且つ一瞬でも眼を薙げば問題ないため簡単な防御である。

だが、その威力は絶大であった。


一心不乱に急降下をしている最中に視力を失うのである。

慌てるなという方が土台無理なのである。


「グワ!」眼を焼かれたパイロットはまさに唸る。

残念ながら、この傷は簡単に治らない。

それどころか、今すぐにでも操縦桿を引き上げねばまさしく体当たりするしかない。

一秒で10mも降下している最中なのだ。


<眼を焼かれれば、そのまま体当たりせよ、それこそまさに神の恵みである、汝の侵入角が正しい証拠なのである!神の御恵を!>神聖な声が聞こえるように、ブリーフィングの時の声が思い出される。


「OOOOOOOOO~~~~!」

正に爆撃機の名前の通りヘルダイバーであった。

爆弾を抱えたそれは操縦かんを固定して戦艦に体当たりしたのである。


大爆発が艦を揺るがす。

機体と爆弾。その爆発力で3番砲塔(戦艦の後部砲塔)付近に体当たりしたのである。

主砲こそ小動もしなかったが、周囲の対空火器などに兵員などもおり、大火災が発生する。

「正気なのか!」

艦長がそう呟いたのも仕方がないだろう。

自らの命を賭けて体当たりするなど、無茶苦茶だ。


残念ながら、日本では、皆がこぞって体当たり攻撃を敢行したが、この世界では、機体が高性能かつ爆弾等も豊富であり、練度も決して下がることが無かった航空隊がそのような無謀な攻撃をすることは無かった。連邦海軍の軍人には、気が狂ったのではないかと大いに恐れた。


件の男も、パイロットこそ国の宝であると非常に厚遇し、できるだけ生き延びることが出来るように腐心していたのだ。


その呟いた艦長こそが、大西瀧次郎大佐であるというなんとも言えない状況がそこにはあったのである。(大西は皇国海軍軍人となるべく神聖月読皇国へと渡った帝国軍人の一人)


そして、それが合図であるかのように、米国海軍機の動きが過激な物へと変わっていく。

「神の国へいざ征かん!皆のもの続け!」

爆撃隊長のウリエル・ルイスが叫んでいる。かといって彼が真っ先に行くのではない。

彼は隊長であり、見届け役である。


4機1小隊が一本棒になって急速落下する。その横でも同じ動きをする別小隊。

猛烈な対空砲が次々翼に穴をあけていくが、恐怖を忘れたように、そして爆弾を切り離すことなく体当たりするヘルダイバー。


そのほとんどが、途中で爆発するか、攻撃によりそれるかするが、数機がまたしても戦艦に直撃する。猛烈な爆炎と煙が戦艦を覆いつくす。


攻撃機隊のガブリエル・フランシスもそれを見て叫ぶ。

「今こそ、止めを刺せ!全機攻撃を開始せよ!」

既に攻撃は始まっていたが、今始まったかのような発言である。

「魚雷を抱えてできるだけ接近せよ、そのままぶちあてろ!」


狂気に彩られた命令が飛ぶ。

これに度肝を抜かれたのは、英国の攻撃隊である。

何を狂ってやがる!

英国空母も攻撃に参加していたが、如何せん攻撃機は複葉機のアルバコアであった。

そして、狂気の作戦会議にも隊長こそ参加したが、その狂気は、英国海軍には持ち込まれることは無かった。(伝染しなかったのである、同じ神を信仰していても英国の場合は英国十字教会であって、若干の差異があったためなのかもしれない。それとも個人の資質なのか)


当初500対6と圧倒的に有利に見えたこの戦闘であったが、超大和型の対空防御は凄まじく、次々と航空機が墜落していく。


それでも、バルカン砲の合間を縫って、次々と発射される魚雷。

そして、急降下爆撃が徐々に被害を拡大していく。


それでも、致命傷までは到底届かない状況であった。

すでに半数の攻撃機が海へと散って逝った。


「全軍で同時突撃をかける、全軍突撃せよ」ついに攻撃部隊の隊長が狂いだした。

今迄は、状況をみつつの波状攻撃であったのだが、有効打を出せていなかった。

3隻の戦艦から黒煙が上がっているが、輪形陣中央の戦艦はまったく無傷であった。

中央の艦に攻撃をかけようとすると、後続艦から物凄い対空攻撃を受けるため、いずれの航空機も外側の艦しか攻撃できなかったのである。


そして、攻撃機の魚雷はすべて輪形の外からしか発射できず、その魚雷も当たるものはすべて僚艦(外側の艦)が受けるという対応をしているのだ。


身を挺して法王座上艦を守っているのである。

数発の魚雷を食らいながら、未だ傾きが見られないという驚異的な粘りを見せていた。

艦内の防御構造の強さと排水機能、消火機能が断然優れていたということである。


「我々はそのような攻撃に参加できない!」英国海軍航空隊の隊長が文句を言う。

「神の栄光を穢す訳にはいかない。臆病者にかまわうな、全機突撃せよ!」

ガブリエル・フランシス大佐、ウリエル・ルイス大佐も全機に攻撃を命令する。


それは死の突撃となる。

『神風飽和攻撃』第二次太平洋戦争で、最初で最後の攻撃であった。


「うわあ~~~~~~~~~~!」

「OOOOOOOOO~~~~!」

「マイガ~~~~~~~~~~!」

敵味方全員が絶叫していた。

航空機が猛烈に上と横から突っ込んできて、戦艦は対空砲を銃身も砕けろとばかりに撃ちまくる。


周囲一帯に爆発が発生する。

航空機が火だるまになり、火砲が猛烈に火を吐き続ける。

火だるまになった敵機が、戦艦に体当する。


爆発と火炎と煙の中で人々は燃え上がる。

正に燃えていたのである。


本当に熱い戦いが繰り広げられていた。



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