第183話 激戦
183 激戦
上空から遥か水平線に敵の戦艦部隊が見える。
「おお~~~、まさに提督の指示通りだった。敵の戦艦が進んでいるぞ」
攻撃部隊の隊長が、興奮して声を出している。
レシーバーからは皆が大声を出しており、よくわからないほど興奮していた。
「神の祝福を!」
500機も存在する攻撃機部隊、負けるなどとは露とも思わなかった。
しかも、敵は奇襲攻撃を行うために直掩戦闘機がいないのだ。
好き放題攻撃できる!
「雷撃機部隊は左右へと展開!爆撃機部隊は、高度1万5000フィートまで上昇せよ!」
その時、海上の戦艦がパパパと光ったのである。
射程50Kmを誇る主砲が発砲を開始したのであった。
・・・・・・・・・・・・
「撃ち~方始め!」田中艦長の命令一過、第一砲塔、第二砲塔が連続的に砲弾を発射する。
テスラ・インスツルメント社製のコンピュータが数字を弾き、ほぼ自動で照準を合わせた主砲。
信管の調定も自動であり、さらにTT信管(テスラタイマー:所謂VT信管である)を搭載している。
既に、時代は件の男の一発必中すら過去のものにしようとしていた。
三連主砲はドドドン、ドドドンという号砲を鳴らして、ものすごい衝撃で艦を揺さぶる。
一斉射と言えどもわずかな時間差は存在するため、このような音になる。
艦橋は発射煙に包まれても、レーダーは敵の動きを追随している。
煙が晴れる前でも、装填が完了すればまたしても発砲する。
ドドドン、ドドドン。
輪形陣を組みつつある、僚艦も同様に射撃を開始する。
・・・・・・・・
大空に炎の帯が流れるように火炎が吹き荒れる。
サーモバリック砲弾は恐ろしい速度で、物質を気体にして体積を膨張させる。
それに点火されると爆轟が発生する。
3000度の焦熱地獄が辺りにまき散らされる。
三式砲弾は、りゅう弾砲であり、爆発して焼夷弾子を猛烈にまき散らす。
編隊が次々とそれに飲み込まれる。
焼夷弾子が機体に次々穴をあけていく。
高温燃焼ガスは、機体を焼き、燃料のガソリンを爆発させる。
阿鼻叫喚の地獄である。
サーモバリックの恐ろしいところは、爆発の後に発生する衝撃波を恐ろしい効果も生み出す。
衝撃波が機体を破壊する。
完全燃焼後の空間では酸素がないためエンジンが止まる。
レーダー連動の砲撃は第二斉射を開始する。
目視による計測よりもはるかに正確であった。
TT信管は金属を探知すれば自動的に発火する。
第二斉射でも、大編隊を見事にとらえていた。
「各隊直ちに分散せよ!」
あまりの惨状に隊長が悲鳴に近い命令を下す。
第三斉射時には、各攻撃機部隊は拡散し始めていた。
それでも、次々と発砲してくる。
既に数十機が撃墜されていた。
「攻撃機隊は回り込め、爆撃機隊は上空で分散、タイミングを計れ!」
雷撃機が左右へと別れ、小隊ごとに散らばって回り込んでいく。
爆撃機隊は、艦隊上空へと遷移しそのすきを窺う。
だが、爆撃機隊の高度は低すぎた。
戦艦群の対空兵器はその当時でも過剰なほど載せられていた。
それは、満載といえるほどである。
初期の大和に対空兵装があまり無かった頃は、甲板は割とすっきりとしていた。
しかし、これらの超大和型は、隙間があればなんらかの対空兵器を載せられるのではないかと試行錯誤されていた。その結果として、機銃や対空砲が乱立するハリネズミのような状態になっていた。
そして、大和にはなかった5インチ両用砲の列が舷側には載せられている。
そのハリネズミが本領を発揮する。
曳光弾が空を走る。次々と爆発が起こる。
恐るべき対空砲火が空を塗りこめていく。
ボフォース40mm四連装砲も次々と爆撃機を狙う。
そして極めつけは、戦艦の前後左右につけられたドラム缶のような何かである。
高速で曳光弾を吐き出しながら空を薙ぎ払うのだ。
インカムには味方の絶叫と悲痛な叫びが満ちる。
「もっと高度をとれ!」
「ウワ~~~」
「早く雷撃攻撃で隙を作れ!」
圧倒的に有利なはずの戦いだったはずが、既に違う様相を呈しつつあった。
低空に侵入した雷撃機が雷撃開始地点へと高速で侵攻していく。
その距離は700mほどである。
しかし、それに機銃とドラム缶が反応した。
ドラム缶はレーダーにより攻撃を開始する。
次々と、雷撃機が撃ち落とされていく。
「なんだ!あれは!」
攻撃部隊の隊長が唸るのも無理はない。
異常な火箭の強さである。
「もっと低空で侵入せよ!」
しかし、彼らは帝国軍人のような異常な訓練を受けたわけではなかったのだ。
吃水線以下に入れば大丈夫なはずだった。
しかし、この戦艦の思想は、それすらも打ち砕く。
0度よりも下に射撃できる機銃を備えていた。
「ダメだ!とにかく、遠くからでも魚雷を投下せよ!」
多くの機は、まだ攻撃に参加せず隙を狙っていたのだ。
しかし、第一波は完全に失敗したのである。
だがこの時、何かが起こった。
攻撃機隊長に何かが降りてきたのである。
「戦士たちよ死を恐れるな!神の国に向かうのだ!さあ、吃水以下の高度で果敢に攻撃を連続して、行なうのだ!猿の悪魔などにこの世界を穢させるな!」
それは、今までの隊長の声色では全くなく、別の物であった。
「さあ、征け!神の戦士たちよ!」
多くの隊員がその言葉に反応した。
海面すれすれを高速で滑空を開始したのである。
しかし、技量が足りていない機が波をかぶり、水面で激しくクラッシュする。
「投下!」それでも複数の機が魚雷を接近して投下する。
その直後に、ドラム缶に蜂の巣にされ爆発する。
既に、150機は撃破されていたが、この猛烈な雷撃によりさらに撃墜数は跳ね上がる。
魚雷を投下しても、戦艦を飛び越えることはできないほど濃密な弾幕が攻撃機を破壊していく。
魚雷が海面を滑走していく。
「対魚雷防御!」
「対魚雷防御!」
戦艦の舷側から何と、大量の爆雷が投射される。
戦艦の30m手前で水柱が次々と立ち昇る。
何発かの魚雷がそれに捲き上げられる。
それでも、ついに数発の魚雷がそれらを掻い潜り、戦艦の舷側で爆発する。
激しい水柱が立ち昇る。
「ヤッたか!」
しかし、戦艦は何事も無かったかのように動き続ける。
やはり超大和級。数発の魚雷程度ではたいした効果を発揮できないのであった。
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