第187話 大海嘯(タイダルウェーブ)!

187 大海嘯(タイダルウェーブ)!


しかし、現実は厳しい。

このサ式砲弾はとにかく米第5艦隊にとって厄介であった。

あてる必要がないからである。

兎に角近くに撃てば、被害は広範囲に及ぶ。

連続して、『モンタナ』の周囲で爆発の火球が発生し、艦橋のガラスに罅が走っている。

甲板要員の多くが火災やその他の理由で死んでいる。

火のついた兵員が海へと身をおどらせる。


ガン!敵主砲弾が第二砲塔を叩いて、はじけ飛んでいく。


正に、神の国が今崩れようとしていた。

敵の裏をかいて攻撃を仕掛けたはずだったが、既に夾叉されている。


絶体絶命とはこのことである。

敵の主砲は、こちらを簡単に貫くことが出来る。

それは『オハイオ』を撃沈した砲撃でもあきらかであった。


そして、もはや猶予は無かった。

「神の国、神の国を揺るがすことなど許されぬ」

ハルゼーの声はすでに人間のそれではないように響いた。


「ええい!神の力を顕現する!」

「司令どうしたのですか!」

「黙れ、貴様らが無能な所為せいで、このような事態になるのだ!愚か者どもめ!」

虫けらでも見るような燃える赤い冷酷な目。


副官が恐怖で固まる。


「我は求め訴える!根源なる力を示せ!大いなる神の力を示し、神を称えん。大海嘯(タイダルウェーブ)!」

それは超常の力いや、神の力の発動である。ハルゼーの全身から地獄の炎のような青白いオーラが湧き起こる。


海面が大きく盛り上がる。

ゴゴゴゴゴゴゴ~~~~~~~~~~~!

巨大な水の壁が盛り上がり、それは、聖書の奇跡のように巨大な波へと姿を変えて、米国戦艦を飲みこむように突進してくる。


「最大船速!」ハルゼーは絶叫し、舵を握る。

ゴゴゴゴゴゴ~~~~~~~~!

巨大波の轟音がすぐそばで聞こえる。

艦橋の人間は恐怖で全員が固まっている。


『モンタナ』は今、巨大波に乗っている。

史上初の波乗り戦艦、グーフィーモンタナの誕生(爆誕!)であった。



・・・・・・・・・・・・・・・・


数十メートルの巨大波が迫ってくる。

そして、あろうことか戦艦がその波に乗っている。


「馬鹿な!」連邦艦隊戦艦部隊では驚愕の声に包まれる。

「一体何の心算だ!」件の法王が吐き捨てる。


いくら巨大な戦艦と言えども、巨大波を食らえば破壊されるだろう。

破壊を免れるとしても転覆すれば、大被害を被ることになる。


巨大波の壁が押し寄せてくる。

そして、巨大波に『モンタナ』が乗っている。ありえぬ!全くありえぬ。


「全艦!波に直角に艦を動かせ!」法王が命令を下す。

「主砲一番二番仰角60度!」

「右プラス2度!」


もはや、波からの回避は不可能であった。

波に乗るには、方向が反対であり、回頭してさらに全速力で走らねば波を捕まえることは不可能である。

それに、波がしらが巻き込み始めると乗ることも不可能になる。

そもそも、戦艦で波に乗ること自体が常識外のことなのである。


だが、敵はそれを行っていた。

正に、神の奇跡、モーゼが海を割って渡ったように。

ハルゼーは、巨大な波を『モンタナ』で乗って見せたのである。

これは、聖書にしるされるべき奇跡であった。

十字の神は今奇跡を示して見せたのである。


そして、それは連邦戦艦部隊(遊撃打撃艦隊)を窮地に追い込んでいた。

波は、戦艦を飲み込み、必ず転覆させるからである。


これぞ一発逆転の奇跡というやつである。神は偉大なり!


「死ね!黄色い猿どもが!」

ハルゼーは驚喜絶叫していた。




・・・・・・・・・・




聖書の神は中々に苛烈な神である。

信者と言えども容赦がない。

というよりは、自分の信徒には容赦がないのである。

堕落したら硫黄と炎を降らして街を壊滅させる。

信者の信心を試すために、腫瘍まみれにしたりする。

極めつけは、世界を水で満たして、ほとんどの人類を壊滅させたりする。


聖書では200万人の人間が神の怒りによって殺されているらしい。

悪魔が殺した人間の数は10名であるという。(洪水被害もいれれば2000万人にもなるという)

その200万人は悪魔にそそのかされていたのかもしれないが、いかに神が烈しいかを示しているのでないだろうか。どちらかというと神の方が恐ろしいかもしれない・・・。


そして、絶対にこれを守れと、石板を与えてくれたりするのだ。


簡単に言うと無能など必要ないと言っているような気もするのである。


『モンタナ』以外の艦は巨大波に乗れず、転覆させられていた。


そして、米国本土、それは突然起こったのである。

ニューヨークの人々に不幸は突然訪れた。

巨大な人型が空に現れた。そして意味不明な言葉を放った。

ほとんどのすべての人々にはその言葉を理解することはできなかったのではないだろうか?

古代の言葉であったからである。

「我が国の礎石となれ!」拒否すればそれは回避できたのである。

しかし、多くの人々は空を見上げて「神よ!」そういっていた。


その声は、肯定を意味するととられても仕方が無かったであろう。

「神よ!」そういって人々は電池の切れたように倒れ伏した。神の国に召されたのである。


『ニューヨークの受難』と呼ばれる災害が発生した瞬間であった。

受難、いや殉難者の総数は10万人に上ったという。

彼等は、神の奇跡を起こすための殉難者であった。

神の国を守るために命をささげたのである。


全員が『聖○○』という聖人認定されるべき人人であった。


ここでは簡単に述べるが、奇跡の代償として10万人の信者の命が捧げられたということである。


某カードゲームでいうところの『〇〇を生贄にして、タイダルウェーブ発動』であった。

正式名称は「殉難」、略称「生贄いけにえ」であった。


奇跡の御業の代償は決して安くはないということである。


・・・・・・・・・・・


「クリア!解除!エンド!凪げ!」

必死で魔術を使って大津波を納めようと、キーワードらしきもの連発している件の法王。

しかし、敵対者の巨大魔法は解除されない。

周囲の人間はその奇異な行為を冷めた眼でみていた。


彼は、一部海域を自在に操る能力をある神から手にいれたのであるが、今回その能力は発揮せれないようだった。


「水密ハッチを閉鎖!」艦長が開口部の閉鎖を急がせる。

「全員艦内に退避!」艦の外には、機銃などの要員が複数いるのだ。


ゴゴゴゴゴゴ~~~~~~~!

巨大な波が襲い来る。

遥か上方に、波の乗りモンタナが見える。


「クソ~~~~~~!」

法王は、悔しさから絶叫した。



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