終章3話

終章03


「この神聖月読皇国の建国、そして世界平和の実現を祈念するため、今より西暦(ADアンノドミニ)を廃して聖歴(SDサンクタス・ディイ)を採用することとする、連邦諸国並びに同盟各国はこの聖歴を使用するようにせよ」

聖歴は、すでに皇国で使用され始めていたが、ここに至り、連邦標準とすることを決定したのである。


「法王猊下バンザ~イ!」

いつものごとく紛れ込んだサクラ叫ぶが。


その時、声が上がる。

「あまりにも不敬!」アナスタシア王妃が叫ぶ。

座っていたはずの王妃が突如、飛鳥のごとく撥ねた。


それは、物理法則を無視したような、動きである。

現代の戦闘機パイロットが脱出するような動きとでも言うのであろうか。

そして、その手には、十字架から伸びた刃先が赤く光る獲物。


飛び出した王妃が横へとスライドするような動きと共に、刃先を法王へと送り込む。

「馬鹿な!」流石の法王もこの奇襲に後手を踏む。


グサリ!十字架の剣が、串刺しにする。

しかし、それは、法王の弟、ダンの体だった。

ダンが機先を制して、法王に覆いかぶさっていたのである。

「グオ!」くぐもった呻きが上がる。


場内に悲鳴が上がり、親衛隊が動き出すが、距離が遠い。

法王は、アナスタシアの手首を叩いて剣を離させ、投げ飛ばす。


「不敬!不敬!不敬!」アナスタシアの顔は別人のようなそれであり、不吉な声を挙げていた。眼が真っ赤に燃えており、その顔は男のようにも見えた。

法王は、アナスタシアを気絶させる。


アナスタシアの吊り上がった口がようやくもとに戻る。

「拘束しておけ!」

「は!」


「大丈夫か!玉兎」傷は、玉兎の背中から胸を貫通しており、十字架の剣は確実に臓器を傷つけていた。

傷口から大量の鮮血が溢れ、その口からも血が流れ出す。

致命傷であることは間違いなさそうだった。


「玉兎しっかりしろ!今すぐあれを使うから!」

「駄目だよ兄さん、もう数がないだろ。最後の一つは兄さんの為にとっておかなきゃ」


無理に笑顔をつくる玉兎の顔色は蒼白で、もうすぐに死ぬであろうことを予感させる。


そうなのだ、当初、例のいかれた秘薬は10あったのだと言われている。

そして、その第一の実験体は、山口 一。まったく変わらず今も剣を振るい戦闘機にのるという状態にあった。

第二実験体 乃木勝典。ほぼ死亡から蘇えり、今も健在、連邦陸軍の指揮官として働いている。

第三実験体 テスラの兄ダン(咲夜玉兎)。墓に存在した白骨に使われた。その時魂が飛び去り、なぜか、玄兎の母が身ごもり、産み落としたという。所謂転生者となった。


そして第四 有栖川宮栽仁王(たねひとおう)

第五 ルドルフ・ディーゼル(自殺後使用 ウォルフガング・ディーゼルに改名)

第六 マンフレート・フォン・リヒトホーフェン(戦死後使用)

第七 ニコライ2世(元ロシア皇帝)(イパチェフ館で死亡後使用)

第八 ミハイル・トハチェフスキー(粛清後使用、ミカエル・トハチェフスキーと名乗る)第九 トハチェフスキーの妻(トハチェフスキーのペルシャ皇国の譲与の褒賞として復活)


とこのように、使われてきた。弟である。玉兎(ダン・テスラの魂)は知っていた。

そう、残る霊薬は一つしかないのだ。


「馬鹿野郎!お前が死にそうなのに、ほっとけるわけがないだろう」

この時ばかりは神のフリも忘れ、人間らしい反応を見せている法王。


「兄さん」玉兎は涙を流しながら、ぐったりしてくる。

「大丈夫だ、今すぐ、治してやるからな」法王はどこからともなく薬包を取り出して、血が噴き出す傷口にその粉末をかける。


たちまち傷口がふさがり、玉兎の顔色も真っ青な顔色から血の気が戻ってくる。

霊験あらたかな秘薬の効果は物凄いものであった。


その時、会場に聞きなれない音が響きわたる。

それは羽根音であった。


「なんだあれは!」

その指先が指し示す空には、巨大なカマキリ数十匹が飛来してきていたのだ。

巨大とは、人間と同じ程度の大きさである。


嘗て、生み出された巨大昆虫などが存在した。

彼等は、謎の十字架の力により生み出された化け物である。

その一匹は行方不明になっていた。


「三上!」

嘗ての帝国軍人が一人、カマキリとなって逃亡していたことが有る。

未だ、行方不明だったのだが、どうやってか、この会場にやってきたのである。(旧シドニーである)


「ギシギシ」

「法王猊下を守れ!」

彼等の目的は間違いなく、法王であった。


山口は抜刀し、カマキリと切り結ぶ。

カマキリの鎌は恐ろしい武器である。

会場のあちこちで軍人対カマキリの戦いが起こる。


「玉兎、しっかり隠れて居ろ」玉兎は技術者なので、戦闘は得意でないのだ。


「シネシネ、ギギギギ」なんとも不気味なカマキリ顔の半分が三上の顔の名残が残っている。

どのような罪を犯せばこのような物になるというのだろうか。


三上の鎌が法王を襲うが、それは剣で受けとめられる。

「貴様ごときが、我に適うはずがないだろう!」


金属音のような音が響き、剣をはじく鎌。


「ギギギギ」


鎌は金属並みの硬さを誇るようだった。

しかし、法王の剣は、見えない速度で動き、鎌を撃つ。

ボトリ、鎌の部分が関節ごと落ちる。


関節の節目に剣先を撃ち込んでいたのである。

そして、片方の鎌も、ボトリと落ちる。


「ギギ!!!!!!」

法王は昔、日本鬼子として敵兵、民間人などを多数斬殺した剣鬼である。

三上はまたしても逃亡しよう羽根を広げる。


「無駄だ!」法王が即座に距離を詰めて、カマキリの胸を刺し通す。

真赤な鮮血が飛び散る。それは人間であった時の名残なのか。


「ギ!」カマキリはついに倒れた。

「兄さん」玉兎が走り寄ってくる。


会場内のカマキリたちはほぼ制圧されつつあった。

流石に、ルナティクスである。


「大丈夫だったか」法王は玉兎を抱きしめた。

「はい」


その時、法王の背中に剣が生えた。

「あ!」


剣先は真っ赤に濡れていた。

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