第57話 イパチェフ館

057 イパチェフ館


男は、服装をロシアの民間人から略奪したものを着て、街中をあるき回っている。

彼の顔は、西洋人でも通じるほど彫りが深かったので疑われることなどない。


そして、そのイパチェフ館はすぐに見つかった。

もともと、イパチェフさんが住んでいた建物を強制収容したらしい。


その瀟洒な建物は、今や高さ4mほどの木の柱により空間を仕切られていた。

扉や、木の壁の前には、赤軍兵士が何人もいる。


彼等のほとんどは、ポポフ館と呼ばれる館に駐屯している。

しかし、イパチェフの中にも常駐している兵士たちもいるとのことだった。

これらの情報は、建物の中へ食料などをもって行ったことのあるおばさんから教えてもらった。


ポポフ館には、50名はいるらしい。

そこでは、風紀が乱れているのは当然のことである。

乱れない方が珍しい軍隊なのだ。


イパチェフ館の上の階の窓に機銃座もあり、監禁されている住人と外からの訪問者を狙っている。

始めの頃は、木の壁もなかったそうだが、日を追うごとに隔離は進んでいったようだ。


しかし、討ち入りとなれば、今回特別参加の元隊士が腕を振るうことであろう。


白衛軍がエカテリンブルグにまで攻め寄せて、王家を救出されては、色々と面倒なことになる。

実際、白軍が寄せてきていた。

共産党は、彼らの抹殺を決定する。

そして、チェーカー(秘密警察)に命令が下ることになる。


そうなる前に、奪取しなければならなかった。

勿論、死体を掘り起こすという方法もあるが、変なものに変化されても面倒なのだ。

そろそろ、怪人はやめてほしいものだ。



だがその頃、怪人遊びを楽しんでいた彼らに大変な事態が勃発していたのである。

そう、任務が失敗に終わり天界へと帰還したトビウオは、神に失敗を謝罪しようとしたのだが、その時猛烈な違和感に襲われる。

<グググ、頭ガ割レル!>

猛烈な頭痛が彼(トビウオ)を襲う。

何かが今にも飛び出さんとしているような感じをもった。

その時、トビウオの頭がさく裂した。

カウンターマジック(呪詛返し)が発動し、彼に仕掛けられた、神をも切り裂く神狼フェンリルの牙が、ポセイドンを襲ったのである。

「あっ!」ポセイドンは危険を感じてとっさに飛びのいたが、その牙は、ポセイドンの左肩に食い込んだのである。

「ギャアア~」

神である彼は即死こそ免れたが、その牙の攻撃力は、神をも侵食する。

苦しみのあまりのたうちまわることになったのであった。

しかも、一切の治療が効かないという、呪いまで入っている。


神は不死身だが、殺されることはある。

そして、痛みのあまり殺してくれと懇願した神もいたかつていた。

今、彼は、そのような状態に直面していたのであった。


・・・・・・・


ポポフ館では、女を買うことも許されていたので、手を回して、女に薬を渡す。

「あれの時に飲むとすごくいい。皆に飲ませろ、いい仕事をすれば褒美を渡す」と女に金をわたし、ポポフ館にいかせる。

その薬は、猛毒だ。

しかし、娼婦の女から飲めと言われたら飲まずにいられはしまい。

酒にも入れろと言っておいた。

食事がかりにも、渡しておいた。


怒号と悲鳴、破壊音が響く。

一体何が起こったのだろう。


ポポフ館に入ると、地獄のような状況だった。

眼を剥いて血を吐きながら死んでいる男女、食事を吐き出して突っ伏している兵士たち。

辺り一面に死体とそのなりそこないが折り重なっている。


「念のため、慎重に確認しろ」冷酷な声で命令を発する男。

秘密警察の兵士なのか赤軍の兵士なのかはわからないが、彼らは一人一人、刀でとどめを差された。

後は、イパチェフ館の兵士のみである。

彼等の衣服の代わりを棚から引っ張りだして着ていく。


だが、そんなことをしていたころ。夜中だったが、トラックが一台やってきたのだ。

「え?」さすがに、まだ早いだろ。時期には十分余裕を持たせたはずだったのだが。


しかし、トラックには、銃殺部隊が乗り込んでいた。

「御苦労さまです」ロシア人がそのような挨拶をするのか知らないが、衣服だけは赤軍の我々は出て行って敬礼する。

「お前たちは、外で見張っていろ、本日執行する」

「は!」私は敬礼した。因みにロシア語喋れるのは私しかいない。

他は、皆日本人だが、モンゴロイドなら山ほどいるから問題ないはず。


彼らは、扉を開けさせて邸内に侵入していく。

我々は、素早く、外の兵達をナイフで刺殺して、準備をする。


そして、再度扉の前で開けろと命じる。

「なんだ、」

「我々も見学したい、今日は楽しい催し物だと聞いている」

「ふん、そうなのか。待て開けてやる」


実に簡単に開けてくれる。

何度も言うが、彼らの士気は下がるためにあり、すぐに風紀は乱れるのだ。


「礼をいう。とっておけ」

怖ろしい白刃が、その兵士の首元を襲う。

もう一人の兵士には、山口の豪快な突き一閃。

声を出せずに二人が始末される。


見張りの機銃座があったはずだが、兵士はいなかった。

既に中に入っているのだ。




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