第22話 民間軍事会社
022 民間軍事会社
「おい!軍夫の貴様!」
「はい、なんですか」大人の相手は、山口である。
「貴様ら、昨日の戦闘について大隊長殿に説明せよ」
どうやら、少しエライ人が出てきたようだ。
大隊長殿の天幕。
「この銃がな」
偉い人は、我々の銃を
「これで本当に、数百メートル先の敵を撃ち殺したのか?」
そもそも、嘘を言ってもしょうがないのだが。
「この銃は、わが社が開発した連発式ライフル銃、試作型モデルX07です」
「わが社とは、櫻銃砲製作所です」
「自転車屋から鉄砲を作り出した東北の会社のことか」
このエライ人がなぜその事情を知っているのかはわからなかったが、悪名も無名に勝るというものだ。
何もわるいことはしてはいないが。
自転車は順調に売り上げを伸ばしているが、高価格品なので、飛ぶように売れるという訳にはいかない。それに、工作機械は、銃製造のために多めに買い付けて居たりするのである。
何せ、自転車税(自動車税ではない)がかかる時代である。
金持ちしか買えない。
因みに自転車製造は、櫻自転車販売株式会社と登記されている。
税金対策のために、複数の会社が設立され、利益が出にくい体制が作り挙げられている。
最期はタックスヘイブンに逃れよう!
「実は、実戦もこなせるお前達を見込んで相談がある」
「どういうことですかな」
「うむ、貴様らを軍人として戦いに加えたい」
「それはどうでしょうか?」
「銃の腕を見込んでいるのだ」
「我らは、猟師をしているので山岳部では、戦えると思いますが、平地の戦いではどうでしょうか?」
そもそも、命令系統に入ったことが無いので土台無理なのではなかろうか。
「貴様らの銃はかなりの射程があるとのことだったがどうだ」
ちょび髭の軍人が偉そうに聞いてくる。
「さあ、そちらの銃とそうは変わらないと思いますが」
ここらは、大人、山口である。
私なら、『そもそも銃も違うし、腕もが違うので比べるだけ無駄という物でしょう』くらい言ってしまうかもしれない。
だが、飛ぶということに関してはそれほどかわらない。
集弾率の良いものを選んでもってきているのだから、飛ぶ距離はそれほど変わらないだろう。どこに飛んでいくかが予想できるかどうかの差である。
それに、ここにいる者はすべて腕の良い猟師である。
「もうすぐ門がある、そこの城壁の敵を撃ち倒してほしい。」
かなり無茶なお願いだ。城壁の上の兵を下から撃てとは、撃たれてこいと言っているにも等しい行為である。
「儂らは、軍夫として参加しておるだけですからの」と山口が無理な注文をいうので、断ることにしたようだ。
「いくらですか?」その時、私が口をはさむ。
「この子供はなんだ」
「儂の息子です、玄兎静かにしていなさい」そういう設定になったようだ。
「我々は、民間軍事会社、八咫烏部隊のものです。私は営業部長の咲夜と申します」
懐から名刺を取り出す。
「なんだ、民間軍事会社とは?」
「簡単に言えば傭兵のようなものです。お金を積んでくれればそれなりに無理もしましょう」
「おい、玄兎、何を言ってるんだ」父親役を蹴られた山口が慌てる。
「金だと!」
「金です!」
「我々帝国臣民が義務を果たすのに金が必要というのか」
「あなたは、軍から給料をもらっていないのですか、私はそのような軍隊には入りたくありません」
「萬世一系の天皇陛下の為に臣民皆が、命を賭けるために儂は軍人になったのだ」
「では、私たちはその心構えができていないのでここらでお暇を賜りましょう」
馬鹿も休み休み言え。誰が悲しくて、ただ働きなどするというのか。
「命を賭けるべき時に逃げるというのか!」
「私は命を賭けたくありません。軍人の誉高きあなたこそ死を踏み越えて吶喊すべきでしょう」
「ムムム」
「一万円で請け負いましょう。一人殺す毎に出来高で10円。これ以上はびた一文まかりません。今すぐ上司に相談してきてください」
サーベルに手を掛けようとした瞬間。軍人は硬直した。
恐るべき殺気が吹きつけてくる。
その手はなんだ!抜く前に貴様を切り倒す。山口はさすがに、剣鬼である。
しかし、周りのものも殺気が漏れている。そして、荷物の上に座っている少年の眼は、虫けらを見下すような視線で見ていた。
面倒なことを言う下郎を抹殺して、そこらへんに埋めるかと心の中で考えていた。
案外自分には堪え性がないことに気づいた瞬間であった。
ここら辺の荒野なら、一人二人消してもいくらでも隠せるだろう。
いや、東学党の者が殺したというのならだれもが納得することだろう。
「わかった、少し待ってくれ、いや待ってください。相談してまいります」
恐れを知らぬ軍人も自分の命は大事に思えるようだ。
そしてついに、民間軍事会社『八咫烏部隊』が創立されることになった。
非合法?いや、ここは治外法権の土地なので気にしてはいけない。
国内法に民間軍事会社を作ってはいけないという法律があるかどうかはこの際、気にしてはいけない。
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